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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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番外編 春香のひな祭り


 2月25日(日曜日)


 凱央が大きな声で幼稚園で覚えたひな祭りの歌を歌っている。


 それを悠助と俊洋が真似をしているが、ちゃんと歌えていないのが可愛いと春香は微笑ましく思っていた。


「ママ。ママハパパノオヒナサマダネ」

「え? あ、うん。そうだよ」


 凱央に言われて頬が赤くなる気がした。


 雄太との結婚式は洋装だったから、お雛様と言われるとは思っていなかったのだ。


(お雛様かぁ〜。うちは男の子ばかりだしなぁ〜)


 直樹が買ってくれた鯉のぼりは飾るが、雄太宅には雛人形はない。


 幸せな結婚など出来ないと考えてしまっていたからか雛人形を見る事すら嫌だった事を思い出してしまう。


(お父さんとお母さん、私に雛人形を飾ってやりたいとか考えていたのかな……?)


 可愛い服でさえ拒否していた子供の春香に対し、直樹と里美はゆっくりとストレスを与えないように女の子としての生き方を教えてくれた。


 丸坊主のような髪を里美は手入れしてくれて、直樹は綺麗に伸ばそうと提案してくれた。里美が丁寧にブラッシングなどをしてくれたおかげで、艶のある美しい髪になったと、直樹はリボンを買ってくれて、その髪を雄太が褒めてくれて嬉しかった。


(子育てが一段落したら、また髪伸ばしてみようかな? さすがにポニーテールは恥ずかしいかも知れないけど)


 妊娠中や出産、子育て中は髪を伸ばしてると手入れやドライヤーをするのも大変なので短くしている。


「ママ。パパノレースハジマルヨ」

「あ、そうだね。凱央、テレビつけてね」

「ハ〜イ。ユースケ、トシヒロ。テレビミルヨ」

「アイ。ニィタン」

「パッパ、ミユ」


 時計を見た凱央が教えてくれた。春香は新しく作ったポンポンをリビングボードの上から手に取り子供達に手渡した。


 応援が激し過ぎて何度も何度も作り直したポンポンを手に子供達はテレビの前に座った。


(雄太くん、頑張ってね)


 



 いつも通り大声で声援を送り疲れたのか、中山競馬場から戻る雄太を待たずに子供達は早々に眠った。リビングで、春香はポンポンの修理をしながら雄太の帰りを待っていた。


(えっと……こんな感じかな?)


 修理し終わったポンポンをリビングボードの上に置いた。


 雄太との結婚式の写真に視線を移す。


 『ママ。ママハパパノオヒナサマダネ』


 昼間、凱央が言った言葉を思い出す。


「お雛様……か。お雛様……」


 今更『買う』という選択肢は春香の中にはない。


 以前雄太と女の子が授かったらという話をした事を思い出して小さく笑う。


(あ、そうだ)


 翌日から春香は時間を見つけてはコツコツと作業に取りかかった。




 3月1日(金曜日)


「え……? これ……」

「えへへ。頑張って作ったの」


 調整ルームに向かう雄太に春香は呼び止めた。


 手にしていたのは手作りの雛飾りだ。


「えっと……これ玉子の殻?」

「当たり。だし巻き玉子を作る時に、殻をお箸でコンコンって穴を開けて顔にしたの。後は、厚紙で円錐の体を作って端切れで着物っぽくしたんだよ」


 玉子の殻を顔にしたウサギの雛人形を手にして、満面の笑みを浮かべている春香に、雄太は胸がいっぱいになる。


(お雛様を見ると悲しかったって言ってた春香が、自分で雛人形を作ったんだ……)


 ジッと手作り雛人形を見詰めていると、春香が顔を覗き込む。


「どうしたの? 雄太くん」

「これ飾り終わったら、俺がもらっても良いか?」

「へ? 雄太くん、雛人形欲しいの?」


 目を真ん丸にして春香は雄太を見上げた。


「ほら、お雛様って早く片付けないとお嫁に行くのが遅くなるっていうだろ? なら、春香のお雛様は一生出しっぱなしにして俺の妻でいてもらわないと」

「へ? 私がお嫁……?」


 春香の目が更に真ん丸になる。そして、ジッと雄太を見るとケラケラと笑い出した。


「それって私が雄太くんの妻じゃなくなる時がくるって事? そんなのありえないよ。私は、ずっとずっと雄太くんの妻だもん」

「そうだな、ずっと一緒だ」


 雄太はお雛様を上手く避けながら、春香を抱き締めてキスをした。







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