プロローグ
「この設定ってもう既出だよね?キャラのデザインも王道って感じだし......
絵はきれいだけど何一つ面白いところがない、売れないよ。」
「は、はい....。」
「はいじゃなくてさ、君の個性がなかったらこのマンガは面白くならないよ。
また新しいの書いたら持ってきて。」
初めて持ち込んだマンガは、散々な言われようだった。
親の反対を押し切ってマンガを描いていたが、これ以降全く描いていない。
大学を出たまま一人暮らしをして、就職もしていない。
バイトをしていても、金もないし時間もない。
最初はマンガを描くことが好きだった。
今は描きたくもない。
持ち込みの後にもマンガを描いた。でも最後まで描き切れず、放り出してしまう。
夕食を買いに行くために、バイクに乗る。
大学のときに買ったバイクだが、燃料費を考えれば売ってもいいのかもしれない。
食費、光熱費もある。一人暮らしをするならまともに働かなくてはいけなかった。
バイクを加速させる。
俺はもう26だ。
20代半ば切ってるんだ。
食事に困らず、金に困らず、生きなくてはいけないはずなんだ。
もともと、一人暮らしを始めたのも親に迷惑かけたくなかったからだ。
親はもう歳で、夢を追いたいなんて言えなかった。
大学の金だって、奨学金を借りている。
親の援助なしで、夢を追いたかったはずだ。
バイクを加速し続ける。
そんなことまで考えていたら、夢まで嫌になってきた。
もう何もしたくない。
エンジンの回転数を上げる。ただひたすらに上げる。
車の間をすり抜け、前へ前へと進む。
クラクションを鳴らされるが無視する。
今は他人の注意なんて聞きたくない。
車と擦れそうになりながらも前に進んだ。
またクラクションが鳴った。
目の前に車がよぎる。
俺はなんとか、かわそうとするが間に合わない。
サドルを思いっきりひねってバイクは思わぬ方向に行く。
最後に見えたのは、電柱だった。