1-9話 名探偵にだってなれるはず!
「ふぃいいい……。もう勉強疲れちゃったよ……」
「何言ってんだよ照。中間テストはもう来週なんだから真面目にやらないと間に合わないぞ」
机に突っ伏し愚痴る照と、それをたしなめる剣人。
文化祭の直前には二学期の中間テストがあり、その対策として照剣人の三人は、テスト勉強のため陽莉の家に集まっていた。
「でもテルちゃんの言う通り、ちょっと疲れちゃったね。少し休憩しよっか」
勉強の手を止め一息つき、陽莉が何気なくつけたテレビからとあるニュースが流れてきた。
『次のニュースです。今から二時間ほど前、白羽矢市でまたもや爆破事件が発生しました』
画面には神妙な面持ちで原稿を読むアナウンサーが映し出されている。
『場所は南区にあるショッピングモール『白羽矢テラス』。死者12名、重軽傷者は33名。その手口からこれまで起きた連続爆破事件と同一犯の犯行だと思われます。毎週金曜日に白羽矢市内で引き起こされる爆破事件はこれで六件目。 今回も犯人からの声明は無く、動機は不明です。陰惨な事件がまたしても繰り返されてしまいました』
どうやら最近話題になっている連続爆破事件のニュースのようだ。
「また爆破事件だって。同じ市内でだなんて本当に怖いよねぇ……」
「死者が12人も……。身近にこんな事件が起こるなんてな……」
不安げな表情の陽莉と剣人に対し、照は憤りを滲ませる。
「ホントだよ、許せないってこんなの! どんな目的があるのかは知らないけど、大勢の人を巻き込んで、犯人はいったい何を考えてるんだ! そう思うよね剣人!」
「い、いやまぁ、思わなくはないけど……。でも俺たちがあれこれ言ったところでどうにもならないだろ?」
「それはそうだけどさぁ、腹が立つじゃないかこんなの! ねぇ陽莉?」
照に話を振られた陽莉が笑顔で応える。
「フフッ、テルちゃんてホントに正義感が強いよね」
「い、いや正義感とかじゃないけど……でも許せないじゃないか、こういう理不尽なことって。あーあ、できることならボクが懲らしめてやりたいなぁ」
「ふーん……だったらさ、私立探偵よろしく犯人探しでもしてみる?」
「へ? な、何言ってるんだよ陽莉?」
「だからね、推理小説の名探偵みたいに、警察が手を焼いてる犯人をテルちゃんが見つけ出すんだよ。アタシ、テルちゃんて名探偵になれる素質があると思うんだぁ」
「め、名探偵ってボクが? アハハ、無理無理そんなの。だいたい名探偵なんて創作の中の存在でしょ?」
笑い飛ばす照に同調する剣人。
「もし現実に名探偵が居たとしても照には向いてないだろう。名探偵と言えば冷静沈着なイメージで、直情的な照とは正反対だと思うけどな」
「剣人、それ褒めて無いよね? ……でもまぁ自分でもそう思うけど」
照と剣人は冗談と思っているようだが――
「え~、そんなことないよ」
――と、陽莉はどうやら本気でそう考えているようだ。
「だってテルちゃんは『誹謗中傷ビラ事件』(※1-2話参照)を解決してくれたじゃない」
「いやだからあれは偶然気づいただけだって言っただろ」
「それに、その事件だけじゃないよ」
解決できたのはあくまで偶然――という照に陽莉が反論する。
「小学二年の時に『兎小屋脱走事件』ってあったでしょ? あのとき兎を逃がしたのがアタシだって疑われて泣いていたのを、テルちゃんが原因を突き止めて助けてくれたでしょ」
「あ、あれだって陽莉が犯人じゃないって信じてたから、人的被害じゃなくゲージのほうに問題があるはずって考えて気づけただけだし……」
「他にも小五の時の『給食費紛失事件』だって、アタシが失くしたんじゃなくミカちゃんが隠したんだって見抜いてくれたじゃない」
「いやそれも犯行現場とタイミングから考えて、給食費はまだ教室の中にあるはずだって分かっただけだし……」
「あとは中二のときの『SNSなりすまし事件』もあったよね。アタシになりすました男子に、あることないこと書かれちゃったやつ」
「それこそよくある写真からの場所特定で、特別な事なんて何もやってないし……」
今まであった事件をつらつらと挙げ連ねていく陽莉に反論する照。
だが今度は剣人が「言われてみれば…」と陽莉に賛意を示しだす。
「照って考えるよりすぐ行動ってイメージだったけど、確かに今までいろんな事件を解決してきてるよな。俺は中学からの付き合いだけど、それでも他に覚えてる事件もあるし」
「でしょ? そうやってテルちゃんはいつもアタシを助けてくれたよね」
「そ、そうだっけ? ア、アハハ……」
思いもよらない賛美にたじたじとなる照。
「そう……テルちゃんはずっとアタシのことを助けてくれてた……」
今までの過去を思い出しているのか、うっとりと遠い目になる陽莉。
おや、なんだか少し頬が赤らんでいるような……。
「……陽莉?」
「――ううん、何でもない」
照の声にハッとして、慌てて居住まいを正す陽莉。
「ともかく! やっぱりテルちゃんは名探偵に向いてるんだよ」
「い、いやいや、そんな馬鹿な」
陽莉からの思いもよらない賞賛も、素直に受け入れられない様子の照。
「だから言ってるだろ。解決できたのは全部偶然だってば」
「ううん、そんなことないよテルちゃん」
だが陽莉は譲らない。
「確かにケンちゃんのいう通り、テルちゃんって直情的なところがあると思う。でも一度冷静になればどんな謎だって解いてきたじゃない。テルちゃんがその気になれば名探偵なんて簡単になれちゃうんだから」
「陽莉……」
「ずっとテルちゃんと一緒にいたから、アタシはテルちゃんがどれだけすごい人か知ってるよ」
「そ、そこまでボクの事を……」
そう断言する陽莉に、照は思わず胸を熱くする。
そこに――
「――ゴホン!」
わざとらしい咳払いで割って入る剣人。
「ほら、二人とも。そろそろ勉強を再開しようぜ。テストで悪い結果を出しちゃったら、その後の文化祭を楽しむどころじゃなくなっちゃうぞ」
「あ、ああ。そうだよな剣人」
「ケンちゃんったら相変わらず真面目だよねぇ」
そうして勉強を再開する三人。
だけど――彼らはまだ知らなかった。
ニュースに流れていた連続爆破事件が、自分たちの運命を変えてしまう事を。
そして陽莉から向いていると言われた名探偵に、照自身が本当になってしまう事を。
このとき――――照たちが異世界転移するまであと一週間。