第四話 ツンデレの少女
「シーナ、次の町まではどれくらい?」
「ああ、その前に立ち寄りたいところがあってな。きっとお前のためになる。」
そういってシーナは街道から外れた。
「ちょ、ちょっと!
さすがに予定遅れすぎじゃ―――」
「月光猪の討伐でわかったが、やはり魔物に意思がある。
今のままじゃ、お前を狩りに連れていくのは危ないんだ。」
だからって.......
くそ、いつも自分で起きれないのに親面しやがって。
でも、俺もシーナに迷惑かけたくない。
ここは素直に従うか。
街道を外れ、少し歩いたところに小屋があった。
煙突から煙が立ち上っているので人がいるのだろう。
「アルゴス、まだ生きてるか?」
とんでもない訪れだな、シーナは長生きっぽいから旧友であるのだろうか。
ドアが開いたと思ったら、小さい少女がそこにはいた。
茶髪で青い目、シーナより淡い青だろうか。
年齢は小学四、五年生くらいだろうか。
「じいのお客さん?じいなら裏にいるわよ。」
「.......アルゴスに孫などいたか?あの時はまだ青年だったと思ったのだが。」
どんだけ前の話だよ。
「おお、シーナじゃないか。ひさしいな。」
裏から出てきたのは、杖を持った白髪のじじいだった。
そして腰に付けているのはたぶん.....魔導炉だ。
「アルゴス、やはり老けているか。」
「それはそうだ。前に会ったのが10年ほど前だろう?」
「そうだったな。それで、この子供は?」
「こっちのセリフじゃ、お前が子供を連れているほうが説明がつかん。」
このじじい、強そうだな。
シーナが連れてきた理由はこのじじいにありそうだ。
「とりあえず入れ、お互いの状況を話そうじゃないか。」
シーナも老人も、どこか楽しげな様子だ。
「そうか、親がいなくなって.....」
「ああ、しかしこいつは親がどんな顔かも興味ないらしい。」
「ふむ、そしてこいつを見ろと。」
「ああ。」
二人が話している間、さっきの少女はどこかに行ってしまった。
何をしているのだろう?
「アルゴス、あの子は?」
「シャロットは、私の孫だよ。
親を亡くして、私が引き取っているんだ。」
「グレイと似ているな。」
シーナとじじいがこっちを向いてくる。
「お前さん、ずいぶん幼いが魔法を使えるのか?」
「はい、物を動かす程度なら。」
「なら、シャロットと共に鍛えよう。
シーナ、お前は私たちのために魔物でも狩ってろ。3人でシチューにする。」
「ふふっ、わかったよ。」
じじいは杖を持ち、外に出ていく。
「シャロット、この子に“炎の浮遊”を見せてやれ。」
そういうとどこからともなく少女が現れ、俺を見下ろした。
「こいつ、まだガキよ。私がやってることなんてわからないわ。」
「そう言うな、私からの頼みだから。」
「......じいが言うなら。」
少女は杖を取り出し、ポーチから出した蝋燭を粉々にした。
そしてそれらを空中に浮かべて全てに火を付ける。
少女は浮いている炎を俺の周りにぐるぐると漂わせた。
それはまるで、炎の妖精が踊っているような、そんな美しさだった。
「これでいい?ガキなんかがわかるとは思えないわ。」
この少女、ムカつくことばかり言うが腕は確かだ。
俺は物を浮かすことはできない。一つの方向に吹きとばすことしかできないのだ。
しかし、この少女は空中に物体を浮遊させている。
しかも魔導炉のエネルギーを熱エネルギーにして火まで付けているのだ。
俺より確実に上手い。
「凄いです、魔法を複数発動しているってことですか!?」
「えっ、まあそういうことね....。
じい、これでいい?」
少女はすぐそっぽを向いてしまった。
この世界では俺より年上だし、ガキと見られるのもしょうがないか。
「いや、シャロットとお前さんは一緒に練習しろ。
お互いの長所が見えるだろう。」
「ちょっと!私はこのガキから学ぶことなんてないわ!
それにこのガキの子守りなんて御免よ!」
少女はどこかへ行ってしまった。
そっちもガキのくせに.....
という言葉が出かけたが止めておく。
俺はこの少女より下手だしな。
「すまんな、えーっと名前は....」
「グレイです。」
「そうか、クレイ。シャロットはああゆう子でな。
もし何かあったら私に教えてくれ。」
「はあ。」
名前間違えてる上に匙投げやがった。
まあ、一人で練習するほかないか。
シーナは魔物を狩りに行ってしまったし、俺は早速外で練習を始めた。
半月ほど経っただろうか。外は寒く、たまに雪が降る。
気候はまだわからないが、現世でいうステップ気候というやつだと思う。
たまにあのじじいが稽古を付けてくれる。
しかし、自分で気付け、それかシャロットにでも教えてもらえというスタンスだ。
当然上手くなりやしない。
物を浮かすところから始めろと言われてもその浮かすのが出来ないのだ。
偽りでもいいから育てたいとか言っていたシーナはわからないと言って逃げた。
今はひたすらに大きめの石を空中に投げ上げている。
「うぅ、さすがに寒い.....。」
室内で練習するわけにもいかないので、外で練習している。
手はかじかむし、耳は痛いしで大変だ。
「雪が降ってるのよ、練習なんてやめなさいよ。」
後ろから声がした。
振り向くと、そこには少女、シャロットが立っていた。
「いえ、もう少し続けたいので。」
シャロットは呆れているようだ。
彼女から見ればお遊びにしか見えないのだろう。
「はあ、どうしてそんなに魔法ができるようになりたいのよ?」
どうしてと言われたら.....
「たぶん、シーナに迷惑かけたくないんだと思います。
シーナは俺を育てるとか言ってるけど、俺は足を引っ張りたくない。
なら、強くなろうと思うんです。」
「他人のためなの?」
「......たぶん、自分のためです。」
シャロットは呆れているようだった。
「浮遊はね、同時に別々のところから発動するの。
あなたはまだ一か所でしか発動ができていない、だからいくらやっても無駄よ。」
「は?」
「聞いてなかったの?」
「いえ、教えてくれるなんて全く思っていなかったので.....。」
「いくらやっても出来ないあなたが哀れに見えただけだわ。」
そう言うとシャロットは俺に近づき、杖を取り出した。
「複数箇所での発動をまず練習する必要があるわ。
そうね.....石を二つぶつけるところから始めましょう。」
それから、俺たちは二人で練習するようになった。
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私は両親の顔を覚えている。
そして、死んでしまった時のことも覚えている。
お父さんは魔法が使えなかった。
だからじいは出来損ないって言ってたっけ。
私はお父さんみたいになりたくなかった。
だから必死で魔法を練習した。
だから、あのガキが来た時は物凄く嫌だった。
無意識のように日常生活で魔法を使い、体の動きと魔法がぴったり重なってた。
才能の塊だ。
それだけじゃない、連続的な発動が物凄く上手なのだ。
ガキの育て親に聞けば、魔物との戦闘が多く、瞬発的、瞬間的な魔法を使うのが上手くなったらしい。
冗談じゃない。私はあのガキくらいの歳のころ、魔法すら使えなかったのだ。
今だって、集中してやっとの思いで魔法を発動している。
なのに、あのガキは無意識レベルで発動してる。
ずっと嫌いだった。その才能が妬ましく、嫌いだった。
しかし、あいつも努力してるってわかった。
雪の中で浮遊すら出来なくて苦しむ姿、それでも諦めず様々な方法で挑戦する姿。
私より努力してた。
私の魔法を使う目的は恐怖だったのに、ガキは自分のために使っていた。
私が教えることよりも、ガキから学ぶことのほうが多そうだ。