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1-12話 異世界転移をする方法

 思わず(テル)がつぶやいたように、それはファンタジーに出てくる魔法陣のように見えた。


「光ってる……これ、本物の魔法陣……?」

「な、何言ってるんだよ(テル)、本物なわけ無いだろ? 夜光塗料かなにかで書かれた落書きだって」


 剣人(ケント)が戸惑いながら(テル)に応える。

 と、その瞬間――。


 ――パァアアアアアアアっ!


 その魔法陣の光が増し、一際眩しく輝き出した。


「わぁあっ! な、何だ!?」

「ま、眩し――」


 目を開けていられないほどの光度で魔法陣が輝き出し、そして――

 ――十秒ほどで光は収まった。

 しばらく様子を見るも再び光りだす様子はない。


「……な、何だ? どうなってるんだ?」

 

 不思議に思った(テル)が魔法陣に触れてみるも、もはや光っていた痕跡すらなく、ただの落書きと化していた。


「たかが塗料であんな光るわけがないよね……って、アレ?」


 店の壁に残された魔法陣を改めて見て、(テル)はとあることに気付く。


「この魔法陣……そうだ、七芒星じゃないか」

「ななぼ……って、何だよ(テル)?」


 七芒星――それは星型多角形の一種で、七本の線分が交差する図形のことだ。

 確かに(テル)の言う通り、円形の魔法陣の中に大きく七芒星の記号が描かれている。


「……で、その七芒星がどうしたんだ?」

剣人(ケント)は覚えてないのか? 確かボクたちが小六の頃だから……今から四年前の事件だよ!」

「小六というと、(テル)陽莉(ヒマリ)と出会う前だな。……何か事件あったかな?」


 首をひねる剣人(ケント)にあきれた様子の(テル)


「四年前と言ったら決まってるじゃないか! 『高校生神隠し事件』だよ!」


 ――今から四年前、四人の高校生が姿を消した。

 消えたのは――今(テル)たちの通う白羽矢高校の当時の生徒だ。


 一年生・瀬名尊(せなたける)――。

 二年生・諸星蓮司(もろぼしれんじ)――。

 二年生・神宮寺澪(じんぐうじみお)――。

 三年生・不知火秋兎(しらぬいあきと)――。


 この四名が被害者となっている。


 彼らが消えた現場は、白羽矢高校の屋上だ。

 当日なぜ四人が屋上にいたのか?

 ニュースではそこまで語られていない。

 ともかく事件当日の昼休み、無断で屋上に上がった四人の生徒が、昼休みが終わっても降りてこなかったらしい。

 先生が探しに行くったが、屋上には誰もいなかった。

 その代わり――屋上の床に、大きな七芒星の魔法陣が描かれていたという。


 その不可解な状況に、人々は『彼らは異世界転移したんじゃないか?』と噂した。


 ――以上が通称『高校生神隠し事件』と呼ばれる出来事だ。


 話を聞いて剣人(ケント)もようやく思い出した様子。


「ああ、言われてみればあったな、そんな事件。たしか陽莉(ヒマリ)の兄さんが巻き込まれたっていう……」


 その事件の被害者の一人、瀬名尊(せなたける)陽莉(ヒマリ)の兄だ。


「その『高校生神隠し事件』が起こったのは、まだボクたちがギリギリ小学生の頃だ。それと同時に話題になった事があったよね」

「話題?」

「異世界転移をする方法――だよ」


 * * *


『異世界転移をする方法』


 ――どこからそんな噂が生まれたのかは分からない。

 だがその方法として――


『七芒星に七日ごと生贄をささげよ。さすれば自らの命をもって、異世界の扉は開かれん』


 ――そんな噂話が、確かに(テル)たちの耳に届いていた。

 その『異世界転移をする方法』を使って、消えた四人の高校生は異世界に転移していったんじゃないかと、人々は想像を膨らませたのだった。


 * * *


「へぇ、そんな噂があったんだ。俺は聞いたことなかったけど……。でもそれってあくまで噂だろ?」


 (テル)の語る『異世界転移をする方法 』に、だが剣人(ケント)は全く信じていない様子。


陽莉(ヒマリ)(おまえ)が読んでるラノベみたいに、本当に異世界なんてものがある訳がないし現実に行ける訳もないだろう。そもそも四年前の事件の時に、屋上に魔法陣があったという噂も面白半分って感じがして疑わしいしな。噂というより作り話じゃないのか?」

「ボクも今まではそう思ってたけど……でも実際に見ただろ? さっき目の前でこの魔法陣みたいな模様が光るという、不思議な体験をたった今したばかりじゃないか」

「それは……確かに……」


 つい先ほど二人の目の前で起きた不可思議な現象。

 実際に目撃した以上、いくら剣人(ケント)が懐疑的でもあり得ないと切り捨てるわけにはいかない。

 それに――。


剣人(ケント)は全く信じていないようだけど、世の中のみんながそうだとは限らない。中には噂を本気にしてしまうような人間がいないとは限らないじゃないか。実際に異世界に行けるかどうかじゃなく、『異世界に行ける』と信じ込んでいる人間がもしいたとしたら……」

「……って、まさか! その信じてる誰かってのが、今回の爆破事件を起こしたっていうのか? 異世界に転移できると思い込み、ファミレスの客を巻き込んで自爆したって?」

「まだ分からないけど、今の段階ではその可能性が一番高いんじゃないかな? そう考えると毎週事件が起こっていたことにも理由が……って、待てよ……」


 何かをひらめいた様子の(テル)は腕を組んで黙り込む。


(爆破事件はこれで七件目。これがもし異世界転移の準備だとしたら……)


剣人(ケント)、タブレット持ってたよね? ちょっと貸して」

「あ、ああ、分かった……」


 剣人(ケント)がタブレットを取り出す間に、(テル)は自分のスマホで素早く連続爆破事件を検索する。


「爆発事件が起きたのは……。一件目が白羽矢総合病院。二件目が西白羽矢駅。三件目が――」


 剣人(ケント)のタブレットに近辺の地図を映し出すと、スマホで調べたこれまでの爆破事件の現場の場所を、蛍光ペンで書きこんでいく。


「お、おい! 人のタブレットに何を書き込んでるんだよ!」

「水性ペンだから、拭けばすぐに消えるよ。それより……」


 今までの爆破現場と今いるファミレスの位置を線で繋げていく。

 地図上に現れた模様は――。


「な、七芒星?」

「やっぱり……」


 浮かび上がった魔法陣に絶句する剣人(ケント)と、納得する様子を見せる(テル)


「『異世界転移をする方法』の前文は確か『七芒星に七日ごと生贄をささげよ』だったよな。つまりこれまでの七件の爆破事件は、やっぱり異世界へ転移するための準備で間違ってなかったんだ!」

「なっ!? マ、マジでそんな馬鹿なことを信じてる奴がいるってのか?」

「そして後文は……『さすれば自らの命を持って、異世界の扉は開かれん』だから、あとは爆弾魔が自殺するだけで儀式は終わるはず……」

「じ、じゃあもうこれ以上爆発事件は起こらないのか?」

「……いや、待って。それは、どうだろう?」


 (テル)の推理が冴えてゆく。


「爆弾魔があの噂話を信じただけなら、爆破事件なんて起こさなくても、生贄に七人を殺すだけでよかったんだ。それなのにこの犯人は、爆破事件を起こし多くの人の命を巻き込んできた。だとしたら……自らの最後もただの自殺ではなく、同じ爆破事件で多くの人を巻き込んでやろうと考えていてもおかしくはない」

「じゃあ犯人は最後にもう一度爆破を? 自分もろとも周りの人間を道連れに? そ、そんな!? いったいどこで……!?」

「それは……そうか! わざわざ魔法陣を描いたのなら、最後はその中心が犯行現場……! 何処だ、魔法陣の中心は――」


 (テル)はタブレットの地図に書かれた魔法陣の中心を探す。

 そこは――。


「――ウチの高校!」


 ――(テル)たちの通う白羽矢高校だ。


「お、おい! まさか最後は、オレたちの高校が爆破されるっていうのか?」


 剣人(ケント)が慌てた声を上げ、(テル)の頬を冷や汗がつたう。


(――いつだ? いつ高校が爆破される?)


 必死に頭を回転させる(テル)


(今までの爆破は一週間ごと。なら次は来週――? いや待て、すでに七度の爆破が行われて、七芒星の魔法陣は完成している。準備がすでに終わっているなら、最後の仕上げはいつでも構わないんじゃないか? いやそれどころか、犯人の気持ちを考えれば、魔法陣が完成したのなら一刻も早く試したいと考えてもおかしくない。だとしたら最後の爆発は――)


 そのことに気付いた瞬間、一斉に(テル)の血の気が引く。


(――まさか今日!? この後すぐにでも学校が爆破されるかもしれない!?)


「――っ! まだ学校には陽莉(ヒマリ)が――っ!」


 想像してしまった最悪の可能性に、(テル)は慌てて駆け出していた。

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