2-11話 探偵勝負(捜査編)
探偵勝負を始めた照と朔夜は、ウェルヘルミナや兵士たちを広間に残し、二人だけで祭壇の周辺を捜査していた。
「見事な焼死体ね、全身真っ黒に焼けてしまっているわ」
遺体のそばにしゃがみ込み、まじまじと観察する朔夜。
「ここまでこんがりと、しかも短時間で燃えるなんて……。ただ着衣に引火した程度じゃ無理ね。でも魔法でつけた火なら……って、なんでそんな遠いところにいるの、照くん?」
「いやだって……。朔夜さんこそ、よくそんな焼死体を平気で見てられますね?」
遺体が平気な朔夜とは対照的に、ビビる照はなかなか遺体の傍まで近寄れない。
そんな照に、朔夜は胸を張って自慢する。
「私はいつ殺人事件に遭ってもいいように、日々グロ動画を見て鍛えていたもの」
「な……なんて不毛な努力を……」
「そんな事より照くん、遺体を怖がってちゃまともな捜査はできないかしら。まさか捜査ができないまま不戦敗だなんて、そんなつまらない負け方をするつもりじゃないでしょうね? いいからさっさとこっちに来て焼死体を見なさい」
「うぅ……分かりましたよ……」
(でも、確かにこのままじゃダメだよな)
涙目になりながら考える照。
(このままじゃ朔夜さんに『なんでも』してもらえないだけじゃなく、鈴夏さんの濡れ衣を晴らすこともできない。えーい、ビビるなボク! 今のボクは身も心も完全な男! 『男らしさ』なんて言葉はもう死語かもしれないけれど、それでもボクが憧れるのは強い男なんだ! だから――)
「負けるかぁああああああっ!」
覚悟を決めた照は、一気に死体の傍まで詰め寄る。
そして……。
「うぷっ、うげろぉげぇえええええええええええっ!」
遺体を見た途端、照は耐え切れずにゲロを吐き散らかしてしまうのだった。
そして――
『パッシブスキル[グロ耐性(小)]を習得しました』
――照の脳内にそんな声が聞こえ、照のステータスに記述が増えた。
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【パッシブスキル】
[経験値×10倍][死神体質][グロ耐性(小)(new)]
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【習得スキル解説】
[グロ耐性(小)]
グロに対する耐性がつく。
習得条件:グロで精神に一定以上のダメージを受ける。
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照は心に傷を負った代わりに[グロ耐性(小)]なるスキルを手に入れるのだった。
「さっきの……アナウンスみたいなのは何だったんだ?」
落ち着きを取り戻した照は、先程頭に響いた声について考える。
「もしかしてあれが、RPGのレベルアップ時に聞こえる天の声ってやつかな? どうやら[グロ耐性(小)]ってスキルがもらえて耐性がついたみたいだ。確かにこのスキルのおかげで吐き気は収まったみたい。とはいえ焼死体はまだキツイけど……。」
照はそう愚痴っているが、少なくとも捜査ができる程度の耐性はついたようだ。
「だけど……よく考えたらボクってあくまでジョブが[探偵]なだけで、本当の探偵ってわけじゃないんだよねぇ。そんなボクが捜査したからって、事件の謎なんて解けるわけがないじゃないか。なのにこんな勝負を受けちゃって、何やってるんだろうなボクは……」
改めて自分の迂闊さに気付く照。
「名探偵みたいに事件解決なんてボクには無理――」
と、そんな時――
『ううん、そんなことないよテルちゃん』
――かつての陽莉の言葉が脳裏をよぎる。
『確かにケンちゃんのいう通り、テルちゃんって直情的なところがあると思う。でも一度冷静になればどんな謎だって解いてきたじゃない。テルちゃんがその気になれば名探偵なんて簡単になれちゃうんだから』
「陽莉……」
自分を信じてくれた陽莉の言葉を思い出し、気持ちを切り替える照。
「そうだな、陽莉がボクを信じてくれるなら、ボクだって自分を信じなきゃね。よし、じゃあちょっと頑張ってみようかな。まずは気になるところを探して、何か手がかりを……って、なんだコレ?」
前向きになった照がまず気になったのは、焼死体が左手に持った燭台だ。
それは祭壇に飾られていたものだろう。
「どうして神官長はこんなものを持ったまま死んでるんだ? もしかして死ぬ前に燭台に火をつけようとした? でも、こんなに明るいのにどうして……?」
この『成人の儀の間』は、片側の壁が全面透明なステンドグラスで、太陽光をふんだんに取り入れる作りになっている。
そのため昼の内は、燭台に火をつけなきゃならないほど暗くはならないはずだ。
もっとよく観察しようと遺体をのぞき込む照。
と、その際うっかり遺体に触ってしまい――
「うぉっ! な、なんだ今の?」
――その感触に驚く照。
「この遺体、どうしてこんなにネチャネチャしてるんだ?」
もう一度遺体にチョンと触れると、何やらペースト状になった茶色い物質が指先に着いた。
そのペースト状の物質を、ネチャネチャと親指と人差し指の腹でこすり合わせてみる。
すると……その物質から白い煙が立ち上った。
「これって確か科学系の動画で……。待てよ、だとしたら……」
ある事を思いつき、照はきょろきょろと辺りを見回す。
片側の壁が一面ステンドグラスのガラス張りになった部屋――。
神官長の遺体が持っている燭台――。
朔夜が試し打ちした魔法の音も聞こえないような防音――。
さらに――。
思い立った照はステンドグラスにへばりつく。
カラフルなガラスの透明の部分から、神殿の外を覗き込んだ。
そこには――。
「そうか、そういう事か……」
そして照は独り言ちる。
「スキルじゃ見れない真実が見えた――!」
* * *
照の捜査が進む一方で――。
(……わ、分からないわ。この私に解けない謎があるなんて……)
――捜査の進まない朔夜は焦っていた。
(鈴夏さんが犯人でないなら、犯人はこの儀式の間に潜んでいるか、どこか外へ出る抜け道があると踏んでいたのだけれど……。残念ながらこの儀式の間には、犯人が隠れていられそうな場所は見当たらないわ。それに……)
朔夜は周囲を見回して抜け道を探す。だが、儀式の間から人が外に出られるような場所は見当たらない。
(さっき火事の煙を風魔法を使って換気していたのを見るに、開いて空気の入れ替えができるような窓はないようね。こちらの全面ステンドグラスになっている窓は、ガラスがしっかり接着されていて、外して外に出るなんて芸当はできそうにないし……。つまりこの部屋には、私たちが入ってきたあの扉以外に出入り口はない。うーん……これだけ探して無いのなら、やっぱり抜け道探しは諦めた方がよさそうね。なら他に考えられる方法は……)
腕を組み考え始める朔夜。
(例えば遠隔殺人はどうかしら? 例えば部屋の外から魔法で上手く攻撃すれば……)
だが朔夜はすぐに首を横に振る。
(いえ、それも無理ね。この神殿には防魔の結界が張られていて、外からの魔法の影響は受けないはず。だとしたら……)
必死に他の可能性を探すが、残念ながら朔夜には答えが見つからない。
(やはり犯人は、鈴夏さん以外にいない事になってしまう……)
そんな考えを振り払うように首を振った朔夜は、ふとカラス張りの壁の方へ目を移す。
そこにはガラスにへばりつき、外をのぞき込む照の姿があった。
(何を見ているのかしら? き……気になる……)
朔夜の好奇心が刺激され、思わず対戦中の照に尋ねてしまう。
「……何をしているのかしら、照くん?」
「ああ、朔夜さん。ちょっと気になる事があって……」
「気になる事?」
その言葉につられ、朔夜も真似て外をのぞき込む。
ガラスの外は10メートルほど先が湖になっていて、その間にぽつぽつと木が生えている。
だがそれだけ、朔夜が気になるようなものは何もない。
「ねぇ照くん、何がそんなに気になっているのかしら?」
「気になるのは先じゃなくて下の地面ですよ。
ほら、神殿の窓際に沿って、土が耕したかのように掘り返されているでしょ?」
そういわれてみると確かに照の言うとおり。
ガラス張りの壁に沿って、地面に掘り返したような跡がある。
だが朔夜には、それが事件に関係しているとは到底思えなかった。
「ところで朔夜さん」
今度は照から朔夜へ質問が飛ぶ。
「朔夜さんもいろいろ調べたでしょうけど、ここまでで何かわかりましたか?」
「うっ……! え、ええ、もちろんよ照くん」
朔夜は内心ドキドキしながら見栄を張る。
「す、推理はもう一歩というところまで来ているわ。もう少しで真実にたどり着くはずよ」
「……て事は、まだ犯人が誰か分かっていないって事ですよね? 良かったぁ、じゃあこの勝負はボクの勝ちですね」
「……へ? ど、どういう事かしら照くん?」
「だってボク、犯人分かっちゃいましたから」
「……………………マジで?」




