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【七章終了】神様、探偵チートじゃ戦えません!【八章更新中】  作者: 雨墨篤
第七話 導かれし七人の異世界転移者たち
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7-9話 何も解決していないよね、この状況!

 ひとまず彼女――影文乙女(かげふみおとめ)を落ち着かせるため、彼女が引きこもっていた部屋のベッドに座らせる。

 ようやく泣き止んだ様子を見て、少しずつヒアリングを開始する。


「私……陽莉(ヒマリ)さんが羨ましかったんです……」


 乙女(オトメ)はそう言うと、少しずつ自分の事を語り始めた。


陽莉(ヒマリ)さんは私の理想とする女の子。とても美人で、優しくて、ホワホワしてて……まるでお姫様みたいな人でした。そしてそんな姫様を守る、カッコよくも可愛い騎士様、それが(テル)さまです。小さい体に男勝りの性格で、陽莉(ヒマリ)さんが困っていると颯爽と現れて助けてくれる。私は陽莉(ヒマリ)さんだけでなく、そんな素敵な(テル)さまにもずっと憧れていました」


 陽莉(ヒマリ)のような、お姫様みたいな人間になりたい。

 そして騎士(ナイト)のような(テル)に守られたい。


 ――それが乙女(オトメ)の望みだったという。


陽莉(ヒマリ)さんのようになりたい。きっとそう思っていたからでしょう。異世界転移というものに巻き込まれて、気付くと私は陽莉(ヒマリ)さんになっていました。そのことに気付いた時、私は怖くなりました。きっと陽莉(ヒマリ)さんに憧れ過ぎたせいで、私は彼女の体を乗っ取ってしまったんだって」


 他人の体を乗っ取る――これは異世界転生や転移においてまれにあるシチュエーションだ。

 ほとんどの場合対象は異世界人で、死んでしまったり魂を失ってしまった異世界人の体に憑依することで異世界にやって来るのがセオリーとなっている。

 どうやら乙女(オトメ)はその憑依タイプの異世界転移が起きて、陽莉(ヒマリ)の体を乗っ取ってしまったのだと勘違いしていたようだ。


「私が陽莉(ヒマリ)さんの体を奪ったせいで陽莉(ヒマリ)さんの魂が消えてしまった――。そう考えると怖くて、誰にも会えなくなっていたんです。ごめんなさい……黙っていてごめんなさい……」


 そうして俯き肩を震わせる乙女(オトメ)


「なるほど、そういう事だったのか」


 状況を理解した(テル)は、諭すよう乙女(オトメ)に優しく語りかける。


「でもそれは勘違いだよ乙女(オトメ)ちゃん。キミは陽莉(ヒマリ)の体を乗っ取ったわけじゃない。キミのせいで陽莉(ヒマリ)が死んじゃったり、消えちゃったりしたわけじゃないんだ」

「……それは本当なんですか?」

「ああ、間違いない。陽莉(ヒマリ)ならあの爆破事件から生き延びて、今も元の日本で元気に生活しているはずさ」

「そう……なんですか……よかった……うぅ……私てっきり……ヒック……」

「そうだよ、だからもう泣かないで、陽莉(ヒマリ)ちゃん」

「はい……クスン……」


 誤解だと分かりホッとする乙女(オトメ)は、代わりに浮かんだ疑問を投げかける。


「でも……だとしたら私は、どうして陽莉(ヒマリ)さんと同じ姿になっていたのでしょう……?」

「それならさっき言っていた、キミが『陽莉(ヒマリ)みたいになりたい』と思っていたのが原因だと思うよ。どうやら異世界転移すると、その人が望む姿になっちゃうみたいなんだよね」


 (テル)はヤレヤレと両手を掲げながら話を続ける。


栄太(エイタ)は凄い美少年になってたし、山本先生は幼女になっちゃうし。若返ったりイケメンになってたり、そうやって姿が変わっちゃうのも異世界転移ものじゃあるあるでしょ?」

「それは……確かにそうですね。でも……」


 乙女(オトメ)(テル)たちを見回しながら尋ねる。


(テル)さまに剣人(ケント)くんに生徒会長……。皆さんは何も変わってないようですけど……?」

「ああ、後ろの二人は全く変わってないみたいだね。でもボクはちょっと変わったかな」

「そうなんですか?」

「うへへ~。実はね、ボク男になったんだ」

「…………は?」


 (テル)の言葉に乙女(オトメ)は、血の気の引いた絶望の表情へと顔色を変える。

 そんな彼女の様子に、(テル)は気付くことなく会話を続ける。

 

「今のボクは、心だけじゃなく体も男なんだよ。異世界で長年の夢が叶ったんだ。あーでも少し失敗したかなぁ? こんなに姿が変わっちゃうなら、ボクだってムキムキのゴリマッチョに――」

「どういうことですか(テル)さま……?」

「――ん?」


 声を掛けられ、ようやく(テル)乙女(オトメ)の変化に気付く。

 能面のような無表情と、光の消えた黒い目で詰め寄って来る乙女(オトメ)


「男になった? それ……本当ですか? ……いえ、きっと冗談ですよね? 嘘ですよね?」

「い、いやその……ホ、ホントだけど……?」

「そ、そんな……あ、あり得ない……」


 今度は顔を真っ青にし、絶望の表情を見せる乙女(オトメ)


「……あのカッコ可愛かった(テル)さまが……男になった……?」

「えっと……は、はい……男になりました……」

「……い」

「い?」


「イッヤァアアアアアアアアアアッ!!!」


 その瞬間、乙女(オトメ)のつんざく悲鳴が響き渡った。


「ウソよウソ! あの(テル)さまが、あのカッコ可愛い(テル)さまが、なんであんな汚い男なんかに! ウソ、信じない! 絶対ウソよ!」

「あ、あの……乙女(オトメ)ちゃん……?」

「……ダメ、そんなの絶対ダメよ! 男なんて穢らわしい存在になるなんて……! 何とかしないと、何とか……そうだわ!」


 閃いた乙女(オトメ)(テル)に飛び掛かり、彼が「ちょっ、何を……っ!」とか言ってる間に、腰につけた[光の属性剣]を奪い取った。

 据わった目で(テル)を睨む乙女(オトメ)の手に、抜き身の剣がキラリと光る。


「大丈夫……見た目はまだ女の子だし、今ならまだ間に合うわ……」

「お、乙女(オトメ)ちゃん、何をする気……?」

「今すぐチ〇コを切り落とせば……大丈夫、まだ大丈夫よ!」

「ちょ、まっ! じ、冗談だよね!」


 返事代わりにブンッ!と振り回した乙女(オトメ)の剣が、のけ反った(テル)の股間をかすめる。

 彼女が本気なのを知ると、(テル)は慌てて部屋を飛び出した。


「待ちなさい! その汚らわしいモノを差し出しなさい!」

「ふざけんなぁあっ! 折角授かった大事な息子なのに!」


 乙女(オトメ)から必死の形相で逃げる(テル)の頭に、いつもの天の声が聞こえる。


『事件を解決しました。ジョブ経験値を取得します』

『経験値が一定数に達しました、ジョブ[探偵]のレベルが6から7にレベルアップします』

『パッシブスキル[探偵の観察眼]を取得しました』


「今はそれどころじゃ……てか、何も解決してないよね、この状況!」


 天の声にツッコミを入れる(テル)

 そして――


(テル)さまぁっ! 今すぐ助けますぅうっ!」

「いーやー! 殺されるぅううううっ(息子が)!!!」


 ――チ〇コを狙われた(テル)は、夜の城の中を全力疾走で逃げ惑うのだった――。

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