第1話 コンクール後のカフェにて
終わってしまった。
今日は所属している吹奏楽部のコンクールの日だった。
結果は例年通り銀賞。
当日先生が病気で出られないというハプニングもあり、プロの方には「県大会いけるよ」と言われていたというのに、結局残念な結果だった。
もう大会もない。あとは残った高3までの半年間を悔いなく、楽しむだけ。
そう思っていた。
◇◆◇◆
「あー、明日部活行きたくねぇ…」
飲み終わったカフェラテのカップをテーブルに置く。
俺、高瀬悠斗は高校から近いカフェで、ぼやいていた。
「あんた、まだコンクールのこと気にしてんの?」
向かいの席で新作の飲み物を飲んでいる同じ部活の親友、白井綾華が呆れた顔で言葉を返す。
「だって、俺の実力不足で県に行けなかったのが目に見えてわかったじゃんか…」
実際、そうだった。
顧問の武井先生が病気にかかってから、合奏の指揮をして、指導していたのは俺だったのだ。
その結果、地区大会銀賞になってしまったのだから責任は当たり前のように俺に回ってくるのである。
「だーれも、悠斗のせいだなんて思ってないわよ。なんなら、『銅賞取らなかったのは悠斗のおかげ』って思ってる人の方が多いんじゃない?」
「だとしても合わせる顔がねぇんだよ。あんな意気揚々と『目指せ県大会出場!』って言ってたのにさ」
「誰もいけるなんて思ってなかったって」
「それはそれで傷つくんですけど?」
「じゃあ明日の部活休めばいいんじゃない?」
ニヤリと笑いながら、手のひらを返したようなことを言う綾華に嫌な予感がした。
「私から恵に『悠斗は責任から逃げたよ』ってちゃんと伝えといてあげるから」
「最悪な伝え方しないでくんない!?」
佐々木恵、俺が数週間前から付き合っている、同じ部活の彼女だ。
好きバレして告白したため現状、恵が俺のことが好きなわけではない。
嫌なわけでもなかったようで「好きになる努力もするから付き合おう」と言われた。
「好きになってもらえるように頑張ってるのに、めっちゃ好感度下げる言い方しないでくれよ…」
「じゃあ、明日もしっかり部活に来なさーい」
「ぐぬぬ…」
「ははは、おもろすぎる」
俺は拗ねながら残っていたドーナッツを口に頬張る。
「それにしても、恵も変わってるわよねぇ、
付き合ってくれるうえに、私たちの仲まで許容してくれるなんて」
「ああ、それはほんとに感謝してる。お前に対して恋愛とかは絶対ないけど、そう思われても仕方ないのにな」
「まあ、嫉妬もされないほど好かれてないってだけかもね」
「うるせぇよ!」
「あんた、さっきから全く言い返せてないじゃん、おもろすぎ」
「あーもうヤダヤダ、もう帰ろうぜ」
ため息をつきながら席を立ち、財布を出して会計に進む。
「もー、折角心が傷ついてるであろう悠斗を励ますためにカフェに連れてきてやったというのに、もう終わり?」
「最終的にえぐってるじゃねぇか」
でもおかげで、明日部活に行かなければならない口実ができた。
「じゃ、また明日ね!ちゃんと来るんだよ」
「へいへい、また明日」
◇◆◇◆
その夜、家に帰りつき就寝の準備を済ませて布団に入るとスマホに通知が来た。
『勝手に友達追加しちゃいました!すみません。
ユーフォニアムパートの木下美咲です!』