2-6話 湖上の神殿と初めての魔法
――翌日。
ノルド城から出てきた数台の馬車と護衛の騎馬隊が、城下町の街道を通過していく。
馬車に乗っているのはウェルヘルミナと世話係のメイド、二名の女性神官、そして照たち三名の転移者だ。
都市を取り囲む城壁の外へ出るべく、城門に向かっているようだ。
照たちは昨日まで着ていた日本の服から、こちらの世界の一般的な服装に着替えていた。
化繊ではないが品質は元の服と比べても劣らず、天然素材で肌触りも良好、寒さもよく防いでくれている。
照たちの目的地は、これから彼らが『成人の儀』というものを行う神殿だ。
城門を出ると城壁に沿って十分ほど走り、都市に隣接した森の中へ入る。
さらに十分ほど森道を走ると、馬車は小さな湖にたどり着いた。
湖の中央には小島があり、奇麗な装飾の施された石の神殿が建てられている。
湖岸から見るその神殿は、まるで湖面に浮かんでいるかのようだ。
「着きましたよ皆さま、あれが目的地の神殿です。神殿は各地にありますが、あれはこの都市アインスノーの住人のための神殿ですわ」
「それはいいけど……ウェルヘルミナさん。あの神殿までどうやって行くつもりなのかしら?」
朔夜がそう疑問に思うのも無理はない。
周りを見回してみても、湖上の神殿がある小島まで行くための橋も船も見当たらないからだ。
その疑問にウェルヘルミナが答える。
「本来の『成人の儀』の季節は冬。その時期であれば、湖面が凍っていて歩いて渡れるのです。ですが今は初春。まだ寒い季節とはいえ、すでに湖の氷は溶けてしまっています。この時期に神殿に渡ろうとする場合、湖に橋をかけなければなりません」
「湖に橋を? いったいどうやってかしら?」
「しばしお待ちを。土の神官、出番ですよ」
ウェルヘルミナがそういうと、お供の女性神官たちに指示を出す。
付き添ってきた二人の女性神官――それぞれ白と黄色の神官服を着ている――のうち、黄色い服を着た神官がウェルヘルミナの言葉に従って前に出てきた。
「[土魔法Lv.3]アースウォール!」
黄色い神官はそう言って湖に向かい杖を振るう。
すると、ゴゴゴ……と僅かな地響きが聞こえ、水の中から地面がせりあがり、湖に道ができあがった。
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[アースウォール]
[土魔法Lv.3]の魔法。
土の壁を作り出す。
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どうやら土の壁を作る魔法を応用し、湖に道を作り出したようだ。
「ご苦労様です、土の神官」
「労いのお言葉光栄です、ウェルヘルミナ様」
黄色い神官がウェルヘルミナに頭を下げた。
魔法を目の当たりにした鈴夏が驚きの声を上げる。
「これが魔法か……すごい力だな」
「スズカ様、驚かれるのも今のうちだけですよ。今から『成人の儀』をお受けになれば、皆さまだってこういったスキルを使えるようになるのですから。ではまいりましょう」
ウェルヘルミナは得意げにそう告げると、神殿に向けて先頭を切って歩き出した。
* * *
魔法でできた道を通り、湖上の神殿へと到着した一行。
神殿の中は円形の広間で、広さは体育館ほどだろうか。
全体が重厚な石造りになっていた。
神殿に入って正面には二つの扉があり、扉の前にさらに三人、赤・青・緑の神官服を着た女性たちが待ち受けていた。
彼らはウェルヘルミナに恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、ウェルヘルミナ様。すでに『成人の儀の間』の準備はできております」
「ご苦労様、神官長」
神官長と呼ばれたのは赤い神官服の女性だ。
馬車で共にやってきた二人の神官と合わせると、赤・青・黄・緑・白と、五色の神官が揃った事になる
「ねぇウェルヘルミナさん。何だか神官の服がカラフルだけれど、もしかして階級で色が分かれているのかしら?」
彼女たちの服装に興味を持った朔夜が尋ね、ウェルヘルミナが答える。
「いいえサクヤ様。神官の服は階級ではなく、使える魔法によって決められているのです。基本の魔法職には火・水・風・土・回復の五系統があって、それぞれが赤・青・緑・黄色・白色で現されます。それに沿って神官服の色も、その者が使える魔法によって決められているのです。ちなみに神官は全員魔法職のジョブを持っています。魔法職でない者は、神官になる事はできませんわ」
ウェルヘルミナの説明にさらに付け加えると、神官の階級は服の色ではなく、胸に刺繍された金色のラインで表されている。
何の装飾もないものは神官見習い、金のラインが一本入っている者が下級神官、二本の者は上級神官、三本の者は神官長と、階級が上がる度にラインが増えていく。
ちなみにここにいる女性神官たちは、ウェルヘルミナに「神官長」と呼ばれた赤い神官だけがライン三本、ほかの者は全員ラインが二本だ。
あと属性について、火・水・風・土・回復の五系統以外にも闇の属性魔法というものがあるのだが、なぜか『闇の神官』というものは存在しない。
これは闇系の魔法が悪と考えられている……からではなく、闇魔法を覚えられる基本職が無いため。
闇系の魔法は一部のレア職でしか覚えられない特別なものなのだ。
「それではこの奥の祭壇でお待ちしておりますので、転移者の皆様はお一人ずつお入りください」
そういうと赤の神官長は、奥の二つの扉のうち、右側の扉の中へ入っていった。
ウェルヘルミナが転移者三人に尋ねる。
「それでは、どなたから『成人の儀』を受けられますか?」
「私はゲームはやらないし、こういうものに疎いからな。できれば後回しにしてほしい」
「ならスズカ様は三番目ですね。では、サクヤ様はいかがです?」
「そうね……だったら最初は私が行くわ。照くんもそれでいいかしら?」
「えっと……じゃあボクはニ番目でお願いします」
朔夜に振られて照はそう答えると、心の中で付け加える。
(一番最初はチュートリアル的にごく普通のジョブが出てきそうだし、やっぱりレアジョブがでるのは前振りが終わった後だよね。朔夜さんには悪いけど、チーレムを目指す以上ここでチートなジョブをゲットしないと)
――なかなか姑息なことを考えているようだ。
意見がまとまったのをみて、ウェルヘルミナが口を挟む。
「決まりましたね。ではサクヤ様、……テル様、そしてスズカ様の順でまいりましょう」
「ま、また舌打ち……」
「まずはサクヤ様、『成人の儀』の祭壇へどうぞ」
照を無視したウェルヘルミナに促され、朔夜は右側の扉を開き中に入っていった。




