881話
尚道も一緒に雄太のレースの応援をして盛り上がった。
「トキくんパパ〜。がんばれ〜」
「パパぁ〜。がんばれぇ〜」
「パーパ、パーパァ〜」
「パッパ。ガンバエ〜」
いつもより一人増えた分、雄太宅のリビングは賑やかだった。
「今夜は、リクエストのバーベキューだよ。尚道くんが持ってきてくれたピーマンとお茄子とトウモロコシも焼くからね」
「「はいっ‼」」
俊洋は「トウモロコシ」という言葉に走り回り回って喜び、凱央と尚道はゲラゲラと笑い転げていた。
バーベキューを楽しみ、その後、昨日同様に皆で一緒に風呂に入っても大はしゃぎした。
夜になって、春香はクリスマスツリー用の屋外コンセントにスポットクーラーのプラグを差し込み起動を確認した。
(あんまり強くしたら冷えるかな?)
ゴーっと冷風が出てから、吹き出し口をテントの中に入れ、空気を冷やしてから風量を調節してやる。
電池式のランタンをテントの中に置いてやると、凱央と尚道は目をキラキラ輝かせていた。
「もし、怖いとか思ったら家に入ってきても良いんだからね?」
「うん。ありがとう、ママ」
「ありがとうございます」
春香がニッコリと笑うと、尚道は嬉しそうに笑ってからメッシュパネルのファスナーを閉めた。
これ以上は、子供達の楽しい時間だろうと思った春香は家に入った。
(昨日の夜と違って、今夜はテント泊だもんなぁ〜。話も盛り上がるよね)
春香は学校の行事のキャンプも参加させてもらえなかった。だから、テントで寝る時の楽しさやワクワク感は想像するしかなかった。
雄太と純也の楽しそうな様子から、友達がいるというのは良いなと思っていたから、凱央と尚道が仲良くテントで話しているのも嬉しかった。
(ふふふ。何してるんだろ?)
ランタンの灯りの所為で、凱央達の手や頭が影となってチラチラと見える。それですら嬉しく思った。
キッチンで朝食の下拵えを終えてから、ふとテントを見るとまだランタンが灯っていた。
(あ……。お義父さん……。お義母さん……)
ふと慎一郎宅のリビングの照明が点いているのに気づくと、カーテンを少し開けて慎一郎と理保が凱央達がいるテントを見ていた。
春香が部屋で寝ている悠助と俊洋の様子を見てから、もう一度テントを見るとランタンは消してあり、ようやく眠ったのだなと思って春香もベッドに入った。
翌朝六時を少し過ぎた頃、目を覚ました春香は、一番に窓の外を確認した。
そして、まだ凱央達は寝ているのだろうと思ったが、ダイニングへ続くドアを開けると凱央と尚道がいた。
「え? もう起きてたの?」
「あ、ママ。おはよう」
「おはようございます」
二人の前髪が少し濡れていて、顔を洗ってきたのだとわかった。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。あのね、じかんはわからないけど、目がさめてトイレにいったあと、虫がないてたよ」
「虫?」
春香が訊ねると尚道が頷いた。
「たぶんコウロギかな。コロコロってないてたから」
「尚道くん、虫に詳しいんだね」
春香に褒められて、尚道は照れくさそうに笑った。虫に詳しくない凱央は尚道に教えてもらえて嬉しそうだ。
「あ、もう起きたなら朝ご飯の準備するから、ガーデンテーブルの準備をしておいてくれるかな? 外で食べるんでしょ?」
「うんっ‼ 尚くん、いこ」
「うん。トキくん」
二人は楽しそうに話しながら、ウッドデッキのドアを開けて外に出ていった。
(本当に楽しかったんだなぁ〜。怖いとか寂しいとか思わないぐらいに)
春香はホッとして、朝ご飯のリクエストのフレンチトーストを作ってやった。
昼間はプールで大はしゃぎをし、競馬中継を見て大はしゃぎをした凱央と尚道は、夕食は初めて料理に挑戦をした。
危なっかしい手つきではあったが、手を切る事なく調理が出来た。
初めての料理をしている二人をカメラで撮影してやる。きっと良い思い出になるだろう。
「ほら、二人並んで」
凱央と尚道は、皿を少し傾ける。
カメラに収まった二人は本当に良い顔をしていた。




