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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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850/858

858話


 4月8日(月曜日)


 慎一郎と理保が買ってやったピカピカの真新しいランドセルを背負った凱央を見て、理保は涙を浮かべていた。


「母さん……。卒園式から約一ヶ月で、またそんなに泣く……?」

「だって、嬉しくて嬉しくて……」

「分かるけど、せっかく梅野さんが写真を撮ってくれるんだから」

「あら、そうね。ちょっとお化粧直してくるわ」


 雄太が呆れて言うと、照れ笑いを浮かべて理保は自宅に一度戻った。


「春香も泣き過ぎないようにな?」

「う……。我慢する」


 雄太に言われて春香はコクコクと頷いた。


 理保の化粧直しを待って門扉の外に出ると、卒園式の時と同様に純也と梅野が待ってくれていた。


「おお〜。凱央、格好良いな。小学校の制服、似合ってるぞ」

「一人前だな、凱央ぉ〜。おめでとう〜」

「じゅんやにいちゃん、まさきにいちゃん。ありがとう」


 卒園式の時は、まだ幼児といった感じだった凱央が凛々しい顔に見えた雄太は子供の成長は凄いなと思った。


 恐らく幼稚園の制服と違って、濃紺の小学校の制服は幼児から子供へとなった気がするのだろう。


「梅野、また頼むな」

「慎一郎調教師(せんせい)。お任せください〜」


 一度トレセンに行っていた慎一郎が顔を洗ってから門扉の外に出てきて、凱央の黄色い帽子を撫でながら梅野に笑う。


 皆で並んで写真を撮ってもらい、慎一郎と理保は手を振って見送ってくれる。


「凱央。頑張ってこい」

「はい、じぃじ。ばぁば。いってきます」


 凱央も大きく手を振って歩き出した。


「トチオニイタン、イッチェラッシャイ」

「ニィニ、バンバエ」


 入学式は長いので今日は悠助と俊洋は慎一郎宅でお留守番だ。


「ゆーすけ、としひろ。いいこにしてるんだよぉ〜」


 二人の弟達の声を聞いて凱央は振り返り、声をかけながら両手を大きく振った。


 その後、卒園式と同じようにズンズンと凱央は歩いて行き、雄太達と純也達も一緒に小学校まで歩いていく。


 まだまだランドセルが大きく見えるが、それでも雄太と春香の目には眩しく見えた。




 入学式と書かれた看板の前で写真を撮ってもらう。


 入学式前に凱央は一度教室に向かい、雄太達は体育館に入り新入生達を待っていた。


(学校……か……。あんまり良い思い出がない春香はどんな気持ちなんだろう……)


 パイプ椅子に座った雄太は隣に座った春香を見る。春香は小さく息を吐いた後、雄太の視線に気づいた。


「雄太くん、どうかした?」

「いや。号泣しないと良いなと思って」

「が……我慢するもん」


 誤魔化した雄太に、春香は拗ねたように言う。


(うん。大丈夫そうだな)


 春香のつらい過去の記憶は雄太と共に生きると決めてから、ゆっくりではあるが過去を過去として捉え、幸せな記憶で薄めてられている。


 雄太は春香に癒されているといつも思ったり実感したりしているが、雄太がもたらした影響は多くの人を救っているのだと気づいていない。


 春香だけではない。純也や鈴掛達、下川もだが、慎一郎もだ。


「新入生入場です」


 アナウンスが流れ、担任の先生を先頭に真新しい制服に身を包んだ新入生達が、緊張した面持ちで歩いてきた。


 胸にリボンの花を着けた凱央の姿が見えると、拍手をしている春香は目を潤ませる。


「鷹羽凱央くん」

「はいっ‼」


 名前を呼ばれて返事をする姿にも、たった一ヶ月ほどで変わった気がした。


(こうやって大人に近づいていくんだな……。そう思うと俺ってガキっぽかったよな……)


 幼稚園の年長の時と小学校一年なんて、ほぼ差がなく純也と遊びに明け暮れていた気がすると恥ずかしくなってきた。


「大きくなったな、凱央」

「うん。ますます雄太くんに似てきてドキドキしちゃう」

「え……? ドキドキ……?」

「んもう。我が子にまでヤキモチ焼かないで」


 春香が必死で笑いを堪え、雄太はさすがに恥ずかしくなりそっぽを向いた。


 何歳になっても春香にベタ惚れしていると純也達にからかわれるのが確定しているから、今の会話はうっかり話してしまわないように気をつけようと思った雄太だった。







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