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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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879話


 8月9日(金曜日)


 雄太は小倉競馬場の調整ルームで純也と話していた。


「へぇ〜。凱央とその友達が雄太ん家の庭でキャンプかぁ〜」

「ああ。うちは防犯対策しっかりしてるって事でな」


 セキュリティー会社と契約している上に、ガッツリと設置された防犯カメラとセンサーライトと高い塀に囲まれた雄太宅は、子供達が外で寝るのは大丈夫だろうと純也は思った。


「マジで、俺に結婚して子供が出来たら雄太ん家でキャンプさせよっと」

「ははは。それも良いな」


 いつか雄太の家の庭で子供達が複数人がワラワラと走り回り回り、その父母が笑って見ている。


 そんな未来も良いなと思った。


「でさ、もう凱央達の心的なんちゃらは大丈夫なのか?」

「完璧に大丈夫とは言えないけど、まぁキャンプしたいって言えるぐらいには回復してるって思うんだよ」

「あ、そっか。なんにせよ、良かったぜ。トレセンの中でも結構噂になってたからさ」


 凱央達を助けた人達や通りすがった人達が話しをして、トレセン内に噂はあっという間に広がった。


 それまで田舎ならではの『ちょっとそこまで』なら鍵はしないという事を改めなければと言い出す人まで現れた。


「防犯意識が高くなるのは良い事だよな」

「まぁな。けど、ソルは部屋に鍵をしないだろ?」

「う……」


 寮の部屋とはいえ、鍵ぐらいすればと何度も言ってきたのだがたまに鍵を忘れ、お菓子やエロ本を先輩に持ち去られて意気消沈しているのを、雄太は梅野から聞いている。


 『春さんの手作りクッキー、隠しといたのに全部食われてた……』


 調教終わりにこの世の終わりのような顔で雄太に縋る事もある。


 後輩の部屋に進入してお菓子を食べる先輩もどうかとは思うが、そもそも先輩の部屋に入り浸ってはお菓子を食い散らかす純也も悪いのだ。


「今頃、凱央や尚道くんは何やってんだろな」

「飯食って一息ついた頃じゃね?」

「あ、風呂入ってるかもな。尚道くん、うちの風呂も楽しみだったらしいから」


 初めて雄太宅に来た時から、尚道は広い風呂を羨ましがっていた。尚道の家は古い家なので、湯船がそんなに大きくないからだ。


「あれ? そう言えば今日から泊まってんのか? てか春さん、テントとか張れるの?」

「ん? ああ。今日は家で寝るんだってさ。庭キャンプは明日の朝から始めるらしい」

「そうなんだ。楽しんでるんだろうな」

「ああ」





 その頃、雄太宅の風呂は大騒ぎだった。


「としひろっ⁉」

「うわぁっ⁉ それシャンプーだよっ‼」


 凱央と尚道の声で、洗った髪を拭っていた春香は顔を上げて湯船のほうを見た。


「と……俊洋っ⁉」


 最近、色んな容器や瓶の蓋などを開ける事がマイブームの俊洋が、湯船の中にシャンプーをダバダバと注ぎ込んでいたのだ。


 あっという間に湯の色は濁り、シャンプーのボトルはからになっていた。


「あ……あぁ……。新品だったのに……」


 悠助と俊洋の好きなキャラクターの子供用シャンプーは、木曜日に買ったばかり。


 そのボトルで遊んでいたから大人しくしているだろうと思っていた春香は、空ボトルを見詰めて溜め息を吐いた。


「俊洋。シャンプーの蓋は取っちゃ駄目なの。分かった?」

「……ゴメンシャイ」

「もうしないでね? 凱央、尚道くん、悠助。滑るかも知れないから、ゆっくり歩いて湯船から出てね」


 雄太宅の広い湯船だと、子供用シャンプー一本ぐらいでは泡立つ事はないし、足を滑らせる事もないとは思うが、万が一を考えて春香は一人ずつ手をとって湯船から出した。


 シャワーで体を流してやり、順番に脱衣所に行く子供達を見送ってから、湯船の湯を抜いた。


(シャンプーの蓋まで開けられるぐらいの力がついたんだなぁ……。本当、気をつけなきゃ)


 転がっているキャラクターボトルを手に持ち脱衣所に出ると、凱央と尚道が俊洋の体や髪を丁寧に拭いてやっていた。


「ありがとう。尚道くん、凱央」

「うん」

「えへへ」


 春香は頭からタオルをかぶって一生懸命に拭いている悠助の手助けをしてやる。


(四人目が出来たらこんな感じなのかなぁ〜)


 そんな事を考えながら、小倉の雄太を思った春香だった。






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