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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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98話


 3月22日(日曜日)


 予約の施術を終えて、大量のタオルを洗濯してから店内に戻った春香は、待ち合いのテレビの前に常連の男性おじさん達が集まっているのに気付いた。


(あ……もしかして……)


 壁掛け時計を見ると時刻は15時20分。


(鷹羽さんの出るレースの発走は15時35分だったよね……)


 今朝、いつものようにスポーツ紙をチェックして、雄太の出るG3の発走時刻をしっかりと覚えていた。


 テレビの画面を覗き見ると『G3トヨタ賞中京記念』と、大きな文字が映っていた。


(鷹羽さん……。見たい……。応援したい……。でも……)


 だが、映像であっても雄太の姿を見てしまったら、好きな気持ちが溢れ出してしまうかも知れない……。


 もしかしたら泣いてしまうかも知れない……。


(見たいけど……でも……)


 春香が迷い立ち尽くしていると、一般の常連客である老人が声を掛けて来た。


「おぉ、春ちゃん休憩か? 一緒に競馬見ないか。面白いぞぉ〜」

「川下のおじいちゃん……。私は……」

(見たい……。初めて重賞を走る鷹羽さんを応援したい……)


 ギュッと目を閉じ、雄太の手紙を思い出す。


 『本当は見に来て欲しいですが、今は無理は言いません。

 ただ応援していてください。

 今の俺はそれだけで十分です。』


(鷹羽さん……)


 春香はニッコリと笑って一歩踏み出した。


「仕方ないなぁ〜 。少しの間だけですよ?」


 春香がテレビに近付くと

「春ちゃん。ジジィのオススメは、このぼんだ 」

と雄太を指差した。


(え……?)

「この坊の父親は天才と呼ばれた良い騎手でな。この坊も良い騎手になるぞ」


老人はニコニコと笑いながら言う。


「そうなんですね」


 春香は笑いながら答えたが、胸がザワザワとするのを感じた。


(鷹羽さんのお父さんって、有名な騎手の人だったんだ……)


 雄太の育った家庭を知ってしまうと、やはり自分とは住む世界が違い過ぎると思い知らされる。


(大丈夫……。私が鷹羽さんを好きなだけだから……。それだけだから……。誰にも迷惑はかけないから……。だから大丈夫……)


 何度も雄太の姿が画面に映る。キリッした顔に視線が釘付けになる。


(やっぱり馬に乗ってる鷹羽さんは格好良いな……)


 ジッと見ている訳にもいかず、他の男性おじさん達と会話をするが、どうしても目が雄太の姿を追ってしまう。


(鷹羽さん……。応援してます…)


 ゲートが開くと歓声が上がる。


「行けぇ〜」

「頼むぞぉ〜」

(鷹羽さん、頑張ってくださいね)


 雄太は中団辺りにつけていた。


 何度も何度も競り合っているのを見ていると、ドキドキが止まらなくなる。ギュッと握った手が震える。


(鷹羽さん……鷹羽さん。頑張ってください)


 初めての重賞だからか、雄太は順位を上げられずにいた。


(鷹羽さん……)


 祈っても勝てるとは思っていないが、祈らずはいられない。


 雄太の勝利は勿論だが、無事にレースを終えて欲しい。


(頑張ってください……。私は、応援する事しか出来ない……)


 ゴールが近付いて来ても、まだ先頭に立てないでいる雄太を見てグッと握った両手に力が入る。


(もう少し頑張ってっ‼)


 何とか順位を上げたが、ゴール板を駆け抜けた雄太は五着だった。


「おぉ〜」


 おじさん達から歓声が上がる。


「いやぁ、初めての重賞だったのに掲示板は凄いぞ」

「鷹羽のぼん、頑張ったな」


 おじさん達は口々に褒めているが、春香は雄太の気持ちを思うと切なくなる。


(鷹羽さん、悔しいだろうな……)


 優しい雄太が悔しがるのだから、やはり勝負の世界の人間なのだろうと思う。


 それでも、人間鷹羽雄太も、騎手鷹羽雄太も好きな気持ちは変わらないでいた。




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― 新着の感想 ―
雄太君も重賞。 テレビ越しに気にかかった春香ちゃんでしたが見ないようにとするも常連さんから誘われ見る事に。 そして雄太君が天才騎手の息子だと知る。 自分と住む世界が違うと思ってしまいますが思わず見入っ…
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