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1-14話 異世界転移は爆弾魔とともに①

「はーい、テル・ソウマさん。目を覚ましてください」


 パンパンッと手を叩くような音が聞こえ、(テル)は目を覚ます。


(って、これは……?)


 (テル)がいたのはただただ真っ白な空間。

 空も地面も真っ白で、地平線だけが遠くに一本の線として見えている。

 そんな現実ではありえない光景に、まだ夢ではないかと思う(テル)

 (テル)がそんな異様な状況に困惑していると……。


「テル・ソウマさん? 聞こえてますか?」


 声はするけど姿は見えない。


(……いや、目の前に誰かがいる気配が……)


 気配に意識を集中する(テル)

 するとそれは次第に形となり、目の前に少女が現れた。


 年は十二・三歳といったところ、服から髪、肌に至るまで全てが真っ白、瞳だけが金色の――あまりに美少女過ぎて現実感を感じない美少女だ。


「おはようございます、テル・ソウマさん。意識はハッキリしてますか?」

「えっと……。はい、まぁ……」

「ではテルさん。今の状況を理解していますか?」

「状況って……貴方は誰? ここは何処?」

「アタシは女神ニンフィア。ここはいわゆる次元の狭間と呼ばれる場所です」


 まだ半分寝ぼけた様子の(テル)に応える少女。


「数多ある人の世界の狭間に存在し、ここに来れるのは死んだ人間だけ。覚えていませんか? 貴方は死んでここに来たのですよ」

「女神? 狭間? それに死んだって……」


 頭を横に振りながら、いまだに呆けたままの脳を覚醒させようとする(テル)


(確かボク、爆弾事件に巻き込まれて……)


「……って、ああっ!」


 自分の身に起きたことを振り返り、(テル)はようやく状況を掴み始めた。

 そうしてまず気になったのは――陽莉(ヒマリ)の事だ。


陽莉(ヒマリ)は!? 陽莉(ヒマリ)は無事なんですか!?」

「えー、我々女神は他人の個人情報を語ることはできません。誰が死んだのかは、後で自分で確かめてください」

「そ、そんな……。い、いや待てよ……」


 慌てて爆破後の状況を思い返す(テル)

『……いで! テルちゃ…………で! いや…………おねが…………テ…………』

 最後に記憶しているのは、そんな陽莉(ヒマリ)の途切れ途切れの悲壮な声――。


(そうだ、死の間際にボクは確かに陽莉(ヒマリ)の声を聴いた。だから陽莉(ヒマリ)は生きているはずだ。きっと助けられたはずなんだ。そして……)


 そして――


「……そうか。ボクは死んだのか……」


 ――(テル)はようやく自分の死を理解した。


「ご自分の状況を理解していただけましたか? では話を進めましょう」


 言葉を失ってしまった(テル)に対し、真っ白なその少女――女神ニンフィア――が話を続ける。


「テル・ソウマさん、貴方にはこれから異世界転移していただきます」

「……へ? 異世界転移?」

「ご存じありませんか? 貴方、ラノベとかWeb小説とか読まないタイプの人ですか?」

「いえ、幼なじみがラノベ好きで、付き合いで少しは読みますけど……」


 ちなみにその幼馴染とは、当然ながら陽莉(ヒマリ)の事だ。


「……え、ホントにあの異世界転移? マジで女神様? ドッキリとかじゃなくて?」

「本当の異世界転移ですよ、テル・ソウマさん。よくあるテンプレの、ね」


 困惑する(テル)の様子に、肩をすくめてみせる女神ニンフィア。


「アタシだってホントは嫌なんですよ、こんなありがちでやっつけな展開は。まったく、ラノベというのはどうして同じような展開ばかりなんでしょう? ホントに嫌になりますねぇ~。少しくらいオリジナリティというモノを意識して欲しいです。……って、そんな事はどうでもいいですね。話を続けましょう……」

「えっと……ニンフィアさんでしたっけ……?」


 そんな女神ニンフィアに、(テル)が素直な疑問を呈す。


「ニンフィアさんて……そのテンプレな女神様なんですよね?」

「え、ええまぁ、そうですけど……」

「つまりニンフィアさん自身が、ラノベの定番みたいな存在ですよね?」

「うっ……」

「なのにラノベが嫌いなんですか?」

「あぅっ……」

「それって自己否定の極みなんじゃ……」

「ぐぬぬ……。う、煩いですね!」


 (テル)に責められたニンフィアは、女神らしからぬ逆切れを見せる。


「アタシだってやりたくてやってんじゃないんです! 仕事だから仕方なくテンプレ女神やってるだけなんですよ!」

「は、はぁ……」

「だいたいラノベなんて低俗な文芸を好きになれるわけがないでしょう? 『追放』とか『婚約破棄』とか『ダンジョン配信』とか、何か一つが流行ったらみんなそればっかり! しかも多少ガワが変わったところで、どうせ内容は『ざまぁ』か『ハーレム』か『スパダリ』か『俺Tuee』ですよ!」

「あ、あれ……?」


 そこで何かに気付いた(テル)だったが、もう遅い。(※以下オタク的早口その3。読み飛ばし推奨)


「どいつもこいつもテンプレテンプレ、何を読んでも同じ内容なら、あんなに多くの作品は必要ないじゃないですか! オリジナリティの欠片もない物語の、何が面白いのか全く理解できませんね! いいですか、物語というのは共感とオリジナリティなんです! どれだけ登場人物に共感できるか? そしてその登場人物を通してどれだけ自分の知らなかった感情を味わえるか? それこそが物語の醍醐味というものでしょう? そういう心を揺さぶる物語こそ、文学であり正しい文芸なんですよ! エロとかバイオレンスとかカタルシスなんて、そんな一般的で分かりやすいエンターテイメントは文芸に必要ありません! そういうのは漫画かアニメかハリウッドでやっていればいいんです! そもそも文芸というのは芸術であって、誰にでも理解できる大衆性は必要はありません! むしろ自分だけが理解できる、自分だけの物語を探すことこそが文芸作品を鑑賞する醍醐味でしょう? そんな事も分からない愚民どもが、くだらないラノベを読んで、他の文学を『理解できない』と叩くのです! それどころか自分が『理解できない』というだけで『駄作』呼ばわりまで! なんて愚か! そしてなんて罪深いのでしょう! どんな作品にも良いところはあって、それを理解しようとすることこそが読書であるべきなのに! 『理解できない』のは『理解できない』ヤツがバカなんですよ! なのにそういった蒙昧な意見によって、どれだけ数多くの素晴らしい文学が闇に葬られて――――――――――――」

「ちょっ! ストップストップ!」


 急に始まった女神様の怒涛のトークを、焦って止めに入る(テル)


(こ、この女神様、なんでこんなにラノベを嫌ってるの? しかも嫌ってるくせにやけに詳しいし!)


「…………んんっ。コホン、失礼。取り乱しました」


 (テル)の制止にニンフィアも正気を取り戻したようだ。

 その様子に安堵するとともに、自身の言動を反省する(テル)


(こ、この人……ベクトルは逆だけど陽莉(ヒマリ)や生徒会長と同じ人種だな……。こういうタイプに余計なことは言っちゃだめだ……)


 陽莉(ヒマリ)は『ラノベ好き』、女神ニンフィアは『ラノベ嫌い』と違いはあれど、ラノベについて語りだすと止まらないのは同じようだ。

 落ち着きを取り戻したニンフィアは「ともかく――」と話を元に戻す。

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