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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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860話


 4月24日(水曜日)


 悠助は誕生日を迎え五歳になった。雄太の『春香を助けてくれるような子に』という思いが伝わったかのような優しくて、弟の俊洋の面倒をよくみてくれている。


 朝、凱央がランドセルを背負って玄関に向かうと、後追いしながら泣きそうになっている俊洋に言葉をかけてやっている。


「トシヒロ。ニィニニガッコウイッテラッシャイシテ」

「アイ。ニィニ、イッチェラッタイ」


 リビングで遊んでいて、落ち着きがなくなりモゾモゾし始めた俊洋に気づくと立ち上がり俊洋の手を引く。


「トシヒロ。トイレイクヨ」

「ンン〜」

「ガマンシナイデイクノ。ワカッタ?」

「アイ。ニィニ」


 幼稚園と違って家に帰ってくるのが少し遅い凱央の代わりに世話をしてくれている。


(悠助のお兄ちゃんっぷりも上がったなぁ〜)


 家事をしている時は、本当に助かると春香は思っている。


 そんなお兄ちゃんな悠助も、凱央が大好きなのは相変わらずだ。


「トチオニイタン、オカエリ〜」

「ゆーすけ。いいこにしてた?」

「ウン」


 帰宅した凱央について周り、リビングのテーブルで宿題をしている凱央の横に座り、ジッと見ていたりする。


 俊洋が遊んで欲しそうにすると遊んでやるのだから、心根の優しい子なんだろうなと思う。


「ママ。しゅくだいおわったぁ〜」

「はいはい。ちょっと待ってね」


 春香が宿題と連絡帳のチェックをすると、悠助と俊洋の目がキラキラとする。


(ふふふ。悠助のお兄ちゃんっ子は分かるけど、俊洋もお兄ちゃんっ子なんだよね)


 雄太も春香も兄弟姉妹がいない。たが、いずれ兄弟喧嘩をする事もあるのだろうと予想はしていた。


 オモチャの取り合いや自己主張でぶつかる事もあるだろう。


 今のところ、兄弟間でのいざこざはないし、誰かが誰かを泣かせるという事もないが、この先どうなるか分からない。


「ゆーすけ。しゅくだい、へやにおいてくるからまってて」

「ウン。マッテル」


 凱央がリビングから出ていくと、しっかりと遊びたいのかトイレに向かう。


 その時、駐車場のシャッターが開いた合図のランプが光った。


「俊洋。パパが帰ってきたよ」

「パッパ〜」


 凱央が階段から下りてきて、悠助がトイレから出る。皆が玄関に集合して、雄太がドアを開けるのを待つ。


 子供達の輝く笑顔が、どれだけパパが愛されているのか分かる。


「ただい……」

「パパぁ〜。おかえりなさい〜」

「パーパァ〜」

「パッパ、パッパ〜」


 ワッと雄太に群がる悠助と俊洋を抱き上げる。凱央は手にしていた物をそっと春香に手渡した。


 そしてコソッと春香に小さな声で伝える。


「ママ、これもってて。ゆーすけにみせちゃダメだよ?」

「ん? あ……、うん。分かった」


 春香は凱央から手渡した物をそっと背中に隠した。悠助は雄太に夢中で春香の動きを見てはいなかった。





 家族揃って風呂に入り、凱央は春香の部屋に隠していた物を手に悠助の前に立った。


「ゆーすけ。おたんじょうびおめでとう」

「トチオニイタン、アリガトウ」

「これ、ゆーすけにぷれぜんとだよ」


 背中に隠していた物を悠助の前に差し出した。


「トチオニイタン、コレクレルノ?」

「うん。そうだよ」


 凱央の差し出したのは悠助がモモちゃんに乗っている絵と折り紙で作ったタンポポの花束だ。


 黄色の折り紙に切り込みを入れて、マジックで黄緑色に塗った竹串にクルクルと巻いてある。


「おお〜。凱央、上手に作ったな」

「うん。ようちえんのせんせーがおしえてくれたんだよ」

「絵だってちゃんとモモちゃんだって分かるしな。上手く描けたな」


 雄太に褒められ、凱央は照れくさそうに笑う。


「トチオニイタン……」

「ゆーすけ。なぁに?」

「アリガトウ。トチオニイタン、ダイスキ〜」


 悠助はもらった絵と花束をリビングのテーブルに置いて、凱央にギュッと抱きついた。


 背は高くなったが、幼い頃と全く変わらない様子で凱央に甘える悠助の姿に、雄太と春香は優しく見詰めていた。




 凱央が描いた絵は額に入れてリビングボードの上に飾った。


 悠助は時折眺めてはニコニコと笑っている。






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