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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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885話


 9月16日(月曜日)


 前日誕生日だった春香の為に、雄太は朝からせっせと準備をしていた。


「凱央、お花作れたぞ。テーブルの端っこにペタってしてくれ」

「は〜い、パパ」


 凱央は出来たばかりのティッシュの花をリビングのテーブルの隅に貼り付けた。


 悠助と俊洋は理保に手渡された自分達のカップやお皿をせっせと運んでいる。


「さてと、これで準備はオーケーかな?」


 テーブルの上には、春香の好きなポトフや子供達の好物のチーズハンバーグやクリームコロッケなどが並んでいる。


「凱央。ママを呼んできてくれるか?」

「うんっ‼」


 凱央は春香がいる地下のコレクションルームへ向かった。




(これも……これも、全部雄太くんが頑張ってくれた証……)


 壁一面のトロフィーや盾、口取り写真の数々をのんびりと眺めている。


 たくさんのサイン色紙の前に立つ。初めて雄太が書いてくれたサイン色紙は春香の宝物だ。


「ママ。じゅんびできたよ」

「凱央。お迎えにきてくれたの? ありがとう」


 少し背が伸びた凱央をギュッと抱き締めてから、手を繋いでリビングへ向かった。




「うわぁ……。すごいね」

「春香さん。お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。お義母さん」


 理保は春香にリボンのかかった箱を差し出した。


「これは、お父さんと私からよ」

「ありがとうございます」


 続いて雄太が箱を差し出した。


「春香、おめでとう」

「ありがとう、雄太くん」


 そして、目をキラキラと輝かせた子供達が画用紙を差し出した。


「ママ。おたんじょうびおめでとう」

「マーマ。オメレトウ」

「マッマ。ライスキー」


 差し出された画用紙には春香の似顔絵と子供達の手形がペタペタといくつも押されていた。


 赤や黄色やオレンジ色の手形は紅葉のようで、笑顔の春香の周りを彩っている。


「凱央……。悠助……。俊洋……。ありがとう。ママも皆が大好きよ」


 春香は声を震わせながら子供達を抱き締めた。

 

 その姿を見ながら理保も目を潤ませていた。


(一人ぼっちで世の中の全てを恨んでいたようだった……。お義父さんはそう言ってたな……)


 だから、春香と賑やかな家庭をもちたかった。笑顔と笑い声が絶えない家庭を作りたかった。


(これも俺の夢が叶ってるんだよな。三人も男の子がいたら大変だって思ってるけど、さ)


 床に膝をついた春香の肩に手を乗せる。涙を浮かべた春香が雄太を見上げた。


「ほら。パーティーを始めよう」

「うん」


 春香は涙を拭って、ふわっと笑って頷いた。




 俊洋が我慢出来るようになったから、一番最初にケーキにロウソクを立てて火を着ける。


 ハッピーバースデーを凱央メインで歌う。悠助もそれなりに歌えるが、俊洋は飛び飛びで春香はニコニコと笑っていた。


「カットは後で良いかな? とりあえず食べるまで冷蔵庫に……」


 話している雄太の服がツンツンと引っ張られる感触があった。視線を移すと、俊洋が縋るような目で雄太を見詰めていた。


 雄太は吹き出しそうになりながら、俊洋と目線を合わせながら話す。


「俊洋。食べたいのは分かるけど、ケーキは後で、な?」

「アトデ……?」

「ああ。先にご飯な?」

「アイ」


 俊洋の頭を撫でてから、ケーキを冷蔵庫にしまった。リビングに戻ると、凱央が悠助と俊洋に手を合わせる仕草を教えている。


「はい。ゆーすけ、としひろ。手をあわせて、いただきます」

「イタダキマス」

「イタラキマス」


 子供達はニコニコと笑いながらそれぞれ好きなように食事を始める。


 春香は嬉しそうにマクマクと食べる子供達の様子を見て幸せな気持ちになっていた。


 雄太は子供達を含め、春香の笑顔を見詰めていた。


「お義母さん。この秋刀魚の煮付け美味しいですね。骨まで柔らかくて」

「誕生日のメニューには合わないかと思ったんだけど、良い秋刀魚が入ったって事で春香さんに食べて欲しかったのよ」


 にこやかに話す春香と理保の様子も雄太は心がポカポカとした。


(俺……、幸せだ)


 こんなに幸せで良いのかと思うぐらいに幸せに目尻が下がりまくる雄太だった。






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