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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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847話


 1月28日(日曜日)


 東京競馬場 11R 第31 回デイリー杯クイーンカップ G3 15:40発走 芝1600m


 雄太は一番人気で単勝オッズは1.5倍だ。出走頭数は九頭だから馬込みや4コーナーのさばきはフルゲートよりは楽だが、実際レースが始まると何があるかは分からない。


(いつでも、どんなレースでも気を引き締めていかないとな)


 出来れば早目に重賞を獲って心に余裕を持ちたいと思って、控室の外の馬達の周回を見ていた。


「雄太」

「へ? 何だよ、ソル」

「俺、負けねぇからな」


 真面目な顔で宣言をする純也に雄太は驚きマジマジとその顔を見た。


「俺、今年もリーディング狙う。雄太に負けたくないって、マジで思ってんだ」

「そっか。俺も負けないから。頑張ろうぜ」

「ああ」


 『頑張れ』じゃなく『頑張ろうぜ』と言える雄太がらしいと思った純也はニッと笑って、パドックに目をやった。




(雄太くん、頑張ってね)


 春香はテレビの画面に向かって祈っていた。子供達は相変わらずポンポンを手にして応援をしている。


 俊洋が二歳になり、ベビーゲートを片付けたテレビ前で並んでいる子供達の後ろ姿は雄太に似ている。


(産まれた時の事、つい昨日のように思い出せるのにな)


 そんな事を思っていると、次々と馬達はゲートに入っていっている。


 ガシャン


 聞き慣れた音がした後、雄太と純也は綺麗にスタートをきった。雄太は二番手につけ、純也は雄太をマークするように位置をとる。


 冬枯れの芝を蹴り上げて九頭の馬達は駆けている。


「パパっ‼ ガンバレっ‼」

「パーパっ‼」

「バンバエっ‼」


 凱央達の声援に力が入る。ポンポンを激しく振り足を踏み鳴らしている。


「ジュンニィチャンモガンバレっ‼」

「ジニィチャン〜っ‼」

「ジニィタンっ‼」


 正月に応援して欲しいと言っていた純也の応援をする子供達だ。


 だが、一瞬だけで雄太の応援に集中する。


「パパ〜っ‼ パパ〜っ‼」

「パーパっ‼」

「バンバエ〜っ‼」


 3コーナーを過ぎ、4コーナーに差し掛かると純也は雄太の横に並びかけた。


 画面に映る雄太と純也は競り合いを始めた。抜きつ抜かれつのデッドヒートに、春香の握った手に力が入る。


(雄太くんっ‼ 負けないでっ‼)


 競り合う雄太達の他にも他の馬が迫ってきた。


 雄太も必死で追う。純也も必死で追う。他の馬も縋り付いてくる。


 直線に向くと雄太は一気に前に出た。純也と他の二頭が追い縋る。


「パパっ‼ ガンバレっ‼」

「パーパっ‼」

「パッパァ〜っ‼ バンバエェ〜っ‼」


 ゴールまで後少しというところで、雄太の馬がグンッと前に出た。雄太が画面に大写しになる。


「そのまま行ってっ‼ 雄太くんっ‼」


 思わず声が出た春香が立ち上がると、雄太は一着でゴール板を駆け抜けた。


「やったぁ〜。雄太くんっ‼」

「パパ、カッタァ〜‼」

「ヤッタァ〜」

「パッパァ〜、パッパァ〜」


 ゴールの瞬間がスローモーションで映し出された。雄太は一着だったが、純也は四着だった。


(お疲れ様、雄太くん。お疲れ様、塩崎さん)


 はしゃぎまくる子供達を見ながら、春香は二人に拍手を送った。




「あぁ〜っ‼ もう一伸びして欲しかったなぁ〜。けど、よく頑張ったな」


 純也はスピードを緩めながら、馬の首筋をポンポンと叩く。


「良い感じだったな」

「雄太……。おめでとう」

「サンキュー」


 声をかけてきた雄太と純也はハイタッチをした。


「次は負けないかんな?」

「望むところだ」


 雄太と純也は並んでスタンド方向に向かって戻る。


「大歓声だな、雄太。G1並みじゃねぇ?」

「嬉しいよな。喜んでもらえるのって最高だな」

「この瞬間があるからやめらんねぇんだよ」

「分かる、分かる」


 雄太は深く深く頷いた。


 大きな拍手と歓声を浴びるたびに胸に広がる温かいものが込み上げる。


 雄太は観客席に向かって手を挙げる。その瞬間に地鳴りのような歓声が湧く。


(1月中に重賞獲れて良かったぁ……)


 ホッとしながら、雄太は胸の指輪に手をあてた。






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