3-3話 怖いです、異世界転移怖いです……
公爵様に促され、剣人が通された応接室には、すでに二人の人物が待ちぼうけていた。
その人物たちを見て、ひとまず胸を撫でおろす剣人。
(とりあえず照はいないな。じゃあアイツは死んでないって事か? いや、まだあと四人も異世界転移してくるって言っていたから、その残りに照がいる可能性もあるけど……)
剣人は改めて二人を見る。
(この二人が俺と同じ異世界転移者か? それにしては見覚えが無いぞ。というより……)
剣人が怪訝に感じたのも無理はない。
そこにいた二人は、とても日本人離れした容姿をしていたからだ。
まずは一人目――。
剣人と同じ白羽矢高校の制服を着てはいるが、白い肌に青い瞳、サラサラなブロンドヘアーの、見るからに白人の特徴を持った少年だ。
それも欧米で持て囃されるようなマッチョな男性ではなく、どちらかと言えば線の細い中世的な爽やかイケメンである。
少女マンガの登場人物だったら『王子系』と呼ばれる類の美少年で、年は剣人と同年代に見える。
(イケメンでモデルみたいなスタイルしてるな。ブロンドの髪にこの容姿って、どう見ても日本人じゃないよな。……でもコイツ、ウチの制服着てるぞ。外国人の生徒なんていなかったはずだけど、コイツも転移者なのか?)
剣人は彼にそんな疑問を抱きつつ、続けてもう一人の人物に目を向ける
二人目――こちらは可愛いフリルのドレスを着た、褐色の肌に銀色でふわふわの巻き髪をした小さな女の子。
見た目は五~六歳の年長児、誰しもが保護欲をそそられるであろう儚げな容姿をしていて、ラノベだったら誰からもちやほやされちゃうような愛され系美幼女だ。
(ちっちゃくて可愛い子だな。それにこの褐色の肌、この子も日本人じゃないみたいだけど……。服装も日本じゃなくこちらの物のようだし、この子は転移者じゃなく異世界の住人なのかな? てか、耳がやけに長くて尖ってるのは何なんだ?)
尖った耳――それは『エルフ』と呼ばれる種族の特徴である。
しかも褐色の肌から判断して、その幼女が『ダークエルフ』と呼ばれる種族であろう事は一目瞭然だ。
とはいえ、あまりゲームやラノベといったサブカルを嗜まない剣人にとっては知らない知識のようだったが。
そうして剣人が二人の様子を伺っていると――。
「あーっ! お主は櫻井どのではござらんか!」
こちらの様子に気付いたブロンドの少年が、剣人の元へと駆け寄ってきた。
自分の名前を呼ぶそのブロンドの少年に、しかし剣人は全く見覚えがなかった。
「まさか櫻井どのも異世界転移を? くっ! 拙者の『爆発してほしいイケメンリア充ランキング第2位』のお主までここに来てしまったら、拙者の異世界主人公ライフが邪魔されてしまう可能性が……」
「ちょ、ちょっと待て。お前誰だよ? オレに外国人の知り合いなんていないぞ?」
「――うほっ! そうでござった。いまの拙者はお主に負けぬくらいのイケメンでござるからなぁ。別人のように姿が変わった拙者を見て、誰だか分らぬのも無理はない」
「……姿が変わった? だったらお前は何者なんだ?」
「フッフッフ、仕方がないから拙者が誰か教えてやるでござるよ」
そこで少年は勿体つけるように間を置くと、フワッとブロンドの髪をかき上げながら告げる。
「拙者の名前は鏑木栄太! アニメ部副部長で、お主とは同じクラスでござるよ!」
「鏑木って……ああっ! えっと……うぅん……?」
ブロンド少年から自己紹介を受けたものの、全くピンと来ていない剣人。
「ぬぁっ! まさか櫻井どのは拙者の事を覚えてないと!?」
剣人の言葉にショックを受ける栄太。
「同じクラスメイトなのに、拙者のようなスクールカースト最下層のゴミなど、覚えておく価値もないというでござるか!?」
「あーいや、鏑木だろ? ちゃんと覚えてはいるんだけど……あまりに今の姿と違い過ぎて、脳が上手く処理しきれないっていうか……」
「なななっ! 元の拙者の姿は脳がエラーを起こすほどブサイクだったとでも言うでござるか!」
「いやいや、姿があまりに違い過ぎて戸惑っただけだって。他意はないから」
「ブサイクイジリなど、今のコンプラじゃ許されないでござるよ! ルッキズム反対!」
「被害妄想強いな! 他意は無いって言ってるだろ!」
「イケメンの言うことなど信用できんでござる!」
逆にイケメン差別になりそうなセリフで憤りを見せる栄太。
だが剣人が戸惑うのも無理はない。
日本にいた頃の彼は、テカテカした黒髪の七三分けで、瓶底のような眼鏡を掛けた小太りの少年。
さらに言動――『拙者』『~ござる』といった昔のオタク口調など――も相まって、まさにオールドスタイルのオタクな人間だった。
それが……これほどの美少年になっていたら、誰だって戸惑って当然だろう。
「つかキミがあの鏑木だとして、どうしてそんな日本人離れした姿になっちゃってるんだ?」
「フフン、異世界転移で年齢や外見が変わるのはお約束でござるよ」
「そうなのか? ……でもオレ、何も変わってないけど?」
「――くっ! 自分に何のコンプレックスもないイケメン野郎はこれだから……! 死ねばいいのに! 死んだけど!」
ガシガシッ――と、悔しそうに地団駄を踏むブロンドの少年。
その様子を見る限り、見た目はすっかり変わってしまったが、確かにあのオタクなクラスメイトの面影を残しているようだ。
そのことに気付いた剣人は、ようやく目の前の美少年が、自分の知ってるあの鏑木栄太なのだと納得する。
(……そうか、異世界転移をすると、こうして姿が変わっちゃうこともあるのか。……待てよ、だったらこの子は?)
剣人はふと、隣にいたダークエルフの幼女を見る。
目が合うと幼女はニッコリと笑った。
……あざと可愛い幼女である。
「えっと……キミは……?」
「イリアちゃんだよ!」
「ああ、イリアって名前なんだ。で、苗字は?」
「イリアはイリアだよ?」
「いや、だから……」
「だからイリアはイリアなの! イリアちゃんて呼んでね?」
「えっと……」
(アレ? この子、本当にただの子供? 名乗ってる名前も外国人風だし、やっぱり俺たちと同じ異世界転移者ってやつじゃないのかな?)
そのイリアという幼女の態度に、剣人は自分が間違っているのかと訝しむ。
(鏑木栄太がすっかり変わっちゃってたから、この子もオレの知り合いで、姿が変わっちゃったのかと思ったけど……どうやら勘違いだったみたいだな。この可愛らしい態度からして本物の子供みたいだし……)
そう結論付けて、うんうんと頷く剣人。
だが――
「ほら、イリアちゃんて呼んでってば! 早く、早くぅ!」
「わ、分かったよ、イリアちゃん……?」
「エヘヘ。ありがと、ケントお兄ちゃん!」
またもニッコリ満面の笑顔を見せる幼女。
見てるこちらの頬が思わず緩んでしまいそうなあざと可愛い笑顔だ。
しかし彼女の笑顔の前に、言葉の方に違和感を覚えた剣人。
(ケントお兄ちゃん……? この子、どうして俺の名前を知ってるんだ? 鏑木はさっきから俺の事を名字でしか呼んでいないから、初対面なら俺の名前を知ってるはずなんてないのに……)
そのことに気付いた瞬間――剣人の背筋をゾクリと冷たいものが走る。
(ま、まさか――! やっぱりコイツ、オレの知ってる人間か! 誰だ、こんな『なりきり幼女プレイ』を平気でやれる奴は? ヤ、ヤバい……誰であってもこれはイタすぎる……)
そんな事実に剣人が戦々恐々としていると――
「おお。転移者同士、もう仲良くなったようだな。何よりだ」
――と、異世界転移者の三人に向かってクニミツ公がにこやかに話しかけてきた。
「フン、拙者はイケメンリア充なんかと仲良くなる気はないでござる!」
「イリアは誰とでも仲良しさんだよ!」
公爵様にそれぞれ返事をする、知人二人の変わり果てた姿を見て――
「怖いです、異世界転移怖いです……」
――剣人は心底怯えてしまうのだった。




