第32章 雄太の頑張りと凱央の新生活 845話
1996年1月1日(月曜日)
雄太宅の地下の客間で、雄太達は目を覚ました。なんとも言えない爆音が室内に響いたからだ。
「雄太ぁ〜。腹減ったぁ〜」
「お前……。新年早々爆音だな……」
「純也ぁ……。お前の腹ってどんな構造になってんだよぉ……」
並べた布団の中から口々に文句が出る。
深夜までコレクションルームで呑んでいた為、雄太と梅野はもう少し寝たかったのだ。
「仕方ねぇだろ? 腹減ったんだもんよ」
「燃費の悪い奴だな……」
「だよなぁ〜」
ブツブツと文句を言う純也と、呆れたように苦笑いをうかべた雄太は体を起こし、つい習慣でストレッチをしてしまった。
梅野も腕立て伏せをしてハッと気づき、雄太と梅野は顔を見合わせ大笑いした。
「習慣って怖いですね」
「だなぁ〜」
「着替えたら雑煮とおせち料理食べましょう」
「やりぃ〜」
「楽しみだな〜」
雄太達は着替えてワイワイと階段を登った。
忘年会の日から五日後の12月30日の夕方、梅野が雄太宅を訪れたのだ。
「春香さん、急に来てごめんねぇ〜。何かふいに長野産のワインが呑みたくなってさ。で、長野まで行ってきたんだよぉ〜」
「……ワイン呑みたくて……? 長野まで行ってきた……?」
フットワークの軽い梅野に雄太は目を丸くした。コーヒーを淹れてきた春香も目を丸くした。
「コーヒーありがとう、春香さん〜。まぁ、途中雪で渋滞とかして六時間ちょっとかかったけど、雪景色も中々良かったぞぉ〜」
「へぇ〜」
梅野はお土産としてワインと野沢菜漬けなどを持ってきてくれた。しばらくすると、インターホンが鳴り春香がモニターを見ると純也がニカッと笑いながら手を振っていた。
「雄太くん、塩崎さんだよ」
「へ? あいつ、今年は一日まで実家に居るって言ってたのに……」
リビングに入ってきた純也は、ソファーに座っている梅野を見て目を丸くした。
「あれ? 何で梅野さんがいるんすか?」
「お前こそどうしたんだよぉ〜?」
「俺は、実家で餅つきしたから持ってきたんす。あ、春さん。これ、白餅とヨモギ餅っす」
純也はダイニングテーブルに持ってきた餅が入った包みを置いた。
「ヨモギ餅も? 嬉しいです。ありがとう、塩崎さん」
「うっす」
「塩崎さん。良かったら夕飯一緒にどうですか? 今日は鍋にしようかと思ってたんですよ」
「良いんすか?」
「もちろんです。あ、梅野さんも塩崎さんも予定がなかったらお泊りのお誘いしても良いてすか?」
つきたての餅をもらって嬉しそうに笑う春香は、純也と梅野を新年を迎えないかと誘った。
「え? 良いのぉ〜?」
「雄太、挨拶周りは?」
「今年は行かないんですよ。調教師方が皆旅行とかでいらっしゃらなくて」
純也達は所属厩舎の調教師から、年末年始はしっかり体を整えながらも、自由に過ごせば良いと言われたとの事で雄太宅でのんびり過ごす事にしたのだ。
既婚者の家庭に滞在するとなると気遣いがあると思われるのだが、今まで何度も泊まる事があったし、春香が泊まって良いと言うので甘える事になった。
純也と梅野は一度寮に戻り、着替えなどを取ってきて今に至る。
「あ、おはようございます。ゆっくり眠れました?」
「おめでとっす、春さん」
「おめでとう、春香さん〜」
にこやかに笑っている春香に新年の挨拶を伝えていると、ワラワラと子供達が寄ってくる。
「ジュンニイチャン〜。マサキニイチャン〜」
「アソボ〜」
「アソボ〜」
「純兄ちゃんと真希兄ちゃんは、これからパパとご飯だから、その後でな?」
自分に来ない子供達に苦笑いを浮かべた雄太は、キッチンへ向かった春香の手伝いを始めた。
「チビーズ、後で遊ぼうな」
「良い子に待っててくれよなぁ〜」
子供達は頷いて、またリビングで遊び始めた。
「ん? あ、雪だ……」
「ユキ? ア、ユースケ。トシヒロ。ユキダヨ」
「ユキ、フッテキチャ〜」
「ユキ〜」
雄太が窓の外を見て呟くと、、子供達は窓に駆け寄り張りついた。
三人の姿を見て、純也と梅野はこの後は雪遊びだなと、久し振りの雪にワクワクしながら朝食兼昼食を楽しんだ。




