883話
夕方になり尚道の両親が迎えにきた。大きなビニール袋にたくさんの野菜を詰めて。
「本当に、本当に、ありがとうございました。すっかりお世話になってしまって」
「これ、さっき畑で採ってきたんです。皆さんでお召し上がりください」
「ありがとうございます」
「うわぁ、こんなにたくさん。ありがとうございます」
はみ出しているトウモロコシのヒゲをガン見している俊洋に気がついた彩葉は、ビニール袋からトウモロコシを引き抜いた。膝をついて、大きな大きなトウモロコシを差し出す。
「俊洋くん。トウモロコシ大好きなんだよね? はい、どうぞ」
「アイっ‼ アイガトゴライマスっ‼」
トウモロコシを受け取った俊洋はギュッと抱えると廊下を駆けて行った。
「プッ。ふふふ。か……可愛過ぎ」
「あ……ありがとう、彩葉さん。もう……恥ずかしい……」
「ちゃんとお礼が言えるんだから良い子よ?」
春香と彩葉が話している間に雄太と尚道の父はテントなどを車に運んでいた。
尚道は宿題や着替えなどをリュックとバッグに詰めて、階段をゆっくり下りてくる。
「尚道。忘れ物ない?」
「うん。だいじょうぶ」
尚道は靴を履きながら、くっついてきた悠助の頭を撫でる。
「ゆーすけ。またあそびにくるからな?」
「ウン。ナオニイタン、マタキテネ」
「わかってるよ。だから、ママやパパのいうことをきいていい子にしてなよ?」
「ウン」
尚道が心配だったり、迷惑をかけてないか、小さい凱央の弟達と喧嘩をしてないかなど彩葉は何度か電話をしてきていた。
尚道と悠助の様子を見ていると、本当に仲良くしていたのだなと思った。
「尚くん。ちゃんとしあげしておくね」
「うん。おねがいね」
凱央達の紙芝居はまだ完成してなくて、考えた文章を書くのは凱央がする事になった。
尚道は春香を見上げた。
「トキくんママ。おいしいごはんありがとう。しゅくだいおしえてくれてありがとう」
「どういたしまして、尚道くん。悠助と俊洋と遊んでくれてありがとう。お手伝いしてくれてありがとう」
トウモロコシをどこかに置いてきた俊洋が、玄関先まで走ってくる。
「ナオニイタ〜ン。ナオニイタ〜ン」
「としひろは、ほんとうにげんきだな」
「マタキテネ。アショボウネ」
「うん。としひろもいい子にしてるんだぞ?」
俊洋はコクコクと何度も頷いていた。
荷物を積み終わった車に乗り込んだ尚道は窓を全開にした。そして、角を曲がって見えなくなるまで手を振っていた。
凱央をはじめ悠助も俊洋も、いつまでも大きく手を振っていた。
「凱央。お庭キャンプは楽しかったんだな」
「うん。すごくすご〜く、たのしかったよ」
凱央の手に握られていたのは、尚道とお揃いのネームプレートだ。
春香が初めてのキャンプの記念にと焼杉を買ってきて、平仮名の木材のパーツに色を塗らせて凱央達に貼り付けさせた物だ。
凱央のは鮮やかなセルリアンブルーで『ときお』。尚道は華やかなオレンジ色で『なおみち』。
(良い思い出が作れて良かったよな。途中、遠征で見られなかったのが悔しいけど)
雄太が出かける前より、凱央達は少し日焼けしていて、身長が変わった訳ではないが大きく見える気がした。
後日、クラスで夏休みの思い出発表会があった。
テントを張る様子、夜中に見た満天の星空、初めてのカレー作り。
ウッドデッキで食べた西瓜や自分達で焼いたバーベキュー。
クラスの子供達にも大好評だったと凱央は自慢気に話してくれた。
「それでね。きんしょうだから、ちょうやくばにはってもらえるんだって」
「き……金賞っ⁉ 町役場に展示っ⁉」
凱央と尚道の発表は小学一年生とは思えない出来上がりで、金賞をもらったと聞いた雄太は目を丸くした。
「うん。はられたら、尚くんとみにいきたいんだけどいい?」
「ああ。連れてってやるぞ」
凱央は嬉しそうに笑った。春香もニコニコと笑っていた。
凱央達の真夏の大冒険が町役場に展示されて、一番盛り上がっていたのは直樹と慎一郎であったのは言うまでもない。




