2-13話 探偵勝負(解決編②)
「ど、どうして私が?」
犯人だと指摘され、その神官はうろたえた様子を見せた。
ざわざわと、周りの兵士やほかの神官たちも騒ぎ始める。
「か……彼女が犯人? どうしてそんな……」
「……でも、そういえば彼女、いつも神官長から強く当たられてたよね……」
「確かに彼女なら、神官長を恨んでいてもおかしくはないけど……」
そんなヒソヒソ話をする観衆を横目に、照はさらに推理を語る。
「どうやって部屋を暗くしたかという謎ですが……儀式の間は片側の壁が一面ガラス張りの窓になっていて、太陽光をふんだんに取り入れることで明るくなっています。だとしたらそのガラス窓を何かで覆ってやれば、部屋の中は真っ暗になるじゃありませんか。どうです、朔夜さん?」
「え、ええ、そうね。そんなことができるのなら……」
「そこで思い出してみてください。この神殿に来る道中、彼女――土の神官――が使った魔法の事を」
「……あっ! [アースウォール]!」
「そうです。湖に浮かぶこの神殿まで、橋を架けたあの魔法。あれで『成人の儀の間』の窓の横に壁を作れば、太陽の光を遮って暗くできると思いませんか? その証拠に儀式の間の外に、ガラス張りの方の壁に沿って地面を掘り返したような跡がありました。あれは[アースウォール]を使った痕跡だと思われます。ついでにこの神殿は防音の魔道具で守られているそうですから、彼女が外で魔法を使っても、誰も気づかなかったのも当然ですね」
「うぅう……。た、確かに……」
朔夜は何とか抗弁しようと悩むも――。
「くぅう……。悔しいけれど反論できない……」
「ボクたちの成人の儀が終わったタイミングで、犯人は[アースウォール]を使い部屋を暗くした。急な暗闇に神官長は慌てて燭台に火をつけようとする。その火が服に仕込まれた赤リンに燃え移り、焼死させるほどの火災を引き起こした。これが一連の犯行の流れだと推理します」
そこで照は一息つくと、朔夜に向き直る。
「……まだ何か反論がありますか朔夜さん?」
「あぅう……。な、何もありません……」
「そうですか、では……」
敗北に小さくなってしまった朔夜を尻目に、照は高らかに宣言する――。
「この勝負、ボクの勝ちですね、朔夜さん」
(負けた……ミステリー勝負で私が負けた……。何という敗北感……)
照の勝利宣言を受け、朔夜はガックリと膝を落とす。
(だけど……これが現実なのね……。惣真照、彼の方が私よりも探偵だった……)
トクンッ……と、朔夜の体の奥が熱くなる。
(この感じ……。いつも推理小説やミステリー映画を読み終えたときに感じる疼きと同じ……。謎が解け、結末に向けて物語が収束していくあの爽快感……。その時に感じるエクスタシー。……いいえ、これはその程度のものじゃない)
今まで感じた事のない快楽が、じわじわと朔夜の体に押し寄せる。
(もっと、比べ物にならない……。フィクションじゃない、現実に起きた殺人事件……。謎が目の前で解けていくこのライブ感……。そして惣真照、彼の見事な推理……)
謎が解けるカタルシス、そこから来る強い快楽に酔いしれる朔夜。
(すべてが私の体を疼かせる……子宮にくる……感じちゃう……。ああ……ダメ、こんなの初めて……。……もう、いっ……)
――ビクビクビクッ!
「――――――っ!」
顔を真っ赤にし、ハァハァと息を切らす朔夜。
そんな朔夜の突然の変化に、心配で思わず声を掛ける。
「あ、あの……大丈夫ですか朔夜さん? 顔が真っ赤ですよ? それに……何だか息も荒くなってませんか……?」
「大丈夫……ハァハァ……。気にしないで、照くん……ハァハァ……。お願いだから、少し放っておいて……ハァハァ……」
「わ、分かりました……」
……どうやら東雲朔夜という少女は、謎解きにオーガズムを感じるド変態だったようだ。
(もしかしてこの人……い、いや深く考えちゃダメな気がする……)
そして照は考えるのをやめたようだ。
ともかくこれで事件解決――
「ま、待ちなさい! まだ私が犯人だと決まったわけじゃないでしょう!」
――と思いきや、このまま犯人だと確定されそうな土の神官が、慌てて照に詰め寄ってきた。
「こんなの貴方の勝手な空想でしょ!? 証拠は何もないじゃない!」
「確かに……あくまでこれは、今のボクの知識の範囲内での推理です。ひょっとしたら[アースウォール]という魔法以外にも、部屋を暗くできるスキルがあるのかもしれない。だから完璧な推理とは言えません。けど……証拠なら簡単に見つかると思いますよ?」
「なっ、何ですって!」
「この事件には大量の赤リンが使われています。ならここにいる全員を調べて、赤リンかマッチを大量購入した人がいればその人が犯人です。いくら異世界だからって、赤リンを大量に買う人が一般的だとは思えませんからね」
「――っ! そ、それは……」
照の指摘に、思わず言いよどむ土の神官。
「ち、違う……私じゃ……私じゃない……」
だが周囲の者はその様子に、彼女が犯人だと確信するのだった。
そして――。




