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第二話 実の親

 私がお前の母親に会ったのは1年以上前のことだ。


 私はある魔物を退治するために、村に長期滞在するつもりだったんだ。

 その村で、彼女に出会った。


「あなた、剣士でしょ。私の護衛をしてみない?」

「......断る。私は暇じゃない。」


 私は魔物退治に専念したかった。それに護衛なんて柄でもない。


「たった半年でいいから、ね?私の家を宿代わりにしていいから。」

「金には困ってない。それに、剣士なんてたくさんいるだろ?」

「私、今妊娠してて......

 女の剣士がいいの、男は鈍いから。」


 魔物の退治は......調査を含めてこの2年くらいでしようとしていたことだった。

 しかし調査は幾度もしていて、今年も同じようになるはず。

 半年程度ならいいと思った。


「.....わかった、半年だけだぞ。」

「やった!ありがとう、本当に助かるよ。」


 彼女はそう言って膨らんだ腹をさすっていた。


「ああ、まだ名乗ってなかったね。私はサラ・ガルシア。夫はもういなくてね。

 護衛とか、買い出しとか、いろいろ手伝ってほしいんだ。」


 サラは明るく言っていたが、どこか影があった。

 今思えば、父のいないお前を憂いていたのかもしれないな。






 そうして、私は魔物の調査と平行してサラの護衛をすることにした。

 普段は森に出向いて魔物の調査をし、必要な時にはサラの護衛をする。

 調査はおざなりになったが、サラといる時間は楽しかった。


「シーナ!朝だよ!」

「うぅ、サラ、まだ夜......」

「朝だって!」


 シーナと共に生活しているので、起こされることもしばしばだった。

 .........普段は自分で起きていたぞ?


「シーナ、今日護衛お願いできる?」

「どこか出かけるのか?」

「うん、隣町の診療所に。馬車で行くからシーナも支度して。」

「ああ、わかった。」


 サラは金に困っている素振りはなかった。

 おそらく、お前の父の遺産だろうな。


「馬車はきつくないのか?」

「歩くのも辛いでしょ?

 本当はお医者さんに出向いてもらいたいけど、町で買い物もしたいから。」


 そう言ってサラは馬車の外の景色を眺めていた。

 季節はちょうど収穫の季節で、畑は黄金に輝いている。


「綺麗ね、でも、出産する頃には刈り尽くされてるかしら。」

「冬に入って、寒いかもな。」

「でも、あなたがいてくれたら安心だわ。」

「どうしてだ?」

「んー....なんとなくよ。」


 サラは無邪気に笑った。

 彼女はもうすぐ母だというのに、少女のように無垢だった。


 町に着いて、診療所で診察してもらうと、もうあと一か月程だという。


「シーナ、男の子だと思う?女の子だと思う?」

「サラは元気だから.....男の子じゃないか?」

「やっぱり?最近お腹を蹴ってくるから、男の子かもしれないわね。」


 サラは、露店で何か選んでいた。


「何か買うのか?」

「うーん、もし女の子だったらどの装飾品が似合うかなって。」

「気が早いな。でも、私の地方では生まれる前にペンダントを送るんだぞ。」


 母のいなかった妊婦が生まれる子にも同じ思いをしないようにとあらかじめ送ったのが始まりとなった風習だ。

 私の地方では死産も、母親の死も多かった。


「ふーん、じゃあ私もこの子にペンダント送ろ。何かいいのないかな?」


 サラは村に帰るときまで、買ったペンダントを握りしめていたぞ。




 出産の日、私は護衛最後の日として部屋の外でじっと出産を待っていた。

 産声が聞こえたときはすごく安心したのを覚えている。


「シーナ、男の子だったわ。なんて名前を付けましょう?」

「考えていなかったのか?」

「考えてたわよ。でも、まだしっくり来てない。」


 私は、生まれたてのお前を見て思い出したんだ。


「グレイ........」

「えっ?」

「あ、いや、少し思い出してな。」

「誰の名前なの?」

「昔の偉人さ、この地を国としてまとめ上げたグレイ・ガンフリート王。

 うろ覚えだが、確かこの名だった気がする。」


 サラはなんとも言えない顔をした。


「今はない国の初代王様の名前を赤子につける?」

「いや、別に付けたいわけじゃない。ただ思い出しただけだ。」

「ふーん、まあ考えておくわね。

 でも、その王様って魔導師だったよね?」

「ああ、そうだが....」


 サラは悲しそうな顔を浮かべていた。


「うちの夫も魔導師って聞いたわ。

 一度だけ見たことあるの、物を宙に浮かしているところ。

 もしかしたら、この子にぴったりなのかもね........。」


 結局お前の名前はグレイとなり、名付け親は私となった。

 サラは、お前の父を深く愛していたんだろうな。




 それから私は護衛をやめて、魔物討伐に専念した。

 しかし、一週間に一回はこの村に戻りサラの家で過ごしたよ。


 そうやってるうちに半年ほど経ち、あの日が訪れた。


 魔物の行動に違和感を抱いていたんだ。

 行動がまとまりすぎていて、何かの意思を感じた。


 そして私は調査をもっと早くからしていれば良かったと後悔した。

 大量の魔物の足跡が、村の方へと伸びていたのだ。


 急いで村に向かったが遅かった。

 建物が崩壊し、魔物『月光狼』の群れが村を襲っていた。


 家で使っていた火があたりに燃え移り、村は火の海と化していたよ。

 私はすぐにサラの元へ向かった。


「サラ!どこにいる!サラ!」


 瓦礫をどかし、火を被りながら私はサラを探した。


「シーナ....?」

「サラ!そこにいるのか、今助ける......!」


 瓦礫をどかしたそこにはお前を抱いているサラがいた。


「シーナ....この子だけでも....。」

「いや、大丈夫だ。魔物は私が倒す。だから―――」

「私、もう駄目なの...」


 シーナの背中には、月光狼に引き裂かれた傷があった。それも、かなり深い。

 血が流れ、今にも死にそうだった。


「この子も火事の煙で朦朧としているの、この子だけでも.....」


 シーナはペンダントと、懐中時計のようなものを持っていた。


「できればこれもこの子にあげて.....片方は夫の形見よ。」

「..........わかった。この子だけでも助けだす。」


 サラはこっちに微笑み、意識を失った。


 私は朦朧としているお前を助け、今に至る―――。



—------------


 シーナは話し終わって疲れているようだった。

 きっと、サラのことを想っているのだろう。


「グレイ、お前はもう一人前だ。」

「でも、俺は風邪ひいてシーナを煩わせて―――。」

「それは誰にでもある。お前には私の支え無しで生きていける力があるということだ。」


 ........よく理解できない。

 俺はシーナの手を借りるのが申し訳ないんだ。

 だが、結局シーナに迷惑かけた。

 そこのどこが一人前なのだろう。


 シーナはバックの中を漁り、何かを取り出した。


「これは、サラから預かったものだ。」


 そこには、銀色のペンダントと、金色の機械があった。


「ペンダントは.....話した通りだ。サラからお前への贈り物だ。

 この機械、何かわかるか?」


 金色で、懐中時計のような見た目の機械。

 確か、魔導師である父親の方の形見と言っていたか.....?


「これは、お前がこれまで使っていた魔法の力の源だ。

 名を『魔導炉』という。」


 ......前々から不思議に思っていたことがある。

・魔法はどこからエネルギーを使っているのか。

・どうして俺は魔法を使えるのか。

 この疑問が解けた気がする。


 グレイはペンダントと『魔導炉』を俺に渡してきた。


「そのペンダントと『魔導炉』、渡す理由はわかるよな?」

「俺が、一人前だから.......?」

「そうだ。特に、『魔導炉』は力でもある。

 お前は主に日常で使っているが、人を殺すこともできるんだ。

 私が持っていれば破壊することも出来よう。だが、お前を認めるから、託したんだ。」


 俺は.....いうほど一人前だろうか。

 前世を思い返せば明らかだ、ガキでしかない。

 夢に溺れて、食費もままならない、ガキだ。

 そんな自分が、この力を使っていいのだろうか?


「シーナ、俺は俺のことを一人前だと思えないよ。

 シーナには早熟の幼児に見えるかもしれないけど、俺にとって俺はガキだ。」


 シーナはふっと笑う。

 何がおかしい?


「ははっ、お前がガキだと?

 馬鹿言うな。私が教えなくても何もかも出来ていたじゃないか。

 それに、自分をガキだと思うことができれば、大人じゃなくても一人前だ。」


 シーナは凛とした声で、はっきりと俺に言った。

 そこには何か、母性のような何かを感じた。


「しかしな、どうしても私はお前を子供として扱ってしまう。

 お前はもう十分、一人前で、一人で生きていけるだろう。

 だが、私はお前を偽りでもいいから育てたい。」


 シーナは、サラへの罪悪感があるのだろう。

 救えなかった、救えるはずだったと。


「だから、しばらく私の旅に付き合ってくれないか?」


 もちろん答えは決まっている。


「もちろん、シーナの旅に俺は付き合うよ。」


 もう雨は止んでいた。


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