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2-16話 結末は土下座で

「さぁ、こちらです」


 ウェルヘルミナが扉を開けた途端、中から溢れ出す黒い靄。

 兵士たちを包む靄と同じ、だがさらに濃く禍々しく感じる。

 扉の奥は広めで石造りの長方形の部屋。

 奥中央には石畳でできた、プロレスのリングのようなサイズの祭壇があり、そこには六芒星に似た大きな魔法陣が描かれていた。


 黒い霧の発生源はその魔法陣だ。


(コ、コレはヤバくね……?)


 (テル)は慌てて祭壇の魔法陣に向け、[探偵の鑑定眼]を発動させる。


====================

『隷属と支配の祭壇』

 種類:複合魔導装置

 レア度:☆☆☆☆☆☆

 魔物ではないものに[隷属魔法]をかけるための装置。

 祭壇にある魔法陣の中で服従を誓わせる事で、相手を[隷属(潜伏)]状態にする事が出来る。

 [隷属(潜伏)]状態の相手は、術者によっていつでも[隷属(小~特大)]状態に移行させることが可能。

 また[隷属(潜伏)]はステータスに表示されないため、症状を発症させるまでは[隷属魔法]を掛けた事を気付かれる心配はない。

 さらにこの装置には[隷属魔法]の魔力運用を補助・増強する効果もあり、それによって[隷属魔法]を掛けられる人数はほぼ無制限となっている。

 ただし、この装置を使えるのはアインノルド王位を継いだ者のみ。

 現状ではアインノールド公爵ウェルヘルミナ・ディ・アインノールドだけである。

====================


(マ……マジですか……!)


 ご覧の通りの魔法陣の鑑定に、背筋に冷たい汗を流す(テル)


(つまりこの祭壇の上で儀式をすると、ウェルヘルミナ様の奴隷になっちゃうって事か……)


 ふと(テル)は、先ほど推理を披露していた時の、ウェルヘルミナのセリフを思い出す。


『言っておきますが、他人を意のままに操るようなスキルはこの世界に存在していませんよ?』


(――なんて言ってたくせに、超ウソじゃんか! ど、どうしよう、もう問題を先送りなんて言ってる場合じゃないよ。今すぐにでも何とかしないと……。でも、どうすれば……)


 だが焦ったところで、(テル)に妙案が浮かぶわけでもない。


「『誓いの儀式』は簡単です。そちらの魔法陣の中で、アインノールド公爵領の領民であることを宣言すればいいだけですの。『アインノールド公爵領の領民になります』とでも言えば、それで儀式は終了です。この地の領民であれば全員が行っている儀式ですので、気楽にやってくださればいいですわ」


(そ、それってこの儀式を受けているはずの領民は全員、いつでも意のままに操れるって事じゃ……)


 ウェルヘルミナの言葉に戦々恐々となる(テル)

 そんな(テル)の心境も知らず、鈴夏(スズカ)はウェルヘルミナの勧めに沿って祭壇に昇ろうとする。


「そうか、なら今度は私から行こうじゃないか」

「わぁああああああっ! ちょっと待って鈴夏(スズカ)さん!」


 それを慌てて止める(テル)


「どうしたんだ(テル)、そんなに慌てて?」

「それは、えっと……そうだウェルヘルミナ様! 神官長があんなことになってしまって、今は儀式どころじゃないでしょう!? 今日のところはここまでにして、続きはまた後日と言う事にしませんか?」

「……おかしなことを言いますね、テル様。後は皆さまが魔法陣の中で誓いの言葉を発するだけで、儀式はつつがなく終了するのです。それなのにいちいち中断する意味が分かりませんわ」

「それは……その……」


 言い淀む(テル)を見かねたのか、鈴夏(スズカ)が前に歩み出る。


「もしかして(テル)は不安なのか? なら大丈夫だ、私が先に儀式をやってみせよう」

「――って鈴夏(スズカ)さん待って! やっちゃダメだって言ってるでしょう!」

「何故だ? 理由が分からないぞ」


 思わぬ剣幕の(テル)に戸惑いを見せる鈴夏(スズカ)


「だからそれは……うー……あー……」


 なんとか言い訳を考えるも何も浮かばない(テル)は、思わず投げやりになってしまう。


「もう! いいですよ、分かりましたよ! 言えばいいんでしょ! この魔法陣はね、他人の心を操る為の装置なんです! 誓っちゃったら最後、ウェルヘルミナ様に逆らえなくなっやうんです!」

「なっ! 本当かそれは?」


 (テル)の言葉に驚きを隠せない鈴夏(スズカ)は、慌てて振り返りウェルヘルミナを見る。


「…………ええ、スズカ様。彼の言う通りですわ」


 鈴夏(スズカ)の視線を受けたウェルヘルミナは、軽く肩をすくめ諦念したように応える。


「その祭壇は『隷属と支配の祭壇』。私が他人を操るための祭壇ですわ。しかしその事を見抜いてしまうなんて……。[探偵]というジョブもさることながら、テル様、やっぱり貴方は厄介な人間だったみたいですね」


 そうしてウェルヘルミナはパチンと指を鳴らす。

 その途端、誓いの儀の間になだれ込んできた兵士が(テル)たちを取り囲んだ。


「ウェルヘルミナ! これは一体どういう事だ!」


「申し訳ありません、スズカ様。もっと穏便に済ませたかったのですが、こうなっては仕方ありません。このまま皆様の身柄を取り押さえさせていただきます。ああ、抵抗しても無駄ですよ。いくら転移者とはいえ、ステータスレベルが1しかない初期状態ではここにいる誰にも勝てませんから」


 怒鳴る鈴夏(スズカ)に、すまなさそうに謝るウェルヘルミナ。

 そんな彼女に朔夜(サクヤ)が問いただす。


「それでウェルヘルミナ さん……いえ、ウェルヘルミナ。私たちをどうするつもりなのかしら?」

「ご安心ください、サクヤ様。手荒な事は致しません、ちょっと監禁するくらいですわ。ここで無理矢理誓いの言葉を言わせてもいいのですが、わたくしとしてはやはり自発的に忠誠を誓っていただきたいのです。ですからサクヤ様とスズカ様は牢に閉じ込めて、わたくしのものになるようじっくりと説得させていただきますわ」


 そう言って邪な笑顔を見せるウェルヘルミナ。

 血の気の引いた(テル)が、恐る恐るウェルヘルミナに尋ねる。


「それでボクは……?」


「男はどうでもいいですわ。……死んでおきますか?」

「何でもしますので生かしておいてください!」


 焼死殺人事件を、それは見事に解決した探偵は――。

 事件の最後に、それは見事な土下座を見せたそうな――。


 * * *


 領主の城に戻ってきた(テル)たちは、兵士たちによって地下にある牢屋に連れて行かれた。


「とりあえずここに入っていろ」


 石畳で殺風景な牢の中に、(テル)朔夜(サクヤ)鈴夏(スズカ)の三人はまとめて放り込まれてしまった。


「まさかあのウェルヘルミナが、人を支配しようとする悪党だったとは……」


 鈴夏(スズカ)は腕を組み、深く眉間にしわを寄せる。

 相手が悪人だったことより、見抜けなかった自分に腹を立てているようだ。


「すみません、ボクがもっと早く気付いていれば……」

「いいえ(テル)くん、あの状況で多少早く気付こうが、きっと結果は変わらなかったわ。今は彼女の『隷属魔法』を回避できただけで充分じゃないかしら」


 落ち込む(テル)に、朔夜(サクヤ)が励ますように声をかける。


「だから気にすることは無いわよ、(テル)くん」

「そ……そうですか?」

「こうなってしまっては、いくら慌てても仕方が無いわね。あの悪役令嬢が今後どうするつもりなのか。しばらく様子を見る事にしましましょう」


 朔夜(サクヤ)の意見に鈴夏(スズカ)も賛成する。


「そうだな、朔夜(サクヤ)の言うとおりだ。状況が変わらないなら、変わるまで待つしかないだろうな」

「わ、分かりました、鈴夏(スズカ)さん……」


 (テル)たちの意見が一致するも、何もできない状況に三人の表情は晴れない。

 それも当然だ、この先どうなるか分からない不安に、三人の心は押しつぶされて――


「そういえば……朔夜(サクヤ)さん。探偵対決に勝ったら『なんでも言う事を聞く』って約束してましたよね?」

「……確かに約束したわね。だけど本当にその権利を行使したら、私は貴方を一生軽蔑するわよ(テル)くん」

「あ、あはは。や、やだなぁ、そんなことしませんよ朔夜(サクヤ)さん……」


 ――いや、意外と元気のようだ。


「……それより丁度いいわ。やることのないこの機会に、(テル)くんと鈴夏(スズカ)さんに聞いておきたいことがあるのだけれど、構わないかしら?」

「ボクに聞きたい事ですか? 別にいいですけど……」

「私も構わない。閉じ込められて暇だしな、何でも聞いてくれ」

「でしたら遠慮なく。まずは(テル)くん」


 そして朔夜(サクヤ)(テル)へと向き直る。


「先程から私、地球での貴方の事を思い出していたのだけれど……。ねぇ(テル)くん、おかしくないかしら?」

「……? 何がですか?」

「だって私の知っている惣真照(そうまてる)は――心はともかく生物学的には女性だったはずよ」

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