849話
雄太達が自宅に戻ると、リビングには大きな透明の風船が置いてあった。そして、イチゴのイラストが描いてある箱がテーブルの上にあった。
「これ、もしかして……?」
「うん。塩崎さんと梅野さんが雑誌の仕事で来られないって言ってて、鈴掛さんも忍さんのご実家に用があるからって」
楽しみにしていたのに来られないからと、純也達は風船を持って来てくれて、鈴掛達はイチゴを差し入れてくれたのだ。
「パッパ。フーセン。イチオ」
「ああ。風船は純兄ちゃんと真希兄ちゃんからだってさ。で、あのイチゴは由おじちゃんと忍お姉ちゃんからだって。今度会ったらありがとうしような」
「アイっ‼」
誕生日プレゼントをもらう事を少しは理解したのだろうか。俊洋は大きな大きな風船を抱き締めていた。
中には、プラスチックのブロックで作った馬とカラフルで小さな風船とお菓子が複数入っている。
「後で出してやるからな?」
「アイっ‼」
「トチヒロ、イイコ」
悠助は、ちゃんと『後で』が分かった俊洋の頭を撫でてやっていた。
凱央の幼稚園が終わって帰宅し、夕方からパーティーを始めた。
「俊洋。お誕生日おめでとう」
「おめでとう、俊洋」
「アート。パッパ、マッマ」
「トシヒロ。オメデトウ」
「オメエト、トチヒロ」
「ニィニ、アート」
春香の作った王冠をかぶせてもらい、俊洋は満面の笑みを浮かべている。
「カンパイ〜ッテスルンダヨ」
「アイ」
凱央と悠助と乾杯をしている俊洋は得意気に笑っている。
「トシヒロ、オイシイ?」
「ン」
「トチヒロ、ポテトタベユ?」
「ン」
なぜか、俊洋の両脇に座った凱央と悠助は、順番に俊洋の口に食べ物を運んでいた。
「ハイ、トシヒロ。ア~ンシテ」
「アイ」
しばらく雄太と春香は見ていたが、コソコソと話す。
「あれは……何だと思う……?」
「さぁ……。もう俊洋も一人でご飯食べられるのにね?」
「特別な日ってのを凱央と悠助なりに考えたのかな?」
「かも知れないね」
理由は分からないが、お世話している凱央と悠助もだが、お世話されている俊洋も楽しそうだ。
ケーキのイチゴをせっせと俊洋の口に運ぶ二人のお兄ちゃんのケーキに、雄太と春香は鈴掛からもらったイチゴを素早く置いてやる。
「ン? イチゴフエタ……?」
「ニィニ、ボクノモ」
不思議そうな顔でカットされたケーキを見る凱央と悠助を見て、雄太達はクスクスと笑っていた。
「凱央達、お兄ちゃんしてたな」
「うん。俊洋って兄弟の中ではヤンチャっていうか、行動的なのにね」
子供達が寝静まった後、リビングのソファーで並んで話す。
「妹が出来たらどうなるんだろうな」
「妹を溺愛しちゃう甘々なお兄ちゃん達になるかもね」
「だろうな。そんな凱央達も見て見たい気がするぞ」
「うん。てか、雄太くん。女の子欲しいの?」
話の流れで言ったのか、本当に娘が欲しいのかと春香は訊ねた。
「え? あ……うん。一人ぐらい女の子がいても良かったかなって。でもさ、四人も子供がいたら、春香が大変だろ?」
「そうだね〜。でも、年子とか四つ子だったら大変だろうけど、もし今出来ても凱央は小学生だし、産まれる頃には悠助も幼稚園だから大丈夫かな?」
確かに女の子がいたら華やかになるだろうとは思う。金銭的にもキツい訳でもない。
隣には慎一郎宅があり、理保も喜んで世話を焼いてくれるだろう。
「けどさ、四人目も男の子だって可能性もあるだろ?」
「え……」
「確率は低いだろうけど、双子の男の子だったら五人の男の子の育児って大変じゃないか?」
可能性はゼロではない。双子も三つ子だって妊娠しない訳じゃない。
「さ……さすがに五人とか六人は大変かも……」
「だよな。いくら母さんの手助けがあっても春香の負担は、かなりだと思うんだよな」
少し悩んで春香はケラケラと笑い出した。
「どうした?」
「女の子が出来たら、雄太くんがお父さんみたいにならなかなって思ったら……プッ」
「……娘は嫁にはやらんってなりそう……」
梅野の『俺のマイスイートハニー』という言葉を思い出して、雄太もゲラゲラと笑った。




