886話
しっかりとご馳走を食べ、雄太がケーキをカットする。
春香はチョコプレートを三分割すると、凱央達のケーキの上に置いた。
「ママ、チョコたべないの?」
「うん。凱央達が食べてね」
「アリガト、マーマ」
「マッマ、アイアト」
たくさんのイチゴを一粒ずつ味わって食べる。春香は幸せだなと思っていた。
イチゴは子供の頃から好きだったが、祖母と住んでいた頃は年に一回誕生日に買ってもらったショートケーキの上に乗ってあるイチゴしか食べられなかった。
直樹達の養女になり、初めてイチゴをいっぱい皿に盛ってもらった時は食べてしまうのが惜しくて、ゆっくりゆっくり時間をかけて食べていたぐらいだ。
「美味しいな。雄太くん、ありがとう」
「春香が喜んでくれるのが一番嬉しいんだぞ」
「うん」
子供のように屈託のない笑顔が見られるのなら、毎日でもイチゴを買ってやりたくなる。
(俺、春香を甘やかしまくりのお義父さんと似てきた気が……)
何度となく直樹に似てきたと言われて、嬉しいようなむず痒いような複雑な気持ちがした。
ゆっくりとお茶を飲んでいた理保は、ふと思い出したように春香のほうを見た。
「そう言えば春香さん。雄太には話したの?」
「え? 何? 何かあった?」
雄太は驚いて春香と理保を交互に見る。春香は少し照れたような顔をして、理保は嬉しそうだ。
「えっと……」
「うん。何?」
「出来たの……。四人目」
頬を赤らめる春香の前で、雄太は思考が停止して固まった。
「出来た……? 四人目……? えっ⁉ 四人目ぇ〜っ⁉ マジでっ⁉ 確定っ⁉」
叫んだ雄太のほうを凱央達はマジマジと見る。理保はコクリと緑茶を飲む。
「もう、雄太ったら。落ち着きなさい」
「だ、だ、だって。てか、何で母さんは知ってんだよ?」
「春香さんが、金曜日に病院に行ってくるから凱央達を見ていて欲しいって言ったからよ?」
のほほんと落ち着いて言う理保から、視線を春香に移す。
「悪阻とか……体調不良だったりした……?」
「ううん。それがね、全くなくて……。予定日は二月末だよ」
「二月末? あれ? 今九月だよな?」
そこまで言って雄太は再び固まった。
「あら、雄太でも四人目となれば、予定日から妊娠何週目って計算出来るのね」
「母さん……。俺を何だと思ってんだよ……」
小さく溜め息を吐いて、雄太は両手で春香の手を握り締めた。
「突然でビックリしたけど……。ありがとう、春香。体を大事にしてくれよな?」
「うん」
まだ話が理解出来ない子供達はキョトンとして雄太を見ている。
「凱央、悠助、俊洋。お前達の弟か妹が、ママのお腹にいるんだぞ」
「いもうとかおとうと? ママのおなかに?」
「オトウチョ?」
「マッマノオナカ……?」
凱央は悠助や俊洋という弟がいるから、ほんの少しは弟と言う言葉は理解出来ているようだが、悠助はなんとなくといった感じで、俊洋にいたっては全く理解出来ていなさそうだ。
「そうだ。ママのお腹に赤ちゃんだ。だから、お腹にタックルしたりしたら駄目だぞ? それと今までよりお手伝い頑張ってしてくれよな?」
「は〜い。いっぱいおてつだいする〜」
「ボクモ〜」
「オテツライシュル」
子供達が元気に春香の手伝いを了承してくれる。それが雄太には嬉しいのだ。
凱央が春香をジッと見詰める。
「うん。ママ、赤ちゃんいつくるの?」
「ん? 二月の終わりから三月になるぐらいだよ」
「そっか。ぼくね、おとうとでもいもうとでも、なかよくするよ」
「凱央……。ありがとう」
すると、悠助が立ち上がり春香のところへと近づく。
「マーマ」
「なぁに?」
悠助は春香にギュッと抱きついてから、そっと春香の腹を撫でた。
「悠助……」
「アカチャン、イイコイイコ」
「ありがとう、悠助」
春香は悠助の頭を撫でてやる。俊洋は雄太を見上げた。
「パッパ。アカタンクユッテナニ?」
「俊洋がお兄ちゃんになるって事だぞ。俊洋は凱央や悠助みたいに、良いお兄ちゃんになれるか?」
「ニイタンニナユ?」
「ああ。俊洋もお兄ちゃんだ」
新しい命に更に絆が深くなった雄太達だった。




