862話
ひとしきりバーベキューを楽しみ、子供達が待ちわびていたケーキを雄太がガーデンテーブルに置いてロウソクを立てる。
悠助も大好物のイチゴが散りばめられたケーキの真ん中に『ゆうすけくんおたんじょうびおめでとう』とホワイトチョコのプレートが乗っている。
ロウソクに火を灯しハッピーバースデーを歌ってやると、悠助は嬉しそうに笑った。
「アリガトウ」
ロウソクを吹き消したケーキを雄太がカットしてやり、悠助の皿に乗せてやると、凱央がカットする為に避けていたチョコプレートを悠助のケーキに乗せた。
「ゆーすけ。おめでとう」
「トチオニイタン、アリガトウ」
悠助は少しチョコプレートを眺めていたが、チラリと春香のほうを見た。
「マーマ。シュコシダケ、トチヒロニチョコアゲテイイ?」
「俊洋に? んん……。じゃあ、ほんの少しだけね?」
俊洋にはまだチョコを食べさせてはいなかった。明確に何歳から食べて良いという基準はないが、消化器官がしっかりしてからだと重幸にも言われていたのだ。
悠助は小さな指でチョコプレートの端っこを割った。
「トチヒロ。ア~ンシテ」
「アイ」
小さな指でつままれた小さなチョコが俊洋の口に入る。
「俊洋。噛まないで食べるのよ?」
俊洋はコクコクと頷きながら、ゆっくりと口の中のチョコを味わっていた。
「ニィニ、オイチィ」
「トチヒロ、ヨカッチャネ」
「ゆーすけにたべさせてもらってよかったね、としひろ」
「ウン」
ほのぼのとしている子供達を純也達も見てニヤけてしまっていた。
(凱央達、可愛すぎだ)
(男の子ばっかの兄弟でこんな可愛いなんて反則だろぉ〜)
口の周りにクリームをつけてケーキを食べている子供達の写真を撮りながら、梅野はニコニコとしていた。
パーティーのバーベキューの片付けを終わった後、家族揃って風呂に入る。
(その内、凱央は一人で風呂に入るようになるんだよな……)
まだ風呂で弟達とオモチャで遊んでいる凱央だが、小学校に行くようになってからの成長には雄太も春香も目を見張るばかりだ。
それまで雄太か春香が髪や体を洗ってやっていたが、最近自分でやると言い出して頑張っている。
「トチヒロ。キントトサンイクヨ」
「アイ」
悠助が沈めた金魚の手を離して、浮き上がってくる金魚を俊洋が捕まえる遊びが二人のお気に入りだ。
(悠助と俊洋もなんだよな。いつか、自分のタイミングで風呂に入ったりするし、一緒に寝る事もなくなるんだよなぁ……)
もしかすると誕生パーティーもしなくて良いとか言い出す時もくると思うと淋しい気がするのだ。
(もしかして……俺、お義父さんと似てる……?)
子離れを実感した時に直樹を思い出してしまうのは、慎一郎とは調教師と騎手という関係になってしまっていて、厳密な子離れは春香との交際を反対されて喧嘩別れした時だと思っているからだ。
(父さんの事はまぁ良いとして、母さんには淋しい思いさせた自覚はあるんだよな。父さんと喧嘩状態の時もかなり気を使わせてたしさ)
そんな事を考えていると、髪と体を洗った春香が湯船に入ってきて、雄太の顔をジッと見詰める。
「え? 何か顔についてる?」
「そんな訳ないじゃない。さっき綺麗に洗ったのに」
「あ、うん」
風呂に入っているというのに的外れな事を訊いたなと、雄太は苦笑いを浮かべた。
子供達が眠ってから、ソファーに座って春香を手招きした。
「春香。ちょっと相談があるんだけど」
「相談?」
洗い物を終えた春香は、雄太の隣に座った。
「あのさ、来年悠助は幼稚園だろ?」
「うん。そうだね」
「その……子供が成長して嬉しいんだけど淋しいって思うのって……おかしいかな?」
真面目な顔をする雄太を見て春香は小さく笑った。
「そんなの私も一緒だよ? いつかこの家を出て行くんだろうなとか、反抗期がきたらどうしようとか考えてるもん」
「あ……反抗期か。それは考えてなかった」
「その時は頼りにしてるよ? パパ」
「あ……ああ。頑張るよ」
子供達の成長を同じように見て、考えている夫婦で良かったなと雄太は思っていた。




