861話
4月29日(月曜日)
悠助の誕生パーティーは悠助のリクエストでバーベキューだ。
春らしい穏やかな風が吹き抜けていく。
「パーパ。オニクタベル」
「ちゃんとフーフーして食べるんだぞ?」
「アイ」
悠助の皿に肉を置いてやると、フーフーしてからモグモグと食べている。
「パパ。俺もお肉〜」
「誰がパパだっ‼」
雄太は可愛い声で肉を強請る純也の口にピーマンをくっつけた。
「熱ぅ〜っ‼」
熱いと言いながら純也はピーマンをバクリと食べた。
「俺のセクシーな唇に何をしやがる」
文句を言いながらもモグモグと食べた純也がおかしくて、庭にゲラゲラと笑いが広がる。
「パッパ、コエヤイチェ」
テッテッテと走ってきた俊洋が手にしているのはプランターで育てているアスパラだ。
「俊洋。美味しそうなアスパラだな」
「ジュニィタン」
「どうし……ゴフッ‼」
俊洋は採りたてのアスパラを純也の口に突っ込んだ。そして、そのままモシャモシャとアスパラを食べる。
「オイチィ?」
「ウメェ〜。アスパラって生でも美味いんだな。ありがとうな、俊洋」
純也はゴクリと飲み込むが、春香がおずおずと訊ねる。
「塩崎さん。喉大丈夫だったですか?」
「全然オッケーっすよ?」
「ソルは口に食い物が入ったら反射的に食うからな」
「それ褒めてんのかよぉ〜」
頬を膨らませて純也は抗議をするが間違ってはいない。寝ている純也の口に食べ物を入れてやると、そのまま食べると梅野が言っていた。
「俊洋。お口に入れてあげる時はそっとよ?」
「ソッチョ?」
「そう。ゆっくりしてあげるの。分かった?」
「ン」
春香は純也に向き直った。
「本当、ごめんなさい。俊洋はお世話されるのには慣れてるけど、お世話するって事が殆どなくて……」
「あ〜。兄ちゃんズにはお世話されてるけど、俊洋はされる側だもんな」
春香が謝った後、俊洋が純也の服の裾をツンツンと引っ張った。
「ん?」
「ジュニィタン、ゴメンシャイ」
「お? ちゃんとごめんなさいが出来たな。偉いぞ、俊洋」
「コエ、タベテクラシャイ」
薄っすらと涙を浮かべた俊洋は、手に持っていたアスパラを純也に渡した。それを受け取った純也は俊洋の頭を撫でた。
「春さん。このアスパラ、スンゲェー太いのに柔らかくて美味いっすね」
「うん。植え始めた頃はまだまだ細かったんだけど立派に育ってくれるようになったよ」
純也は受け取ったアスパラを雄太に渡した。水やり用の水道で洗ってあるからそのまま口にするとシャクっと良い音がする。
「美味いな」
「皮が固くなってくるまでの贅沢だよね」
「そうだな」
俊洋と一緒にアスパラガスの収穫をしていた梅野が採り終えたアスパラガスの束を春香に手渡した。
「春香さん、これで全部だよぉ〜」
「ありがとう、梅野さん」
「いやいや〜。アスパラの収穫なんて普段出来ない事をさせてもらって楽しかったよぉ〜」
春香がアスパラを採って焼かないかと提案した時、梅野がやってみたいと言ったのだ。
「生のアスパラなんて本当の贅沢だよなぁ〜」
梅野もシャクっとアスパラを齧る。
「野菜の自然な甘み……。マジ美味いよなぁ〜」
「そうですね」
梅野の呟きに、雄太は頷いた。
雄太の収入があれば野菜など育てなくても良いだろうと言われるだろう。だが、子供達と育てる事を楽しみ、採りたてを食するという贅沢があるのだと雄太は知っている。
「でさぁ〜。春香さんはアスパラの花言葉知ってる?」
「え……。あ、はい」
梅野に言われ春香は照れくさそうに笑った。
「アスパラって野菜なのに花言葉あるんすか?」
「あるんだぜぇ〜」
純也が訊ねると、梅野はニヤッと笑って春香を見た。
「アスパラの花言葉で春香さんが雄太に贈るとしたら『勝利の確信』でしょ〜?」
「え……」
梅野の言葉に雄太の目が真ん丸になる。
「あの……えっと……それだけじゃなくて無農薬の美味しい野菜を……」
「はいはい。ご馳走様っす」
「塩崎さぁ〜ん」
純也同様、野菜のアスパラに花言葉があると知り、その花言葉を教えられて雄太は優しい目で春香を見詰めた。




