6-23話 世界樹のペンダント盗難事件(解決編④)
(うぉっ! レベルアップした!)
頭の中に天の声が響き驚く照。
(という事は、これで事件解決したって事かな? 今回のレベルアップは1だけか……さすがに上がりにくくなってきたみたいだね。ゲットしたスキルがどんなものか気になるけど、今は……)
照は改めて澪に向き直る。
「ともかく澪さん、衛兵にストーブを調べてもらってください。そうすれば……」
「……その必要はない。やったのは俺だ……」
そう言って照の言葉を遮ったのはエルウッドだ。
すでに彼は観念したように肩を落としていた。
その様子に、思わずミミーナが声をかける。
「エルっち、まさか本当に……? どうしてそんな事をしたニャ……?」
「…………」
「黙ってちゃ分からないニャ。ちゃんと話して欲しいニャよエルっち」
「……だ、だって……」
「だって……何ニャ?」
ミミーナの追求に、ついにエルウッドが心境を話す。
「だってドドンゴが気持ち悪かったから……」
「……へ?」
思わぬエルウッドの返答にフリーズするミミーナ。
「エ、エルっち……いくら何でもそれは……」
「ア、アンタ……それは亜人種差別発言よ……」
隣で聞いていたフォレスティーナもドン引きした様子。
「ち、違う、そういう事じゃない!」
慌てて弁明するエルウッド。
「ドワーフだからとかじゃなくて、その……笑った顔がキモイというか……生理的に受け付けない笑顔で俺を見てくるというか……」
「ちょっエルウッド!? アンタさらに酷い事言ってるわよ!?」
「だ、だって仕方ないだろ! 罵ったときのドドンゴの笑顔が、本当に気持ち悪いんだから!」
一度堰を切ったエルウッドの文句は止まらない。
「パーティを組んで最初の頃はなんともなかったんだ! でもホラ、エルフとドワーフって仲が悪いのが定番だろ? だからちょっとロールプレイでワザと冷たくしてみたんだよ。『ドワーフなんて森を荒らす野蛮人だ!』とか言ってみたりして。そしたらドドンゴ、凄い気持ち悪い笑顔になっちゃって……。それ以来隙あれば俺の事を、そんな笑顔で見るようになったんだよ! 俺がどんなに悪態ついて、何とか距離を置こうとしても、いっつもその不気味な笑顔で付きまとってくるようになっちゃったんだよ! もう嫌だ! いい加減にしてしてくれ!」
そしてドドンゴを睨みつけるエルウッド。
「どうしてこんなに罵ってるのに、笑顔で寄って来れるんだよ!? ホントやめてくれ、何考えてんだよ、ワケが分からない! 怖いんだよアンタ!」
エルウッドは一気にそこまで吐き出すと、ゼーハーと肩で息をする。
周りはその勢いに沈黙し、そのままドドンゴに注目が集まる。
エルウッドに散々ディスられたドドンゴは――
「だって吾輩、ドMなんで……」
――ニチャアと擬音がつきそうな気持ち悪い笑顔でそう申告した。
それを聞いた周囲の人間全員がフリーズする。
「初めてエルウッド殿に罵られたとき、吾輩は雷に打たれたかのような衝撃を受けたのだ。これほどまでに甘美な罵倒は、吾輩は初めての経験だった。それ以来吾輩は、エルウッド殿に罵声を浴びせられないと生きていけない体となってしまったのだ」
嫌な笑顔のまま満足げに語るドドンゴに、ミミーナが恐る恐る尋ねる。
「つ、つまりドドンゴは、同性愛者ってことかニャア……?」
「――同性愛だと?」
その瞬間、ドドンゴの表情がキモ笑顔から鋭い眼光へと変わる。
「吾輩の愛をそのような狭義の価値観に留めないでもらいたい! 吾輩は美しいものを愛している。物であろうが人であろうが、美しいものはすべて吾輩の愛の対象だ! 見よエルウッド殿の姿を! エルフ特有の美麗な容姿に、透き通る白い肌ときらめく白い髪。男でありながらまるで女神ニンフィアさまを彷彿とさせる神々しいまでの美しさ! それでいながら醜い嫌悪感を隠すことなく、吾輩の事を口汚く罵る様はまさに俗物的! このアンバランスな取り合わせこそ、エルウッド殿を至高の芸術へと押し上げているのだ!」
自分の性癖を熱く語るドドンゴに対し周りはドン引き状態だ。
「吾輩はこの美しさに平服せずにはいられない! だから……だから吾輩は決めたのだ! これから一生エルウッド殿の傍にいて、死ぬまで罵られながら生きていこうと!」
そう断言するドドンゴを、エルウッドは真っ青な顔で見る。
「な、何だよそれ……一生付きまとうって? ……や、やめろよ! 何で俺なんだよ!?」
涙目でイヤイヤをするエルウッド。
それに対し、ドドンゴが応える。
「……吾輩、ドМなんで」
その言葉に絶望的な表情を見せるエルウッド。
そして――
「悪口なんて言うんじゃなかったぁああああああっ!!!」
――そんなエルウッドの悲壮な叫びが、早朝の宿場町に響き渡った。