869話
6月29日に阪神競馬場で開催されたG3アンタレスステークスで優勝した雄太は、レース終わりに北海道へと飛び、翌日札幌競馬場で開催されたG3札幌記念を優勝した。
「トキくんのパパってすごいかっこういいね。おおさかでゆうしょうして、ひこうきでビューンってほっかいどうにいってゆうしょうするんだもん」
「うん。じまんのパパだよ」
昼休みに凱央と尚道は雄太の話で盛り上がっていた。
トレセン関係者の子供が多いから、そういう話は通常だったが、尚道は凱央と仲良くなるまでピンときていなかったようだ。
「トキくん、ほっかいどうっていったことある?」
「うん。きょねんもいったよ。ぼくのすきなアルがいるぼくじょうにもいったんだぁ〜」
「アルって、トキくんのへやにかざってるうまだよね」
「そうだよ。ぼくのだいすきなうまなんだよ」
尚道は凱央の部屋に飾ってある写真を思いながら話す。キリッとした顔をした馬と笑顔の凱央との写真を初めて見た時は、馬の大きさに驚いていた。
「また、うまのはなしきかせてよ」
「うん。アルのビデオもみてほしいな」
「うんっ‼」
どうやら尚道は動物が好きらしく、家には大型犬を飼っているようだ。ペットというより番犬らしいが、尚道は可愛がっている。
凱央も尚道も習い事などがない日に雄太宅で宿題をやって、終わったら遊ぼうと思っていた時だった。
「ん? あれ? かみなり……?」
「え? あ、ほんとうだ」
宿題が終わった二人が教科書とノートをまとめていた時、微かに雷の音が聞こえ外を見ると大粒の雨がポツリポツリと降りはじめていた。
二人は並んでウッドデッキ側の窓に張りついた。空を見上げると濃い灰色の雲が空を覆っていて、時折雲の隙間が光っている。ウッドデッキの床には大きな雨粒の跡がいくつもあった。
「尚くん、かみなりこわい?」
「びっくりはするけど、こわくはないかな?」
その時、窓ガラスが揺れる程の落雷の音がして、春香の部屋で昼寝をしていた悠助と俊洋が泣き出した。
「ウェ〜ン。マーマァ〜」
「マッマァ〜、マッマァ〜」
春香は地下の掃除に行っているからと、凱央と尚道は春香の部屋に入って悠助と俊洋を抱き締めてやった。
「ゆーすけ。としひろ。こわかった? もうだいじょうぶだよ?」
「もうなかなくていいから」
涙と鼻水でグショグショになった悠助と俊洋の顔を拭いてやり頭を撫でている二人は立派なお兄ちゃんだなと、ドアの隙間から雄太と春香は覗いて見ていた。
そろそろ帰らなければならない時間になっても、雨はやむ気配がなく雄太は尚道の頭を撫でた。
「尚道くん。送って行くよ」
「え?」
「うちのワンボックスなら自転車も積めるし。あ、先にお家に電話させてもらうね?」
雄太と春香の申し出に、尚道はニッコリ笑って頷いた。
「はい。……はい。大丈夫ですよ。主人のお義母さんがみていてくれますから。……はい。じゃあ、これから送って行きますね」
春香は彩葉に電話をかけ、尚道の自宅まで送り届けた。
「ありがとう、鷹羽さん。ありがとう、春香さん」
「ありがとう、トキくんパパ。ありがとう、トキくんママ」
彩葉と尚道は、何度も何度も礼を述べてくれた。
「いいえ。尚道くん、また遊びにおいで」
「はい。トキくん、またあしたね〜」
「うん。またあした、がっこうでね〜」
凱央はニコニコと笑っていた。尚道は雄太が車から降ろしてくれた自転車のハンドルをしっかり握りながら笑っていた。
「じゃあ、またね。尚道くん。彩葉さん」
「ありがとう〜」
「ありがとう。本当にありがとう」
尚道と彩葉は雄太の車が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「尚道くんって本当に良い子だな」
「うん。ぼくね、尚くんだいすきだよ」
「ママも尚道くん大好きだよ」
雄太はバックミラーを何度も見ながら笑っていた。
雷が鳴った時の尚道の対応で、尚道の株価は更に上昇しまくっていた。
「春香にも良い友達が出来て良かったよ」
「えへへ。彩葉さんって考え方が似て、すごく付き合いやすいんだよね」
ニコニコと笑う春香を見て、雄太は自分の事のように嬉しく思っていた。




