97話
(可愛い唇にキス……。豊満な胸……。うわぁぁぁぁぁっ‼ 駄目だっ‼ 想像するなっ‼ 俺っ‼)
雄太は何も言わずに、自分の布団の中に潜り込んだ。
「お〜い。ゆ・う・た・くぅ〜ん」
そんな雄太を、掛け布団の上からツンツンと楽しそうに梅野はつついた。
「あれ? 市村さんって、そんなに胸おっきかったっすか? そんな風には見えなかったっすよ?」
純也がのほほんと訊いた。
「ソ……ソルっ‼ そんな事を訊くなぁ〜っ‼ てかっ‼ お前、どこ見てたんだよっ⁉」
「え? 普通、見るっすよねぇ? ねぇ、梅野さん」
「胸派なら当然だよなぁ〜」
雄太の抗議をサラリと流し、純也が梅野に話を振る。
(この二人はっ‼)
梅野は、当然と言った感じでうんうんと頷いた。
「俺も、最初は気付かなかったんだけどさぁ〜。施術が終わってから、近所の喫茶店でお茶しながら話そうって事になった時に、着替えて来た市村さんを見て感心したんだよなぁ〜 。良い育ち具合してるなぁ〜ってぇ〜」
「う……梅野さんっ‼」
雄太の叫びを無視して、梅野は真面目な顔をして、両手を純也の肩にポンと置いた。
「まぁ、聞きたまえ胸派の純也くん〜。普段は施術の邪魔になるとかで、何とかって奴で胸を押さえ込んでるんだってさぁ〜。だから、私服の時は……」
「梅野さんっ‼ そんな説明しなくて良いですからっ‼」
もちろん、雄太の抗議は華麗にスルーされる。
「そんなにっすか?」
「ソルっ‼」
「そうそう。例えるならメロン〜」
「梅野さんっ‼」
「うはぁ〜。メロンっすかぁ〜」
「ソルっ‼」
「豊潤なメ・ロ・ン」
「梅野さんっ‼」
「いやぁ〜。若いって大変だねぇ〜」
梅野はそう言って、腹を抱えてゲラゲラと笑った。
「梅野さんっ‼ 早く自分の部屋に帰って寝てくださいっ‼」
布団の中で丸まりながら雄太は叫ぶ。
「えぇ〜。俺、今日はここで寝ようと思ってたのにぃ〜。冷たい事を言うなよぉ〜 。まだ8時にもなってないじゃないかよぉ〜 」
梅野はゲラゲラ笑いながら、更に雄太をツンツンとつついた。
(くぅ〜っ‼)
どうやっても、梅野には勝てない雄太は更に丸まった。
「今週は、鈴掛さんは京都のG2に出るから中京には来てないしぃ〜。 俺、淋しいんだよねぇ〜。だから、相手してくれよぉ〜」
確かに、鈴掛は京都競馬場で開催されるG2に出る為に中京には居ない。だからと言って、自分の部屋で エロトークしなくても……と雄太は思った。
「初騎乗の時は、緊張しない為に一緒の部屋で寝るんだぁ〜って言ってたのは分かったけど、結局お前らずっと一緒に寝てんじゃないかぁ〜」
「それは、ソルに言ってくださいっ‼ ここは俺の部屋ですっ‼」
「え? 今更? 俺、この先も雄太と一緒に寝ようと思ってんだけど?」
梅野が雄太をかまうのを楽しそうに見ていた純也が呑気に言った。
その隙に、梅野は純也の敷いた布団に潜り込んだ。
「ちょっ‼ 梅野さんっ‼ 俺の布団取らないでくださいよぉ〜」
純也の抗議も虚しく、梅野は掛け布団をかぶり亀のような体勢で雄太をつつき出した。
「ゆ・う・た・くぅ〜ん。私服の市村さんの話を聞きたくないのぉ〜?」
「お……俺は、もう寝ますっ‼」
雄太は寝たふりをしようとしたが、その後も純也と梅野は
「手の平サイズがぁ〜」
「形がぁ〜」
「感度も大事だぞぉ〜?」
と盛り上がっていた。
(俺……今日、眠れるのか……?)
男として興味がない訳ではない。
人並みに興味はある。
(キス……。市村さんとキス……。うわぁぁぁぁぁっ‼)
布団の中で、妄想と欲望と理性と戦う雄太だった。




