２－１８話 爆破事件の裏側②
「刑事として私は、次の爆破事件の標的となる場所を探そうと色々調べていてね。照が気付いたという七芒星までは分からなかったが、爆破現場が円状になっている事には勘づいていたんだ」
鈴夏から語られる事の経緯――。
確かに照は、連続爆破事件の現場が地図上で魔法陣になっていることに気付いた。
その事に鈴夏も、僅かながらに感じ取っていたらしい。
「だけどその事を上層部に進言しても、『だから何だ？』と跳ね除けられてしまったよ」
どうやら捜査本部では、鈴夏の着眼を重要視しなかったらしい。
だが、その事がどうしても気になった鈴夏は、ひとり次の金曜日――毎週爆破事件が起きていた曜日――にその中心にある学校を訪ねてみる事にしたという。
「学校を尋ねた私は、そこで山本という先生と接見し、事情を話して学校内を案内してもらう事になった」
山本先生と言うのは照たちの担任の教師だ。
眼鏡をかけて痩せぎすの、アラフォーヒステリー女教師である。
「まず人がいるところを探し、山本先生の手引きで学校を巡っていたのだが……。そこで私は、目の前を走り抜けていく一人の少女と出会った。それがまぁ……今考えると照、キミだったのだが」
どうやら鈴夏は、爆破事件の真相に気付き、慌てて陽莉の元へ駆けつける照の姿を見かけていたようだ。
ラノベ部の部室に向かって学校の廊下を駆け抜ける照と、それを追う剣人。
その姿を見かけた山本先生が――
『こら、あなた達！ どうしてまだこんなところにいるの！』
――と二人に声を掛けたそうだが……。
「それを無視してキミは走り去っただろう？ その事に怒った山本先生が、キミを追いかけていってしまってね。仕方なく私も彼女について行ったんだ」
そうして鈴夏が追っていった先は、部室棟として使われている旧校舎。
|照明がついた部屋の中から騒ぎ声と――
『キミたち何をやってるの！ あれだけ言ったのにどうしてまだ帰ってないの！』
――という山本先生の声が聞こえたそうだ。
だから鈴夏は――
『おい、いったい何があったんんだ！？』
――と声を掛け、開いていた扉から部屋の中を覗き……。
「――私が覚えているのはそこまでだな。おそらく次の瞬間には、爆破に巻き込まれて死んでしまったのだろう」
これが鈴夏が爆破事件に巻き込まれた経緯だという。
どうやら鈴夏が部室を覗いてすぐ、あの爆発が起きたようだ。
「それから――気づくと真っ白い空間にいた。そこで変な少女と出会い、死んだと言われ、あっという間にこの世界に送られていた。この流れは照と同じだな」
鈴夏の言う『変な少女』と言うのは、照も死後に出会った女神ニンフィアの事だろう。
一気にそこまで話した鈴夏は、大きく息を吐き一拍置いてから話を続ける。
「あとは……体が若返ったのは、私にも理由は分からない。もしかしたら久々に高校というものにやって来て、気持ちが少し若返っていたからかもしれないな」
「まぁ異世界転移で若返るのは、定番というかお約束ですからね。だけどそうか、鈴夏さんもあの場にいたのか……あれ？ でも……」
鈴夏の話を聞いて、疑問が募っていく照。
（じゃああの場には山本先生もいたんだよね？ だとしたら先生はどうして異世界転移してないんだろう？ それにヒマリ……は助かったとしても、剣人や乙女ちゃんは？ 姿が見えないという事は助かったのか？ それとも……もしかしてこの中の誰かが姿を消した四人目の転移者……？）
そう照が考えを巡らしていると――。
「これで私の事は全て話した。――次は朔夜、キミの番だな」
今度は鈴夏が朔夜に問いただし始めた。
「キミがあの高校の生徒なのは、キミが着ていた制服で分かる。だが君はどうやってあの爆発に巻き込まれたんだ？ あのときキミのような生徒は、傍にはいなかったと思うが……？」
「……私は死んだとき、ラノベ部の隣にあるアニメ部の部室にいたわ」
鈴夏に続いて、朔夜は自分が死んだときの状況を語り始めた。
「あの日、生徒会に『アニメ部が文化祭に卑猥な展示をしようとしている』というタレコミがあったの。だから生徒会長として、アニメ部の部室に視察に行ったのよ」
そして朔夜が訪れたアニメ部の部室は、タレコミ通り――いや、それ以上の状況だったそうだ。
水着や下着しか身に着けていない、あられもない姿のアニメキャラが描かれたポスターが壁一面に貼られ――。
局部しか隠れていないコスチュームを身にまとった、肌色多めなアニメキャラの人形が所狭しと展示され――。
黒板に貼られたスクリーンには、なぜか服がビリビリに破れる、魔法少女の変身シーンが繰り返し再生され――。
――部室の中は卑猥で下劣な空間と化していたらしい。
朔夜は当然、これら展示物を撤去するよう要請した。
生徒会長からの要求に、殆どのアニメ部の部員たちは『仕方ない』と受け入れたのだが……。
部員の中で一人、アニメ部副部長だけが頑なに要求を拒否し続けたそうだ。
『ここに展示されているのは全てＲ１５以下の作品でござる！ レイティングに抵触していない以上、撤去させられる謂れはないでござるよ！』
そう言い張って譲らないアニメ部副部長に、朔夜は説得を続けたという。
『レイティングじゃなくて品性の問題かしら。こんなものを神聖な学校行事に持ち込むのは許されざるべき暴挙よ』
そんなお互いの意見をぶつけ合うだけの、妥協点の見えない議論は、平行線のまま何時間にも及んだという。
そして――。
「他の部員が帰る中、アニメ部副部長の彼と私だけが部室に残り不毛な論争を続けていたわ。そして夜になっも論争は続き――不意に轟音が聞こえたと思ったら、気付けばあの白い空間にいたわ。アニメ部の部室はラノベ部の隣だったから、おそらくラノベ部の爆破事件があった時に、隣にいた私も巻き込まれたんじゃないかしら」
――以上が、朔夜が爆破事件に巻き込まれた経緯だという。
