2-12話 探偵勝負(解決編①)
「犯人は鈴夏さんじゃありません! 本当の犯人はこの中にいます!」
ミステリードラマの探偵のように、関係者を集めて語りだす照。
おぉおおお……とどよめきが起こり、皆が照に気を向ける。
(うぅーっ! ああやって探偵として注目されるのは、私だったはずなのに!)
その姿を恨めしそうに見つめる朔夜。
(それにしても照くん……本当に犯人が分かったのかしら? この私を差し置いて、こんなラノベしか読まないような人間が? ミステリーを愛し、ミステリーに愛されるべく日々努力を重ねてきたこの私より、あんなハードボイルドさの欠片もないような男が探偵に相応しいというの? そんなこと認められない! 見てなさい、惣真照! 今から始まるその推理劇の中で、ネチネチとアラを探し出し、ボロが出るのを待って、陰険なミステリー評論家のごとく叩きまくってあげるわ!)
……その内心はなかなかのこじらせ具合のようだ。
「テル様、本当にスズカ様は犯人ではないのですか?」
心配そうに尋ねたのはウェルヘルミナだ。
対して照が自信満々に答える。
「はい、そうです、ウェルヘルミナ様。なのでまずはその証拠を見せましょう。ボクの考えに間違いが無ければ……鈴夏さん、ステータス画面を見せてくれませんか?」
「あ、ああ分かった。えっと、ステータスオープン」
照に言われるがまま鈴夏がステータスウィンドウを開く。
「やっぱり……。ほら見てください、ウェルヘルミナ様。鈴夏さんのMPの値を」
照は鈴夏のステータスウィンドウを確認し、今度はウェルヘルミナにそれを見るように促す。
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【ステータス】
ステータスレベル:1
HP:25/25 MP:30/30
攻撃:16 防御:8
魔力:35 魔抗:12
・・・
・・
・
「これは……! MPがマックスの状態ではありませんか」
「そう、МPが減っていないという事は、鈴夏さんはまだ一度も魔法を使った事がないという事。つまり鈴夏さんには、魔法を使って神官長を焼き殺せるはずがないんです」
「た、確かにそうですわね……。恥ずかしい、こんな簡単な事にも気づかなかったなんて……。スズカ様も、それならそうと早くおっしゃって下さればいいのに」
恥ずかしそうに頬に手を当てるウェルヘルミナに――
「鈴夏さんはゲームに詳しくないようでしたからね。魔法を使うとMPが減るという、ボクたちにとっては当たり前の事も知らなかったのでしょう」
――そう照が答える。
「ともかく鈴夏さんが犯人ではないとするなら、他に犯人がいるはずです。ですが神官長は短時間で全身を黒くなるまで焼かれていた。単に服に火をつけた程度ではこうはならない。例えばスキル等を使ってこんなことをできる人間が、鈴夏さん以外でこの中にいますか?」
その言葉にウェルヘルミナは辺りを見回し――
「……いませんわね、この中には」
――そう答えてフゥとため息をつく。
「人が死ぬほど燃やすなんて、火系魔法でないと無理でしょう。ですがこの中には火系魔法を使える者がおりません。しいて言えば死んだ神官長でしょうか? 彼女は赤服の火の神官でしたし……。――って、もしかして?」
ある結論を思いつき、驚きの声を上げるウェルヘルミナ。
その声に大きくうなずく照。
「そうですね。消去法で行けば、神殿にいる人間の中で、被害者である神官長にしか、この死傷火災は起こせない」
「まさか自殺? ですがそんなはずは……。だって先に話した通り、神官にとって自殺は重罪です。あの人一倍厳しい神官長が、そんな罪を犯すわけが……」
「そう、神官にとって自殺は重罪。だからこそ犯人はこの方法を取ったんじゃないでしょうか――」
そして、一拍置いて照が告げる。
「例えば――自殺をした不名誉な神官として、神官長を殺害する。被害者に対してそれほどの憎しみを持った人間がこの中にいれば、充分な犯行動機になるはずです」
「で、では、この事件は殺人事件? ですがこの中に、被害者を焼死させられるスキルを持った人間はいなかったのでは……?」
キョトンとするウェルヘルミナに、ドヤ顔の照が言い放つ。
「いいえ、一つだけ方法があるんですよ。犯人が火魔法を使わず、神官長を焼死させる方法が」
「まっ……待ちなさい照くん!」
ここで黙っていられなくなった朔夜が口を挟んできだ。
「ほ、本当にそんな方法があるのかしら? あるなら私が気付かないはず無いと思うのだけれど?」
「トリックとしては単純な事ですよ。部屋の外から被害者を操って、火魔法を使わせ自らを焼かせればいいだけの事です」
それを聞いたウェルヘルミナが反論する。
「……テル様。言っておきますが、他人を意のままに操るようなスキルはこの世界に存在していませんよ?」
「スキルに頼らなくても、行動を誘導してやることで相手を操る事は可能ですよ。実際に現場検証をしたとき、被害者の手に燭台が握られているのを発見しました。これは被害者が燭台に火をつけようとした――つまり火魔法を使ったという証拠になるでしょう」
「ち、ちょっと待ちなさい!」
朔夜が慌てて割って入る。
「なら犯人はどうやって、被害者に『燭台に火をつける』という行動をとらせたというのかしら? それにもうひとつ、『燭台に火をつける』程度の火魔法で、どうして焼死するほどの火災になってしまったの? この二つの謎が解けない限り、貴方の推理が正しいと証明されないわ!」
その言葉を聞いて、「では順番に説明しましょう」と照が話し始める。
「まずは『どうして小さな火魔法で、焼死するほどの火災になってしまったか?』という疑問から。これは、神官長の着ていた神官服に仕掛けがあります。実はあの服には、非常に燃えやすい赤リンが仕込まれていたのです」
「赤リンというと……あのマッチの先に使われている薬品?」
「はいそうです。この世界でもマッチは作られているようですから、その材料である赤リンもこちらに存在し、犯人が手に入れる事もできたはずです。神官長の服は赤色でしたから、同じ色の赤リンならそれほど不審がられずに仕込むことが可能だったはず。そして赤リンが服に仕込まれていたからこそ、わずかな火気で簡単に燃え移り、燃え広がって短時間に全身を焼いてしまったのだと考えられます」
「ま、待ちなさい、照くん!」
赤リンが使用されたと断定する照に対し、慌てて批判をする朔夜。
「仮に赤リンが仕込まれていたのなら、小さな火種でも燃え移る事はあるでしょう。でもそんなものが仕込まれていたという証拠は、今のところ何処にもないわよ?」
「いいえ、証拠ならありますよ。それは――『おばけ煙』です」
「お、おばけ煙?」
聞きなれない言葉に思わず聞き返した朔夜。
照は『おばけ煙』について説明を始める。
「実は遺体に触れたとき、服から茶色いペースト状の物体が手に付いたんですが……。その物質を指でこすってみると、白い煙が発生したんです。これはいわゆる『おばけ煙』というやつで、正体は五酸化二リンという物質です。この五酸化二リンを指でこすると、指先の水分と反応して煙が出るんです」
「ど、どうしてそんな物質が……?」
「五酸化二リンは赤リンが燃えた後に残る物質ですから、もちろん赤リンが燃やされたからでしょう。つまりコレが遺体に残っているという事は、被害者の服に赤リンが仕込まれていたという証拠になるはずです」
「なっ!」
驚きの声を上げた朔夜は、思わず照に尋ねる。
「て、照くん……。貴方どうしてそんな事まで知っているの……?」
「それが昔、科学の実験をする動画を見た事があって……。マッチ箱の側薬を燃やして、残ったペーストを指でこすって白い煙を出すって実験を、その動画の中でやってたんですよね。見たのは小学生の頃ですけど……覚えてたのは運が良かったですね」
「『運が良かった』って……それって名探偵のテンプレな決めゼリフじゃないかしら。見事に推理を披露しておきながら『運が良かっただけ』とか言っちゃう無気力系名探偵の……。ま、まさか照くんは、本当の名探偵……?」
思わず感心してしまった朔夜は、慌てて首を振って気持ちを入れ替える。
「いえ、まだよ! まだ一つ謎が残っているわ、照くん!」
「被害者に『燭台に火をつける』という行動をどうやって取らせたのか? ――ですよね?」
「そ、そうよ。その謎も解けたというのかしら?」
「当然です」
照は得意げに胸を張り、言葉を続ける。
「確かにあの明るい部屋であれば、燭台に火をつける必要はありません。でも逆に言えば、あの部屋を暗くすることができれば、神官長に『燭台に火をつける』という行動をとらせることができたはず。そうは思いませんか?」
「それは……。でも、どうやって部屋を暗くしたというの?」
「ボクは昨日この世界に来たばかりで、こちらの常識にはまだ疎い。なので今のボクの知識の範囲内での推理になってしまいますが……。こんな事をできる犯人は、この場に一人しかいないと考えています」
「一人……いったいそれは誰なのかしら?」
「それは……」
照は迷いなく周囲の中から一人を指さす。
「黄色の服を着た――土の神官、犯人はあなたです」




