表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【七章終了】神様、探偵チートじゃ戦えません!【八章更新中】  作者: 雨墨篤
第六章 世界樹のペンダント盗難事件
101/113

6-24話 自分の気持ちに正直に

 事件解決より少し時間は戻り――。

 犯人追及のため関係者が二階ラウンジに集められた頃。

 関係者の中には剣人(ケント)もいて、(テル)が皆を前に推理を披露するのを眺めていた。


(本当に探偵みたいだ……。凄いな、(テル)は……)


 次々と謎を解く(テル)の姿に、剣人(ケント)は一人ため息をつく。


(いや、(テル)は昔から凄かったのか。陽莉(ヒマリ)もよく助けられたと言って(テル)を讃えてたし……。ちゃんと分かってなかったのは俺だけか……)


 そうしているうちに推理は佳境へと進み、ついに犯人が明らかになる。

 犯人と指摘されたエルウッドは、観念して全てを白状した。

 その後、標的だったドドンゴへ注目が集まり――。


「吾輩の愛をそのような狭義の価値観に留めないでもらいたい!」


 そうして堂々と自分の性癖を語るドドンゴに、周囲の人間はドン引きしていた。

 だが――


(ドドンゴさん……。凄いな、あの人……)


 どういうワケか剣人(ケント)だけは、ドドンゴを肯定的に捉えているようだ。


(男だ女だなんてことを超越して、自分の好きなものを堂々と語って、……。常識やルールに囚われる俺には無い強さだ。そういや俺が(テル)を好きになったのもそういうところだっけ。俺が越えられない『当たり前』の壁を越えた向こう側で、(テル)もドドンゴさんも自由に生きているように見える。だから俺は……きっと彼らが羨ましかったんだ。俺が絶対に持つことのできない自由な彼らが……)


 剣人(ケント)は自身と照らし合わせて、(テル)とドドンゴ二人への畏敬の念を抱いたようだ。

 その感情は次第に自省へと変わる。


(そうだな……。もう十分に分かったよ、自分がどういう人間なのか……。だから……俺もいい加減に覚悟を決めないとな)


 そして決意へと至る剣人(ケント)


(まずは(テル)に謝ろう。それで俺は、そこからまた新しく始めるんだ)


 * * *


 ――それから、朔夜(サクヤ)(タケル)たち他のメンバーがようやく起き始めた頃。

 彼らに先立ち、冒険者パーティが宿を出立することになった。


 ドドンゴは隠さなくなった不気味な笑顔で。

 エルウッドは魂の抜けたような無表情で。

 リーダーのフォレスティーナさんに連れられて、ともかく宿を出発した。


(……大丈夫かな、あのパーティ?)


 送り出す(テル)は不安になる。

 なにせ事件は解決しても、人間関係は何も解決しないままなのだから……。


(エルウッド君が冤罪を作ろうとしたのはいけないことだけど、でも一番の問題はドドンゴさんだよね……。あんなドМストーカーに粘着されたら、ボクだっていつまで耐えられるか分からないよ……)


 冒険者パーティの姿を最後まで見送りながら、(テル)はそんな感想を持ったのだった。


 そして(テル)たちも宿屋を出る準備を終え、皆が宿屋一階のロニーに集まり始めた頃――


「なぁ(テル)、ちょっといいか?」


 そう言って剣人(ケント)(テル)を呼び止めた。

 二人きりになると、剣人(ケント)は素直に(テル)へ謝罪する。


「済まなかった、(テル)。お前が男になった事で、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、どうしていいか分からなくなってしまって……。それで(テル)に当たってしまった……。本当にごめん(テル)

剣人(ケント)……いや、ボクも悪かったんだ。自分が男になれたことで浮かれてた。それで剣人(ケント)の気持ちも考えずに行動して……。ごめんよ剣人(ケント)

「いや(テル)、本当に謝らないでくれ。俺が一方的に悪いんだって事くらいもうちゃんと分かってる。(テル)の言ってた『マニュアル人間』というのが、まさに俺のことだった。そんな狭い価値観でしか物事を見れない、俺はそんなちっぽけな人間だったんだ……」

「け、剣人(ケント)……」


 いつになく意気消沈した様子の剣人(ケント)に、(テル)は努めて明るく返す。


「元気出してよ剣人(ケント)! とにかくさ、今回はどっちも悪いって事で仲直りしないか? それでお互い水に流して、また今まで通りの友人に戻ろうよ」

(テル)……お前はまだ俺を友人だって言ってくれるのか?」

「当然だろ! 何があっても剣人(ケント)はボクの親友だからね!」

「ありがとう……本当に(テル)は凄いな」


 落ち込んでいた表情を少し崩し、優しく微笑みながら剣人(ケント)が続ける。


(テル)は何があってもブレず自分の気持ちに正直に、自分なりの信念と価値観を持っている。俺には真似のできない人生を生きていて、そんな(テル)だからこそ俺は好きになったんだろうな」

「ふぇ? そ、そうなの……?」


 突然の誉め言葉に、戸惑いながら照れる(テル)

 だか剣人(ケント)の話は、ここから少しおかしな方向へと向かう。


「あのドドンゴさんもそうだ。(テル)と同じであの人も、俺には決して越えることのできない壁を越えた人だ。羨ましいよ……」

「うっ……それはちょっと……。ドМストーカーと同じカテゴリーにされるのは不本意というか……」

「でも……俺はようやく決意できたよ。二人を見ていて俺もいつまでも今のままじゃダメだ、越えられないと思っていた壁を今こそ超えなきゃいけないんだって」

「えっ? 待って剣人(ケント)、これどういう流れ? 今までは仲直りして友人に戻ろうって流れじゃなかったっけ?」


 急に変わった話の展開に、目を白黒させる(テル)

 構わず剣人(ケント)が話を続ける。


「特に己の愛を熱弁するドドンゴさんの姿には勇気を貰えたよ。己の性癖をあれだけ堂々と語れるなんて、並みの胆力じゃ出来ない正直さだ」

「いやそれはおかしい! あんなドМストーカーなんかに感化されちゃだめだから!」

「彼があのとき言った『吾輩の愛をそのような狭義の価値観に留めないでもらいたい!』ってセリフ、あれには心が震えて感動さえ覚えたよ」

「確かに言ってることはカッコイイ風だけど、それってド変態が言ったセリフですよ!?」

「だから俺も決めたんだ。俺の愛だって、男や女じゃ括れない、ただ(テル)にだけ向けるべきものなんだって」

「違う、そっちじゃない! ストーカーに感化されてBLルートとか、ボクが求めてたゴールはそれじゃない!」


 必死に否定する(テル)だが、もう剣人(ケント)は止まらない。


「――(テル)、俺はお前が好きだ! 男になっても愛してる!」

「何でこうなったぁあああああっ!?!?」


 こうして、とある宿場町で起きた事件は解決し――


 ――一人の少年が新たな扉を開いたのだった。



 ――第七章へ続く。

今回で六章終了です。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。


このキリの良いタイミングで、ブクマや☆評価など、まだの人はぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ