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1-2話 異世界転生したら運命の姫に出会えたので彼女を守る騎士になろうと思う(というタイトル)

 九月中旬――夏休みが明けてしばらく経った時期。

 まだまだ残暑はあるものの、校舎を闊歩する生徒たちの中にはそろそろ長袖に衣替えするものも現れ始めている。

 そしてこの時期のイベントといえば――文化祭。

 学校によってはゴールデンウィークなどに行う場合もあるらしいが、やはり文化祭といえば秋が定番だ。

 (テル)たちの通う白羽矢高校もその例にもれず、十月中旬に行われるのが毎年通例となっている。

 翌月に迫った文化祭を意識し、生徒たちがそわそわと準備を始める頃である。

 そんな学校の空気の中、(テル)陽莉(ヒマリ)剣人(ケント)の幼なじみ三人が図書室の読書スペースに集合していた。


「――というわけで来月は文化祭です!」


 腰に手を当てそう宣言したのは、この会合を主催した陽莉(ヒマリ)だ。

 えへんと胸を張った拍子に、彼女の巨乳がプルンと揺れる。


「あー、そういやそうだねぇ」


 陽莉(ヒマリ)の弾むおっぱいを目で追いながらそう応える(テル)

 えへへへへ……と思わず頬が緩む。

 一方の剣人(ケント)は、好きな女の子――(テル)がいる手前、努めて見ないように目をそらしながら陽莉(ヒマリ)に尋ねる。


「で、陽莉(ヒマリ)。文化祭が迫っているのは分かったが、そもそも何の用事で俺たちを図書室ココに集めたんだ?」


 彼の台詞からも分かるとおり、(テル)剣人(ケント)の二人は陽莉(ヒマリ)の呼び出しを受けてこの図書室にやってきていた。

 そして呼び出された事情はまだ分かっていない様子。

 陽莉(ヒマリ)はそんな二人に向けて、何やら紙の束をそれぞれに差し出した。


「ひとまず二人とも、この資料を見てほしいんだけど」


 その紙の束――コピー用紙をまとめて作られた資料――を受け取った(テル)は、一枚目に書かれた文字を読んで怪訝な表情を作る。


「うーんと……『異世界転生したら運命の姫に出会えたので彼女を守る騎士になろうと思う』……って、なにこれ?」


「演劇用の台本だよ。内容はラノベによくある異世界転生ものね」


 (テル)が読んだ一枚目の文章は、どうやら劇のタイトルだったようだ。


「この脚本ってオリジナルだよね? もしかして陽莉(ヒマリ)が書いたの?」

「ううん、まさか。アタシは読む専門だからねぇ。書いたのは同じ部活の子だよ」


 陽莉(ヒマリ)の答えを聞き、(テル)は(そういや陽莉(ヒマリ)が入ったのってラノベ部だったっけ)と思い出した。



 ちなみに――。

 陽莉(ヒマリ)の所属する『ラノベ部』というのは、ラノベ好きが集まって感想を言い合ったり、情報を交換したり、時には書いてみたりする部活だそうだ。

 入学したばかりの頃、『陽莉(ヒマリ)と一緒にいたいから』という不純な動機で、ラノベ部に入部を決めていた陽莉(ヒマリ)に付き添って(テル)も入部しようとしたのだが……。

 残念ながら『ニワカは帰れ』と、(テル)だけ入部を拒否されていたのだった――。



「――それで、どうかなテルちゃん?」


 期待を込めた目で尋ねる陽莉(ヒマリ)


「文化祭のうちのクラスの出し物で、この脚本の劇が出来ないかなぁと思ってるんだけど……」

「え、コレで劇を……?」


 その提案に(テル)はわずかに眉を顰めた。


(文化祭で演劇は大変そうだよな。できれば展示とか休憩所とか、そういう楽なのがいいんだけど……)


 どうやら(テル)はこの台本がどうこうと言うより、劇をやること自体に抵抗がある様子。

 だが陽莉(ヒマリ)はやる気満々だ。


「ねぇどうかな? ケンちゃんはどう思う?」

「うーん、内容をまだ読んでないから何とも……。それにしても……」


 陽莉(ヒマリ)の問いに剣人(ケント)が首をかしげる。


「相変わらず変なタイトルだなぁ。いつも思うんだけど、陽莉(ヒマリ)の好きな小説ってタイトル長すぎない? あと内容全部語りすぎじゃね?」

「何言ってるの、ケンちゃん。これはね、作者の涙ぐましい努力の結果なんだよ?」


 得意げにラノベについて語りだす陽莉(ヒマリ)


「小説投稿サイトなんかじゃ、どんなにおしゃれなタイトルをつけたって誰も興味を持ってくれないからね。タイトルをあらすじにすることで少しでも読者の関心を引こうとしてるんだよ」

「いやでも読む前からここまで内容丸わかりだと、読まなくていいんじゃないかって気が……」

「それはむしろ親切と捉えるべきね。読む前から自分に合ってるかどうかが分かるんだから」


 そして陽莉(ヒマリ)は胸を張る。


「アタシなんて長文タイトルに慣れ過ぎて、逆に映画やドラマの何も伝わらないタイトルに腹が立つようになっちゃったよねぇ」

「いやそれ、ドヤって言うようなことじゃないから……」


 あきれた様子の剣人(ケント)の隣でパラパラと資料をめくる(テル)


(ラノベか……。ラノベは陽莉(ヒマリ)が好きで、ボクも付き合いで多少は読んでるから陽莉(ヒマリ)の言ってることは分かるけど、やっぱり興味のない人にはまだ変に見えるのかな?)


 資料を読みながら(テル)がそんなことを考えていると、その内容について陽莉(ヒマリ)が説明を始めた。


「ちなみにこの登場人物……アタシとテルちゃんをイメージしたんだって」

「へ? ボクたちがモデル? どういう事?」

「えっとねぇ。ほら、アタシたちって幼稚園のころからの幼なじみでしょ?」

「うんまぁ、そうだね」


 ――(テル)陽莉(ヒマリ)と出会ったのは、二人がまだ5歳だったころ。

 陽莉(ヒマリ)(テル)の近所に引っ越しをしてきて、同じ幼稚園に入園してきたのがきっかけで――。

 それはまさに一目惚れだった――。


陽莉(ヒマリ)を始めてみた時、まるでお姫様みたいだって思ったんだよな……)


 それまで自分の性について考えた事も無かった(テル)だったが、陽莉(ヒマリ)に出会って自覚させられた。

 彼女の事が好きで、自分は女性が好きな男性なんだと否応なく意識させられた。

 陽莉(ヒマリ)こそ(テル)が「自分は同性愛者(トランスジェンダー)なんだ」と自覚する切っ掛けだったのだ。

 それ以来(テル)は、ずっと陽莉(ヒマリ)の事が好きなままだ――。

 (テル)にとっては幸運なことに、その好きな彼女は今も変わらず隣にいて、こうして昔話に花を咲かせる関係を続けられている。


「そうそう、それでテルちゃんて、昔からアタシが困ってたらいつも助けてくれてるじゃない」

「それは……そうだけど……」


(だって陽莉(ヒマリ)ってお人好しって言うか、無防備ですぐ余計なことに巻き込まれるんだよな。だから昔から放っておけなくて、ボクが守ってあげないとって心に決めてた)


 小学生の頃から傍にいた(テル)は、陽莉(ヒマリ)が何度も厄介ごとに巻き込まれるのを見てきた。

 その度に(テル)陽莉(ヒマリ)の前に立って彼女を守ってきたのだ。


(ボクはずっと陽莉(ヒマリ)を守る騎士(ナイト)になりたいって思ってきたんだ。たとえ恋人になれなくたって、彼女の隣に居続けるために)


 思い出に浸る(テル)陽莉(ヒマリ)が尋ねる。


「それで……一学期の事件を覚えてる? あの『誹謗中傷ビラ事件』の事」

「そりゃあ、もちろん覚えてるけど……」


 その質問に、(テル)は3か月前の事件の事を思い出す。

 『誹謗中傷ビラ事件』――それは陽莉(ヒマリ)の誹謗中傷が書かれたビラが張り出された事件の事だ。


「あのときも事件の犯人を見つけ出して、アタシを助けてくれたよねぇ? まるで推理小説の名探偵みたいに」

「い、いや、名探偵って大げさな。犯人が分かったのは偶然、ただ運が良かっただけだって」


 ちなみにどんな事件だったのか概略を語ると――


 ※)以下、過去の事件の話で、特に伏線でもない主人公の推理能力アピールの話。

 ※)面倒なら次の話まで読み飛ばしても大丈夫なヤツです。


 ――――

 ――


 時期は今年の7月初旬、入学した白羽矢高校で初めて迎える一学期の終わりの頃。

 とある告発が書かれたビラが、学校の掲示板に張り出された。

 その内容は――


 ――瀬名陽莉(せなひまり)はパパ活をしている。

 ――中学時代はイジメを行い恐喝まがいの事までしていた。


 ――などという、陽莉(ヒマリ)に対する事実無根の誹謗中傷だ。

 そんなビラを貼った犯人――第一の容疑者として香川という一年上の先輩の名前が上がった。

 彼は事件の一週間前に陽莉(ヒマリ)にフラれており、それが犯行の動機と考えられたのだが……。


 そんな予想に反し、犯人は彼ではなかった。

 その後の(テル)の推理によって、真犯人はその香川先輩の事が好きだった同級生の永富さんだと判明したのだ。

 動機は香川先輩に好かれていた陽莉(ヒマリ)に対する嫉妬と、フッた事で香川先輩を傷つけた事に対する義憤だったそうだ。


 (テル)が誹謗中傷ビラ事件の真相に気づいたきっかけは二つ。


 まずはビラの内容――パパ活・イジメ・恐喝など、中学時代の陽莉(ヒマリ)の噂として無いことばかりが書かれていたのだが、その内容には同じ中学出身者でないと書けない内容が含まれていた。

 そしてアリバイ――ビラはサッカー部の朝練が始まるまでは張られておらず、終わった後にはすでに張られていたことから、張られたのは早朝の朝練中だと分かった。


 そしてその条件――陽莉(ヒマリ)たちと同じ中学出身者でサッカー部関係者――を満たしたのが、サッカー部のマネージャーだった富永さんしかいなかったのだ。


 ――――

 ――


「あーあれか。あったなそんな事件」


 事件の事を思い出した様子で、剣人(ケント)はポンと手を叩く。


「たしか香川って先輩が、陽莉(ヒマリ)にフラれた腹いせにやったんだっけ?」

「違うよ剣人(ケント)、やったのはその香川先輩に横恋慕してた同級生の永富さんだよ」

「あれ? 犯人は香川先輩じゃなかったのか。でも(テル)、お前香川先輩(アイツ)の事をぶん殴ってなかったか?」

「うっ、それは……。その香川先輩の態度があまりに腹が立ってつい……」


 剣人(ケント)に指摘され、思わず頬を掻く(テル)が当時の事を思い出す――。


 ――――

 ――


 確かに香川先輩は犯人ではなかった。

 だが彼の態度はひどすぎた。

 例えばビラを見た後の、彼の陽莉(ヒマリ)に対する態度――


『へぇ、陽莉(ヒマリ)ちゃんてこんなクズい人間だったんだねぇ。パパ活にイジメに恐喝かぁ~。こんな最低な女だって知ってたら告白なんかしなかったのに。ま、フラれて良かったわ』


 他にも犯人が発覚した後の富永さんに対する振る舞い――


『気持ち悪ぃなお前、勝手なことして俺のためとかやめてくんね? 二度と俺に関わんじゃねーぞ勘違い女が!』


 さらには陽莉(ヒマリ)に再び言い寄って――


『それより陽莉(ヒマリ)ちゃん大丈夫? 今さら嘘だって言われても、一度立っちゃった噂は消せないからなぁ。これじゃ誰も相手にされないよ? でもさ、寛大な俺なら受け入れてあげるぜ。どう、もう一度考え直してみない?』


 ――などとあまりにも不誠実な言動に、我慢できなくなった(テル)が先輩を殴りつけていたのだ。


 ――――

 ――


「う~、くそっ! 今思い出しただけでも腹が立つ!」

(テル)、お前さぁ……。気持ちはわかるけど、その後先考えない行動力はなんとかならないのか?」

「い、いやまぁ……ボクだって分かってるんだよ剣人(ケント)。でも、とっさの時は勝手に体が動いちゃうんだよなぁ……」


 理性よりも感情で突っ走ってしまう。

 それが自分の欠点だと(テル)自身も自覚していた。


「ま、まぁ俺はさ、(テル)のその正義感で突っ走っちゃうようなところも好きだけど……」

「あ、剣人(ケント)、今そういうのいらないから」

「がーん!」


 そしてこっそりと惚気を挟むも、やはりフラれてしまう剣人(ケント)であった。

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