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第七話 月光狼

 その町の名前はヘルメースという。

 大昔に魔王との決戦の地となった場所でもあり、敗れた場所でもある。

 今はその城壁の上の崖で人々は生活を営み、戦いなどなかったかのようだ。


 人々は交易と農業で暮らしており、交易品と小麦を交換する形で生活している。

 崖の下の麦畑はこの町の人々の物のようだ。


 町は要塞都市だったときの名残か、迷路のように複雑で、門番の妻が営んでいるという宿を見つけるまでかなりかかった。

 今は宿の共用食堂で昼ごはんを食べている。


「この町の人たちって、幸せそうね。」

「ああ、魔物の被害がかなり少ないはずだからな。

 さっきの狼も町を囲っている城壁は壊せないだろう。」


 町に上がるまでいくつもバリケードがあり、そのたびに門番に出会った。

 狼に出会ったのは相当不運だったようだ。

 町には月光狼アルテミ・ウルフを見たことない人までいた。


「そうでもないさ、最近は畑が荒らされがちでね。

 ぎりぎり皆が食えている状況なんだよ。」


 そう話してきたのは門番の妻、宿の主人だった。

 頼んでいた小麦の麺料理が届く。


「畑が荒らされているというのは?」

「ああ、でっかいネズミが育てた小麦を食べちまうのさ。

 しかも奴ら賢くてね、バレないように少しずつ食べていくんだ。

 気づけば二十畑分も取られていたって話だよ。」


 シーナの眉がピクリと動く。

 ねずみがどうかしたのだろうか?


「グレイ、この麺料理、野営でも食べられないかしら?」

「うーん、買えばいけるかな.....。」


 シーナの顔を窺うが、まだ何か考え込んでいるようだ。


「シーナ、シーナってば。」

「.....ん、ああすまないシャロット。どうしたんだ?」

「この麺ってやつ後で市場で買いましょうよ。」

「そうだな、買ってやろう。」


 シーナは食べ物を食べないので買うものに関してはなんでもいいのだろう。

 依頼料を貰ってない割に、なぜか路銀はあるのだ。


「シャロット、グレイ、部屋に行こう。話がある。」

「でも話ならここで―――」

「わかるだろう、退治の話だ。」


 シーナは、真剣な顔をしていた。







「シーナ、月光狼アルテミ・ウルフを退治するんだろう。

 ならいつもみたいにゆっくりやればいいんじゃないのか?」

「.....今回は急がなければならないかもしれない。」


 シーナは俺とシャロットをまっすぐ見つめる。


「さっきのネズミというのが引っかかる。

 たぶん、普通のネズミではない。月光鼠アルテミ・ラットだ。」

「月光...ってことは魔物?」

「ああ、月光鼠は月光狼の餌となる。

 あのネズミは自分の巣を守ってもらう代わりに自ら狼の餌となるんだ。」

「それじゃあ狼が活発ってこと?」

「ああ、近いうちに襲撃がくるだろう。

 だからすぐにでも狼のねぐらを叩かないといけない。」


 すぐにと言っても.......

 今日戦った狼だって苦戦したんだ。そう簡単にはいかない。


「私は上位の狼を狩る。それまでに残りの狼を二人には退治してほしい。

 広範囲な攻撃なら、シャロットの炎で半分以上削れるだろう。」

「シーナ、話はわかったわ。でも私だけじゃ生き残った狼を振り切れない。」

「シャロット、わかっているだろ?グレイに抱えてもらえばいい。」


 シャロットは顔をゆがめた。








 討伐当日、夜中に俺とシャロットはおとりとして森に入っていった。


「シャロットさん、月光狼の本拠地まであとどれくらいです?」

「あと30分くらいかしら、シーナはもう着いているでしょうね。」


 シーナは俺たちが群れの5匹くらいを引き寄せている間にねぐらを強襲する。

 俺たちはその5匹をねぐらから遠ざけつつ、場合によっては退治するという感じだ。


 俺は魔導炉、シャロットからもらった短めの杖とナイフを持ち、

 シャロットは魔導炉、いつもの杖、ナイフ、油の入った瓶5本を持っていた。


「シャロットさん、前から思ってたんですけど杖って何に使うんです?」

「......今まで知らなかったの?」


 シーナも使っていなかったし、シャロットだって使っていないときが多々ある。

 これ何に使うんだ?


「まあいいわ、有名な逸話があるから教えてあげる。


『あるところに背の高い魔導師と背の小さい魔導師がいた。


 背の小さい魔導師が家を立てていた。

 しかし屋根まで魔法が届かない。


 背の高い魔導師はそれを手伝って、屋根まで完成させた。

 しかし煙突まで届かない。


 背の小さい魔導師は考えて、長い木の棒を持ってきた。

 木の棒を煙突のほうに向ける。

 するとちょうど魔法が届き、煙突は完成した.......。』


 わかりやすいでしょ?杖は魔法が届く範囲を広げるのよ。

 背の高い低いは腕の長さってところね。

 結局、魔導炉から魔法を放つ場所が離れていればいいのよ。」


 なるほど、だからシャロットは広い範囲を炎で覆えるように長い杖を持っているというわけだ。


「さあ、ねぐらまでもうすぐよ。気を引き締めましょう。」


 森の中は不気味なほど静かで、ねぐらに近いにも関わらず狼一匹も見当たらない。

 ねぐらに着くと、異様な光景が広がっていた。


 暗いので良く見えないのだが....

 まず、盛土が3層くらいある。

 それも盛土が拠点側はなだらかに、外側は絶壁になっているのだ。

 配置も、一方から入れば挟み撃ちが出来るような配置になっている。


 これ本当に狼ごときが考えたのか.....?

 絶対近接戦になるような構造になっているし、盛土の形も凝っている。

 

 シーナに聞いた時は半信半疑だったが、これは異常だな。

 シーナいわく、月光狼は不老であり、同じ群れが永遠と続く。

 子供が成体になれば群れの奴らと戦い、強さの序列を決める。

 序列で最下位になった奴は群れから追い出される。

 例えそれが成体になったばかりの個体でもだ。


 これを永遠と続けるから拠点の形も受け継ぐことができ、群れも無限に強くなっていく。

 シーナはそれを危惧して2〜30年ごとにここを訪れているらしい。


 まあ、今回は想定よりも強くなり過ぎたらしいが。



「シャロットさん、作戦通りに。」

「わかっているわ。」


 シャロットは後ろのカバンから油のはいった瓶を出し、油を空中に浮かべていく。

 それを一気にねぐらに振りかけて、一気に炎が燃え広がった。


「グレイ、来るわよ。」


 拠点から急いで逃げてきた狼たちが俺たちを見つける。

 あっという間に戦闘体勢だ.....。

 というか狼多くないか?聞いていたのは5匹ほどと言っていたが10匹以上いる。


 それに、狼たちの大きさはこれまでのはぐれと比べものにならない....。

 体調が2〜3mあるだろうか。

 それに、黒い毛で覆われている体の背には白い毛がすっと入っている。

 ゴリラのシルバーバックかよ。


 なんか、やばい気しかしない。


「シャロットさん!逃げますよ!」


 俺は急いでシャロットの背に抱きつき、魔導で思いっきり身を吹きとばす。

 やばい、数がやばい.....。

 どうやったら倒せる?

 とりあえず俺が機動力となって、逃げ続けるしかない。


「グレイ!どうするのよ!」

「待ってください!考えますから!」


 狼たちは俺たちをいつまでも追ってくる。

 俺たちを放しておくのは危険だと考えたらしい。

 

 考えろ、考えろ。

 今できることは

・)機動力と引き換えに魔法が届く範囲で狼を足止め(ただし届く範囲は5m強くらい)

・)俺が機動力を活かしてナイフで応戦(ナイフでの実戦経験なし)

・)シャロットに小石を撃ち込んでもらう(だいたい拳銃と同じくらい?)


 1番目は駄目だ。相手の数が多すぎる。止まったら狼の餌だ。

 2番目も洒落にならない。実戦経験もないのに勝てるはずがない。


 3番目は.....一番現実的だ。しかし、シャロットは連続的な発動が苦手だ。数をこなせるだろうか?シャロットの負担も心配だ。


 シャロットが空中で気絶でもしたら俺はシャロットを守り切れない。

 どうする....どうすれば......?


「グレイ、私なら大丈夫よ!指示をちょうだい!」


 そうだ、今までシャロットを頼ってこなかった。シャロットは自分より幼く、信頼してなかった。だからだろう、目が嫌いと言われ、ずっと嫌がらせをしてきたのは。


 今回は、シャロットを信じようと思う。


「シャロットさん!そこらへんの小石を狼に放てますか!?」

「向きが悪いわ!私を正面から抱えて!」


 俺は空中でシャロットを放り投げ、魔導で向きを変えて抱え直す。


「ありがとう!グレイ!動き続けて!」


 俺は直線的な動きで体を吹き飛ばし続ける。

 月明りしかない中、シャロットは杖を構え、流鏑馬のごとく狼に石を投げる。


 石を投げると言っても、拳銃並みの力だ。

 連続的な発動により、射程内で存分に力を加える。

 当たった狼は動きが鈍くなり、徐々に追いつけなくなる。

 シャロットは見逃さずに離脱した狼の額を撃ち抜く。


「シャロットさん、疲れてませんか!?」

「大丈夫...!まだいける!」


 彼女の声には疲れが見える。

 俺は魔法をもろに受けてる訳だが、背中が痛いくらいで問題ない。

 しかし、彼女が疲れてしまえば攻撃が出来なくなる。

 気絶でもすれば今後の攻撃手段がなくなる。


「今の狼の数は!?」

「あと7匹...!あともう少しよ!」

「あと3匹倒してください!後の4匹は止まって対処します!!」


 シャロットは杖を構え直し、小石を当てていく。

 狼との距離はもう10mもない。

 一見悪いことのようだが....シャロットの射程内だ。

 小石が確実に当たるようになるはず。

 しかし、疲れてしまえば精度も悪くなる。

 シャロットは何発か外しているようだった。


「グレイ....あと4匹......!」


 シャロットは相当疲れている。

 俺は一気に体を吹き飛ばし、距離を取る。

 シャロットを地面に置いて、俺は杖を構える。


「グレイ....私が...!」

「大丈夫です、後は僕に任せてください。」


 シャロットの魔法が拳銃だとしたら、自分の魔法はどれくらいだろうか?

 まあ自分も拳銃くらいだろうが、少し威力が高いかもな。

 射程が短いからあまり良くないが。


 狼は確実に迫ってきているが、大丈夫だ。

 これまでシャロットから複数発動を学んできた。

 3つまでなら複数発動できる。

 これを活かせれば.....


「狼ども!小石をくれてやる!!」


 俺は射程内にある砂利を魔法でかき集める。

 そして、用意はできた。


 三つの小石を投げ、一匹の狼に全て向ける!

 放たれた小石は射程までは加速していく。

 小石は射程から出ると慣性に従って狼にぶつかる。

 狼の体が厚いからか、貫きこそしないが、体にめり込む。

 狼はその場に倒れこみ、他の三匹の狼がひるむ。


 俺はナイフを取り出し、空中に放り投げてから魔法で投げ込む。

 また一匹仕留められた。


 これならいける....!

 あと2匹!

 

 すると、狼の動きが急に変わった。

 今までので学習したのだろう、ジグザグに走るようになった。

 しかも、俺の射程がわかるのか、射程の中に絶対に入らない。

 そして、狼の一匹がいきなりシャロットに向かって突進してきた。


「シャロットさん!」


 俺は狼を魔法で止める。

 しかし、突進の衝撃が俺の体にも伝わる。

 俺はシャロットの腰にあったナイフを取って狼の首に突き刺す。

 その狼は倒れた。


「シャロットさん!大丈夫ですか!」


 シャロットはあっけに取られている。

 顔も赤い、何か怪我でもあるのか?


「シャロットさん!」


「あっ、わ、私は大丈夫よ....。

 それより、もう一匹は.....?」


 もう一匹は....いない?

 待て、今いる場所は?


 近くには煙突が見え、明かりが見える。

 やばい、町の近くだ............。


 最後まで読んでくれてありがとうございます。


 もし面白いと感じたら、ブックマークや感想、評価、いいねを頂けると作者が泣いて喜びます。


 面白くなかったら☆1、面白かったら☆5、正直につけてください。


 よろしくお願いします。


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