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1-3話 ラノベオタクな幼なじみ

 傷ついた剣人(ケント)を放置し、陽莉(ヒマリ)に続きを促す(テル)


「で、陽莉(ヒマリ)。あの事件がこの台本とどう関係があるのさ? モデルがどうこう言ってたよね?」

「えっとね、この台本を書いた作者――影文乙女(かげふみおとめ)ちゃんって言うんだけど……」


 台本をかざしながら陽莉(ヒマリ)が応える。


「その事件を通してアタシたちの関係を知ったオトメちゃんが、まるで『騎士と姫様』みたいに思ってたんだって。で、そこからインスピレーションを得て書いたのが、この台本の元になった小説なんだよねぇ」

「なるほど、だからボクたちがモデルってわけか」

「読ませてもらったらとても面白くて、アタシもぜひこれを世に広めたいって思ったの。だからその切っ掛けとして、これをぜひ文化祭で劇として発表したいんだよねぇ」

「うーん……劇かぁ……」


 やはり劇に対して気が乗らない(テル)、一度断ろうとして――


(……いや、待てよ)


 ――と、あることに気づく。


「ち、ちなみに陽莉(ヒマリ)、この劇の配役だけど……」

「ああ、それなら作者の子の希望としては、配役は姫がアタシ、主人公の騎士をテルちゃんにやってほしいみたいなんだよね」

「や、やっぱり!」


 陽莉(ヒマリ)の答えに(テル)は自分の想像が当たっていた事を確信する。


(そ、それってつまり……。ボクとヒマリが主演でラブロマンスを演じちゃうって事なのか!?)


 俄然脚本に興味が湧き、パラパラと台本を読み始める(テル)

 そんな(テル)陽莉(ヒマリ)が話を続ける。


「この作者は小説家志望なんだけど、あまり自分に自信が無いみたいで……。色々小説を書いてはいるみたいなんだけど、なかなか世間に発表する勇気が持てないみたいなんだよねぇ」


(うぉおっ! キスシーンもあるじゃないか!じ、じゃあこの脚本の演劇が文化祭の出し物に決まったら……)


「でももしこの本が劇の脚本として認められたら、彼女にとって少しは自信になるんじゃないかと思ったんだけど……」


(うへへ……陽莉(ヒマリ)とキス……。ヤ、ヤバい、想像だけで興奮しちゃうよ!)


「ねぇテルちゃん、ケンちゃん。この本を劇にして文化祭で出来るよう、協力してよ二人とも」

「す、するする! 協力するよ陽莉(ヒマリ)!」


 陽莉(ヒマリ)の提案に食い気味で賛成する(テル)


「わぁあ、ありがとうテルちゃん! ねぇ、ケンちゃんはどうかな?」

「い、いやそれは……」


 (テル)の賛同を得た陽莉(ヒマリ)が、続けて剣人(ケント)からも同意を得ようと話を振ってみたのだが……残念ながら剣人(ケント)は乗り気ではない様子。


(テル)陽莉(ヒマリ)のラブロマンスなんて冗談じゃないぞ! (テル)は俺のものだ、たとえ陽莉(ヒマリ)にだって渡すもんか!)


 どうやら(テル)陽莉(ヒマリ)の関係に嫉妬しているようだ。

 何とかこの提案を却下できないかと剣人(ケント)が言葉をひねり出す。


「う、うーん…………で、でもこれラノベでしょ?」

「え、まぁ、そうだけど……」

「ちょっと恥ずかしくない? ラノベ(これ)を劇で演じるのって」


 剣人(ケント)がそう言った瞬間――ピキリッ! と、陽莉(ヒマリ)の笑顔が引きつった。

 だが剣人(ケント)は否定に必死で、陽莉(ヒマリ)の様子に気付かない。


「やっぱラノベって子供向けってか、オタク向けじゃん? 好きな人は好きなんだろうけど、俺は苦手だなぁ。高校生にもなってラノベは無いよ。どうせやるなら『文学』だったり『社会派』だったり、もっと高尚な作品がいいよね」

「バッ、バカ剣人(ケント)! そんなこと言ったら……!」


 (テル)陽莉(ヒマリ)の異変に気付き、慌てて剣人(ケント)を止めに入った……のだが、もう遅かったようだ。


「――何ですって?」

「――はっ、しまった!」


 底冷えするような陽莉(ヒマリ)の声に、ようやく剣人(ケント)も自分の失態に気付いた。


「ケンちゃんがまだラノベの良さを分かっていなかったなんて……。こうなったら――」


 うつむき拳を握り締めていた陽莉(ヒマリ)は、顔を上げると決意を込めて剣人(ケント)に迫る――。


「こうなったらアタシがラノベの良さを語って教えるしかないですね! それがケンちゃんのためなのです!」

「ま、待て陽莉(ヒマリ)、俺が悪かっ……」

「いいですかケンちゃん? ラノベとは娯楽なのです! エンターテイメントなのです! 確かに文学や社会派な作品は高尚な文芸かもしれない。でも小説は読者が楽しめてこそでしょう? だったらエンターテイメントに特化したラノベ――ライトノベルこそが小説の中で最強なんですよ!」

「ちょっ、ストッ……」


 剣人(ケント)は何とか話をやめさせようとしたのだが、陽莉(ヒマリ)の勢いはもう止まらない。(※以下オタク的早口。読み飛ばし推奨)


「ラノベは求められるものがエンターテイメントに徹しているからこそ、読者と作者、プロとアマの垣根が低い小説投稿サイトなんていう場が成り立ち、多くの作家が切磋琢磨する最先端の文芸ジャンルとして成立しているのです! 今やラノベは子供向けやオタク向けなんて一言じゃ収まらない、老若男女が楽しめるメジャーな文芸にまで成長していると言えるでしょう! 確かに長らくラノベは若者向けの文芸として発達してきたため、子供でも読みやすく書かれることが多く、そのせいで一般小説と比べて低く見られる事が多いかもしれません! けど子供にも読める読みやすい文章と言うのも、美文を書くのと同じくらい難しい技術が必要なはずです! それにラノベ出身の作家が文学賞を受賞することもありましたし、文章力において他のジャンルの小説と比べて劣るというのは先入観だと思いますよ? さっきのケンちゃんのように、ラノベだからと他の文芸よりも低く見て、それだけで忌避するのは偏見であり、古い価値観であり、先入観以外の何物でもありません! それはライトノベルの歴史を遡れば分かることです。例えば――そもそもライトノベルが生まれたキッカケは、1970年代から80年代にかけて若者向けレーベルがいくつも作られ、それまでとは異なる『漫画やアニメっぽいイラスト』が使われるようになったことが始まりとされています。そのころはまだラノベというジャンルではなく、SFやファンタジー、ロマンス小説なとを『若者向け小説』とひとまとめにしていたり、呼び方も『ジュニア小説』『ジュブナイル』『ヤングアダルト』など様々で――――――――――――」


 立て板に水のごとくしゃべり続ける陽莉(ヒマリ)に、思わず剣人(ケント)は頭を抱える。


「や、やってしまった……」


 見ての通り――。

 普段はおっとりとしている陽莉(ヒマリ)だが、昔からことラノベに関しては、このように我を失ってしまう。

 相手がどう思うかも気にせず、とにかくラノベを布教しようと語り尽くしてしまうのだ。

 しかも彼女、ちゃんとラノベの良さを教える事こそが、相手のためだと信じて疑わない。

 この奇行は彼女にとって、普段の思いやりのある性格からくる行動――あくまで善意の行動なのがたちの悪いところだろう。


「どうするんだよ剣人(ケント)。当分終わらないぞコレ……」

「どうするって言われても……」


 (テル)が思わず尋ねるが、残念ながら二人にこうなってしまった陽莉(ヒマリ)を止める手段はない。

 これは気が済むまで喋らせるしかないなぁと、諦めかけていたそのとき――。


「ちょっと騒がしいんじゃないかしら、貴方たち」


 ――陽莉(ヒマリ)たちをたしなめる、救いの声がかけられた。

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