856話
幼稚園の正門の前には紙の花や折り紙の輪っかで飾られ、大きな『卒園式』の看板が立てかけてある。
「あ〜。何か懐かしいな、ソル」
「ああ。こんなだったよな。この道って普段通らねぇからさ」
雄太と純也は懐かしそうに卒園式の雰囲気を味わっていた。
「お〜い。先に写真撮っておくぞぉ〜。式の後だと春香さんが泣き顔になるからなぁ〜?」
「あはは。そうですね」
梅野に言われ春香は恥ずかしそうに笑った。
凱央を中心にして三人で並び写真を撮ってもらい、その後で悠助と俊洋も一緒に撮影してもらう。
「じゃあ、塩崎さん。式の間、悠助と俊洋をよろしくお願いします」
「ああ。園庭で遊んでるから大丈夫すっよ」
春香が頭を下げながら言うと、純也は悠助達を連れて園庭に向かって行った。
胸にリボンの花を着けてもらった凱央はニコニコと笑っていた。まだ卒園式の意味をはっきり分かっていないのだろう。
卒園しても、約一ヶ月もすれば園から見える小学校に通うだけと思っているのかも知れない。
(ウルウルしちゃうのは親には我が子の成長した姿を嬉しさがあるから……だよね)
そう思っているとやはり込み上げるものがあり、春香はそっとハンカチを目にあてた。雄太はそんな春香の手を握り締める。
そんな雄太も、名前を呼ばれ大きな声で返事をした凱央の姿に胸を熱くした。
「マーマ〜。アレ? マーマ、ナイテタノ?」
「マッマ、イイコシチェアゲユ」
園庭に出てきた春香を見て駆け寄った悠助達は、春香の足に縋り付いた。
「パーパ。マーマ、イジメチャラメ」
「え? パパがイジメたんじゃないって」
焦った雄太が右手を左右に振った。純也と梅野は必死で笑いを堪えている。
「ア、ジィジ〜」
「え? あ、お父さん」
「お義父さん?」
ふと凱央の指さすほうを見ると、直樹のベンツが駐車場に停まっていて、車の横に白衣を脱いでいる直樹がいた。
「ジィジ〜」
凱央が直樹のほうへ駆け出している。悠助と俊洋が後を追っていく。
凱央達の声に気づいた直樹が顔を上げ、脱いだ白衣をベンツの中に放り投げた。
「凱央ぉ〜。悠助ぇ〜。俊洋ぉ〜」
直樹は車のドアを閉めて、膝をついて溺愛している孫達を抱き締めた。
雄太と春香は子供達の後をついて行った。
「直樹先生、完璧におじいちゃんの顔してるなぁ〜」
「そうっすね」
梅野と純也もデレデレ顔の直樹のほうへ向かう。
「お父さん。仕事中じゃないの?」
「今は昼休みだ。凱央の卒園式自体は見られないかも知れないが、一目凱央の幼稚園最後の姿を見たくてな」
「気持ちは分かるけど……。お母さんも来たかったんじゃない?」
「まぁな。だから、里美は入学後の日にくるぞ」
凱央達に囲まれて目尻を下げながら直樹はニコニコと笑っている。
その姿を見て雄太は直樹の気持ちが痛いほど分かってしまった。
(俺だって、お義父さんと同じ気持ちになるだろうな。年少さんの時の運動会が見られなくて凹んだからなぁ……)
直樹は凱央の頭を撫でる。
「凱央。卒園おめでとうな」
「アリガトウ、ジィジ」
凱央は直樹にギュッと抱きついた。ほのぼのした祖父と孫の姿に周りの人達も笑顔になる。
「直樹先生。凱央と写真撮りませんかぁ〜?」
「梅野くん。良いのかい?」
「ええ。まだフィルム残ってますしねぇ〜。記念に撮りましょうよぉ〜。せっかくなんですし〜」
「そうか。なら頼もうかな」
直樹は嬉しそうに笑い、立ち上がった。
「ジィジト、オシャシン〜」
「分かった、分かった」
凱央がグイグイと看板前に引っ張っていく。
まだ、写真を撮っている人がいるからと順番を待っている。その間も直樹は嬉しそうに笑いながら凱央と話している。
「お義父さん、本当に卒園する凱央を見たかったんだな。白衣を着たまま車に乗ってきたんだもんな」
「白衣ぐらい脱いできたら良かったのにね」
にこやかに笑う雄太と呆れたように笑う春香を一緒と呼ばれ、雄太達は直樹の隣に並んで撮ってもらった。
直樹は凱央の幼稚園最後の姿を見られた上に、凱央だけでなく雄太と春香共写真を撮ってもらい大満足で帰っていった。




