96話
「ヒデェー。俺、ギブって言ったのにぃ〜」
「ソルが大人の恋愛とか言うからだろっ⁉」
不服そうに言って頬を膨らませる純也に、雄太が顔を赤くしながら叫んだ。
「だって、マジで大人だなって思ったんだから仕方ないだろっ⁉」
梅野の背に隠れ、盾にしながら純也は叫び返す。
梅野は、純也のほうに振り返り頭をグリグリと撫でた。
「今のは純也が悪いよなぁ〜」
「え? 俺? 俺が悪いんっすか?」
純也は、梅野に頭を撫でまくられながら訊ねた。
「だって、圧倒的に言葉足らずじゃないかぁ〜。純也の言い方だと、雄太が市村さんにあ〜んな事やこ〜んな事をして、大人の階段を一気に駆け上ったみたいだろぉ〜?」
梅野は、自分の後ろで座り込んでいた純也をその場に置き去りにして、スタスタと部屋の中に入って来た。
「お……大人の階段ってっ‼ お……俺は、何もしてませんからねっ‼」
雄太は、更に顔を赤くしながら叫んだ。
そんな雄太を見て
(やっぱ、雄太はまだまだガキだなぁ〜。可愛い奴ぅ〜)
と梅野は楽しくなる。
「そうだよなぁ〜。雄太が、市村さんに無理矢理何かしようとしたら、直樹先生にボコられてただろうしなぁ〜。VIPルームのカーテンってヤバそうな客の時に使うんだぜぇ〜? 市村さんに何かあったら、直樹先生が即乗り込めるようにってぇ〜。知ってたかぁ〜?」
(……あのカーテンって、そう言う意味があったんだ……)
雄太は、春香が『変に触って来たり、触らせようとしたりする人が居るのに、鷹羽さんが『触られてる』って言うから』と言っていたのを思い出した。
ドアを開けるより、カーテンのほうが駆け付けた時に対処が早い。
(俺も、カーテンにさせるような事を言っちゃったけど……)
自分の失言を思い出すと恥ずかしさで顔が赤くなる。
「直樹先生って、スッゲェー優しそうだったっすよ……?」
「あれぇ〜? 言ってなかったっけぇ〜? 直樹先生って、あの辺じゃ有名な猛者だって噂だぞ? 不良グループを一人でブチのめしたとか、暴走族を壊滅させたってぐらいのぉ〜。まぁ、あくまで噂だけどなぁ〜」
梅野は純也を振り返りながら言った。
「マ……マジっすか……? 人は見かけによらないっすね……」
純也はそう言って、ブルッと体を震わせた。
そんな純也を見ながら、梅野は純也の敷いた布団に座った。
「雄太ぁ〜 。純也はさ、雄太は自分の感情だけで突っ走る事もなく、好きな人を思いやれるくらいの大人になったって、言いたかったんだと思うぞぉ〜?」
梅野の言葉を聞いて、雄太は チラリと純也を見る。
「そうっ‼ それそれ」
うんうんと頷きながら純也は言う。
「なら、そう言えよ」
雄太はジト目で純也を睨む。
「俺は、そう思うつもりで言ったんだよっ‼」
純也は、恐る恐る四つん這いで部屋に戻りながら、そう言い張った。
「そう言う意味には聞こえなかったし、雄太には伝わってなかったんだぞぉ〜?」
「そうっすか? おっかしいなぁ〜?」
雄太からの追撃を防ぐ為に、梅野を盾にしながら純也は言った。
「で、さ」
梅野はそう言いながら、雄太の太ももをツンツンとつついた。
「え? 何ですか?」
訊ねた雄太に、梅野はニッコリと満面の笑みを浮べた。
経験上分かってしまう。
(こ……この笑い方は……)
ヒクッと雄太の頬が引きつった。
「雄太は、市村さんとそう言う事をしたいって思った事ないのかぁ〜? あの可愛い唇にキスしたい〜とか、小柄なのに豊満な胸に顔を埋めたいぃ〜とかぁ〜」
ボンっ‼
そんな効果音が聞こえる程に、 一気に雄太の顔が真っ赤になった。




