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2-3話 二人の転移者①

 ウェルヘルミナに案内されたのは、城の廊下の一角にある立派な扉の前。

 お供の兵士がその扉を開き、(テル)たちを中に入るよう促す。


(ボク以外の異世界転移者が二人、この中で待ってるんだっけ……)


 (テル)が扉をくぐると、中はロココ調の広い客間だった。

 その中央に二人の少女が、机を挟んで椅子に座っているのが見えた。


(よかった、陽莉(ヒマリ)剣人(ケント)じゃない)


 まずは二人が自分の幼馴染でなかったことにホッと胸を撫でおろす(テル)

 そして改めて、同じ異世界転移者を確認する。


 一人は(テル)と同じ高校の制服を着た、黒髪ロングの女子学生。

 その少女に(テル)は見覚えがあった。


「――って、生徒会長じゃないですか!」

「そういう貴方は……惣真照(そうまてる)くんね。確か一度、図書室で会ったかしら」


 (テル)の通っていた白羽矢高校の生徒会長――東雲朔夜(しののめさくや)だ。

 彼女と(テル)は確かに一度会話を交わしている。

 陽莉(ヒマリ)剣人(ケント)と図書室で文化祭について語っているときだ(※1-4話参照)。

 彼女もその事を覚えていたらしい。


「さすが『全校生徒の名前を覚えてる系』生徒会長……」

「それから……こんな状況で生徒会長と呼ぶのは止めてほしいわ。私の名前は東雲朔夜しののめさくやよ。朔夜(サクヤ)でいいわ、(テル)くん」

「わ、分かりました、朔夜(サクヤ)さん」

「それにしても、お互い大変ね。異世界転移なんてフィクションだけにしてくれないかしら」

朔夜(サクヤ)さん的に異世界転移はダメですか? 人によっては垂涎のシチュエーションだと思うんですけど」

「そうねぇ……」


 言われて朔夜(サクヤ)は想像を巡らせる。


「これが19世紀のロンドンなら喜んだかしら。何と言ってもシャーロックホームズの世界だし」

「あー、そういえば……」


 朔夜(サクヤ)の返答に、図書室での記憶をよみがえらせる(テル)

 あの時の彼女は、(テル)たちが止められないくらいミステリについて熱く語っていた。


(思い出した、朔夜(サクヤ)さんってミステリ好きだったっけ。 陽莉(ヒマリ)のラノベ好きと同じくらいアレなレベルで……)


 相変わらずの朔夜(サクヤ)の様子に呆れつつ、(テル)はもう一人の転移者へと目を向ける。

 年のころは(テル)たちと同年代だろうか。

 赤みがかったショートヘアに、目鼻立ちのハッキリした美人系の少女だ。

 ただし――その服装は女子高生とは思えない、公務員を彷彿させるシックなスーツ姿だった。


「……不知火鈴夏(しらぬいすずか)だ。よろしく頼む」


 (テル)の視線に気付いたその少女――不知火鈴夏(しらぬいすずか)が先んじで自己紹介を始めた。


「どうやらこういった状況は異世界転移というらしいな。私は漫画やアニメのような知識に疎くて、困惑しているところだ。君は詳しそうだから、分からない事は教えてくれると助かる」

「は、はい、こちらこそよろしく、不知火(しらぬい)さん」


「私も鈴夏(スズカ)で構わない。こちらの世界はファーストネームで呼び合うのが普通のようだからな」

「分かりました、鈴夏(スズカ)さん。 あ、ボクは惣真照(そうまてる)です」

「そうか、なら私もキミのことは(テル)と呼ばせてもらうよ」


 そうして握手を交わす二人。


鈴夏(スズカ)さんっていうのか……彼女もかなりの美人さんだよね。だけど……なんだか服装が大人過ぎない? 見た目は高校生くらいに見えるのに、ファッションは落ち着いててOLっぽいんだよなぁ。口調もハキハキしてて、なんだが女上司っぽいし……。そもそも学校関係者なのかな? 見覚えが全くないけど……)


 初対面の鈴夏(スズカ)に対して、(テル)がそんな感想を抱いていると――


「これで皆さんご挨拶が終わりましたね」


 ――ウェルヘルミナがポンと手を叩き、転移者三人の自己紹介に割って入ってきた。


「よろしくお願いしますサクヤ様、スズカ様、そしてテル様。皆さまこれを機に、わたくしと友達になってくださいませんか?」


 そう言ってニッコリと微笑むウェルヘルミナ。


(うっ、か、かわいい……)


 (テル)はその笑顔にすっかりやられてしまったようだ。


「も、もちろん! こちらこそよろしくお願いします!」

「ウフフ、嬉しいです。仲良くしてくださいねテル様。それにしても転移者の三名とも女性だなんて、素敵な偶然ですわね」

「ええ、そうですねぇ……って、あれ?」


 その言葉に目を丸くする(テル)


「えっと……ウェルヘルミナ様、ボク男ですよ?」

「アハハ、面白い冗談ですね。テル様みたいな可愛い人が、男なわけないじゃないですか」


 (テル)の告白を笑い飛ばすウェルヘルミナ。


「いやでも、この服だってメンズだし……」

「異世界のファッションは良く分かりませんけれど、どんな服を着ていたってテル様が可愛い女の子に違いはありませんわ」


 (テル)が男だと全然信じてもらえない。

 だがそれも仕方がない――。

 実際に男になったとはいえ、外見上はほぼ少女だった時のまま。

 おチ〇チンの生えた美少女――そんな『男の娘』属性を絵にかいたような存在が、今の惣真照(そうまてる)なのだ。

 地球の服装に疎い異世界人であれば余計に、見た目だけならまず女性だと判断するだろう。


「あー、えっと……。ステータスオープン」


 言葉での説得を諦めた(テル)は、ステータスウィンドウを呼び出してウェルヘルミナに差し出した。

 当然そこには『性別:男』と書かれている。


「そ……そんな……!」


 その記述をみたウェルヘルミナは目を見開き、顔がみるみる青ざめていく。


(ボ、ボクが男だとそんなにショックなの!?)


 思わぬ反応に(テル)があたふたしていると……。


「サクヤ様、スズカ様、わたくしと友達になってくださいね」


 (テル)に背を向け、残りの二人に呼びかけるウェルヘルミナ。


「……アレ、ボクは?」


 呼びかけても完全に無視をされる(テル)

 ウェルヘルミナの中で、すでに(テル)は存在しない事になっているようだ。


(な、何で……?)


 戸惑う(テル)は、答えを求めて周囲を見回す。

 ウェルヘルミナに付き従う兵士たちは全員女性だ。


(そ、そういえば……)


 異世界に来てから一人も男性を見ていないことに気付く(テル)

 どうやらウェルヘルミナは、周りを全員女性で固めているようだ。


(ひ、ひょっとしてウェルヘルミナ様って、男性差別とか男性嫌悪とかそっち系の人……?)


 ここにきて(テル)の推理力は、不都合な真実にたどり着いてしまうのだった。

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