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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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889話


 春香から第四子の妊娠報告以降の雄太はまさに絶好調といった感じだ。


 9月29日セントウルステークス、10月6日京都大賞典、同月13日京都新聞杯、同月19日デイリー杯と立て続けに重賞優勝を飾っていた。


 調教終わりにスタンドへと向かう道すがら、純也はご機嫌な雄太に訊ねる。


「雄太。ここんとこ絶好調だな」

「ああ。生まれてくる子供の為にも頑張らなきゃって思ってんだよ」


 雄太は手にしていた携帯電話の裏側に貼ったプリントシールを見る。




 約一週間前、凱央と尚道の運動会に純也は来ていた。


 可愛い教え子の凱央と尚道の成果を確認するという為と春香の弁当を食べる為だ。


 『あ、そうだ。ゲームセンターに面白いモンがあったんだぜ』


 純也が雄太に見せたのは写真がシールになっている物だった。純也と同じくゲームセンター好きの後輩と行った所に設置してあったと聞いた。


(こ……これならいつでも春香達の顔を見られるっ‼)


 珍しいからといって、野郎の後輩と撮らなくてもというツッコミを忘れてしまって、純也はブンむくれていた。


 後日、雄太は春香と子供達をつれていき、ワーキャーしている女子高生と狭いブースに辟易しながら撮ったのだ。


 擦れて薄くなってたりしたら、またゲームセンターに行くぞと意気込んでいた。




 騒がしいスタンドで騎乗依頼が入るのを待っている後輩達に会釈されながら、隅に移動する。


 そこは春香が無料マッサージしていた場所だ。壁には、春香の懐妊とマッサージの一次中断の貼り紙があった所為で、薄っすらと日焼けの跡がある。


「んで、今度の子の性別は……」

「言わないからな?」

「知ってるっつうの」

「なら良いけど。梅野さん、俺の顔を見るたび未来のハニーは元気か? ってうるさいんだよ」

「梅野さん、自分の歳忘れてるだろ?」


 純也がゲラゲラと笑う。


 雄太の第四子が女の子で結婚が出来る歳になる頃、梅野は四十五歳になっている。


 「絶対、梅野さんに嫁にはやりませんからっ‼」


 スタンドにくる前に会った梅野がニヤリと笑った。次のセリフが分かっているから、雄太は捨て台詞を吐いて猛ダッシュで逃げたのだ。


 純也は涙を浮かべながら笑い転げている。


「冗談だよなって思ってるんだけど、梅野さんの真剣な目を見ると怖いんだよぉ……」

「なぁ……」

「なんだよ?」

「俺が結婚して女の子生まれたらヤバい……?」

「え? そうだな。うちの子より若いから、梅野さんのマイスイートハニーはソルの子になるな」


 純也はサァーっと顔色が青ざめた。


「梅野さんが……義理の息子……? うわぁ……」


 純也は膝に頭がつくぐらいに体を折って呻いた。


「何やってんだ……? 純也……」

「あ、鈴掛さん。お疲れ様です」

「ほえ? あ、鈴掛さん」


 純也はムクリと体を起こす。


 雄太と純也の前に座った鈴掛が、少し疲れているように感じた。


「鈴掛さん。最近忙しそうでしたけど、何かあったんですか?」

「あ〜。えっとだな、忍が入院してるんだ」

「え? 入院?」

「何かあったんすか? 病気? 怪我?」


 雄太も純也も目を丸くして矢継ぎ早に質問を投げかけた。


 鈴掛は右手を左右に振った後、小声で話し始めた。


「実はな、切迫早産の危険性があるってやつだ」

「切迫早産……? え? 忍さん、妊娠してたんですか?」

「聞いてなかったっすよ?」


 鈴掛に合わせて小声で雄太達も話すが、かなり驚いていた。


「安定期に入ったら言おうと思ってたんだが、その矢先に入院って事になっちまってな」

「そうだったんですね。もう大丈夫なんですか?」

「ああ。出産まで入院とかは免れたよ」


 ホッと息を吐いた鈴掛に、雄太も純也も安心をした。


「予定日はいつなんすか?」

「12月だ。末だから、1月にずれ込むかも知れん。赤ん坊がちょい小さいらしくてな」

「んじゃ、雄太ん家の四人目と同級生っすね」

「ああ」


 離婚後、色々とあった鈴掛が再婚をした事は雄太達も本当に嬉しかった。


 その上、懐妊をして出産を控えている事は嬉しいなんてもんじゃないなと、雄太は鈴掛の優しい笑顔を見ながら心がポカポカと温かくなった。






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