3-4話 史上ナンバー1のメガネ美人
イストヴィア城の一角にある応接室、そこに集められた異世界転生者である三人。
櫻井剣人、鏑木栄太、そして謎の美幼女イリアちゃん。
改めて彼らを見て、満足そうに頷く公爵様。
「ともかくこれで四人揃ったな。だが今回の転移者は八名の予定だからまだ半分だ。転移者諸君は退屈だろうが、ここで残りの四人が転移してくるのを待って……」
「大変です、クニミツ様!」
――公爵の言葉を途中で遮るように発せられた声。
それと同時に応接間に兵士が飛び込んできた。
「なんだ、騒がしい。何があった?」
「そ、それが大変なのです! あと四名の異世界転移者が送られてくる予定にもかかわらず、なぜか転移の魔法陣の光が消えてしまいました!」
「何だと! いったいどういう事だ?」
兵士の言葉を聞き、慌てる公爵様。
女神の声が聞けるという巫女姫が聞いたお告げによれば、今回の転移で送られてくる転移者は間違いなく八人。
その半分しか送られていない状態で、異世界との繋がりが途切れるなど前代未聞の出来事だった。
「たしかな事は調査中ですが、巫女姫のヒミコ様によると、異世界とのパスが何者かによって強引に切られたようだと……」
「何っ、人為的な妨害だと? うぅむ……そんなことをしでかしそうな奴はあの者しか……いや、まだ断定はできんな。ヒミコには引き続き捜査を進めよと伝えて……」
言いかけて、考え直す素振りを見せる公爵様。
「……いや、転移者の安全は我がイストヴィア家の一大事だ。娘にだけ任せてはおれん。これより調査は我が全面的に指揮を執る! 転移者殿たちの世話は、代わりに誰か……」
公爵様が指示を出そうと周りを見渡したそのとき、タイミングよく背後から声がかけられる。
「クニミツ様。それなら私にお任せください」
そう言って現れたのは一人の女性――フォーマルなローブにマントを羽織り、ワンレンボブの黒髪に眼鏡をかけた知的な印象の美女だ。
魔法使いか文官といった格好だが、腰に下げた剣によって身分は騎士だと分かる。
彼女の身体的特徴からして、異世界人というより生粋の日本人のように見える。
そんな美女の登場に――
「うっひょーっ! これは拙者史上ナンバー1のメガネ美人でござる!」
――剣人の後ろにいた鏑木栄太がはしゃぎ始める。
「おおミオ、いたのか。ちょうどいいタイミング……いや、ちょっと待て」
彼女の存在に気付いた公爵様が首をひねる。
「お主、なぜここにいる? 今日は休暇日では無かったか?」
「はい、お休みです。だから今日は芸術鑑賞してました。こっそりと」
「城の中で芸術鑑賞? しかもこっそりと? うーむ、どういうことだ?」
メガネ美人の語る『休暇の過ごし方』が理解できない公爵様に、彼女は「そんなことより……」と話題を変える。
「クニミツ様、彼らが今回の転移者ですか?」
「そのとおりだ、ミオよ。彼らの世話を頼む。儂は急いで行かなければならなくなったのでな」
「承知いたしました。クニミツ様の命とあらばいかようにも。たとえどんなご奉仕だって、この身をもって全身全霊成し遂げましょう! そう、あえて『何でも』と言わせてください!」
力強くそういうと、頬を赤らめ体をくねくねとくねらせるメガネ美人。
「やーん、言っちゃったぁ♡ ミオ恥ずかしぃ~♡」
そんなメガネ美人の様子に若干引き気味の公爵様。
「う、うむ……。相変わらず言い方はアレだが、その忠誠心は嬉しく思うぞ。ではミオよ、あとは任せた!」
「はい、お任せください」
そして応接間から立ち去る公爵様。
その後姿をウットリ眺めながら、「うへへへ……」とだらしないに焼け顔を晒す彼女。
「あ~ん、クニミツ様ったら相変わらずス・テ・キ♡ 颯爽と去るあの雄々しい後ろ姿! 傍にいればかぐわしく香る、年齢を重ねて熟成された加齢臭! 中年の哀愁を感じさせながらも、その鍛え上げられた肉体は衰えを知らず! まさにこの世の至宝、芸術的ダンディだわ! はぁはぁ……じゅるり……これでご飯何杯だって……」
突然見せるその姿に、周りの人間は若干引き気味だ。
その雰囲気を察し、彼女はコホンと咳をし、一拍置いて挨拶をする。
「……という訳で、キミたちの面倒は私が見る事になりました。イストヴィア魔法騎士団団長、ミオ・ジングウジです。よろしく」
「むむむ、拙者至上ナンバー1のメガネ美人なのに。中身が『おっさん好き』なんて残念過ぎるでござる……。とんだガッカリメガネ美人でござるよ」
彼女の性癖に対して、口惜しさを滲ませる栄太。
その隣にいるイリアちゃんは、あまり彼女に興味がない様子で手持無沙汰にしている。
どちらにも任せられそうもないため、転移者を代表して剣人が彼女に対応する。
「こちらこそよろしくお願いします、ミオ・ジングウジさん……。何だか名前だけでなく、苗字も日本人みたいですね」
「それはそうだよ、元々私は日本人だからね。日本人として名乗るなら神宮寺澪。この世界ではファーストネームで呼び合うのが普通だから、私の事は澪と呼んでね」
「分かりました、澪さん。櫻井剣人です、よろしくお願いします」
そうして剣人はそのメガネ美人――神宮寺澪と握手を交わした。
その時ふと疑問がよぎる。
(……アレ? 神宮寺澪って名前、どこかで聞き覚えが……)
剣人が記憶を辿っている間に、他の二人も自己紹介を始める。
「イリアだよ、よろしく~!」
「拙者はエイタ・カブラギでござる」




