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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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840話


 10月9日(月曜日)


 早朝から雄太宅のダイニングテーブルは、弁当箱が所狭しと並んでいた。


「うん。これで良いかな?」


 春香は粗熱がとれるまで休憩しようかと考えていた時、雄太が起きてきた。ドアを開けて雄太は目を丸くして固まった。


「おは……、え?」

「おはよう、雄太くん」

「凄い豪華な弁当だな」

「えへへ。張り切り過ぎたかな?」


 春香は苦笑いを浮かべる。


 数日前からどんな弁当にしようか色々と考えていたが、昨日の天気予報が晴れると言っていたから春香のスイッチが入ったのだ。


「食べ切れなかったらソルを呼ぼう」

「あはは。だってね、雄太くんが運動会を見に来られるって思ったらつい張り切っちゃったの」


 照れくさそうに笑う春香を雄太はそっと抱き締めた。そして、再度弁当箱に目をやる。


 おにぎりといなり寿司。だし巻き玉子と牛肉の野菜巻き、唐揚げ、タコさんウインナー、エビとブロッコリーの炒め物がぎっしり詰まっている。


「こっちのタッパーは?」

「フルーツだよ。ウサギちゃんリンゴとイチゴと豊水梨が入ってるの」

「俺、豊水好きだな」

「うん」


 子供達の好きな物と雄太の好きな物を詰め込んだ弁当箱を見て、起きてきた子供達は大はしゃぎをした。




 幼稚園に着き、ブルーシートを広げて座った悠助と俊洋はワクワクとしている。


「マーマ。ニィニ、ハシルノマダ?」

「まだだよ。ニィニが走るの楽しみ?」

「ウン」


 悠助は凱央の徒競走を見るのが楽しみなようだ。


「マッマ。ランチュ、ランチュ」

「俊洋はダンス見たいのね」


 俊洋は家で凱央が練習をしていたのを覚えていて踊り出した。


「あら、俊洋上手ね」

「ほう。上手いぞ、俊洋」

「お義母さん、お義父さん。おはようございます」

「父さん、母さん。ここ座って」


 踊る俊洋を見て笑っている慎一郎と理保に、雄太は座布団を差し出した。


 慎一郎と理保はブルーシートに上がり、座布団に座ると悠助が慎一郎の膝に乗り、俊洋は理保に抱きついた。


「晴れて良かったわ」

「そうだな。ん? そう言えば雄太は去年は見られなかったんだったな」


 そう言って慎一郎はニヤリと笑った。雄太の頬がピクピクと引きつる。


 昨年は運動会の当日は雨が降っていて、翌日に延期したのだ。雄太は仕事終わりに猛ダッシュしたが凱央の出番は終わっており、ショックで崩れ落ちたのだ。


「去年も凱央は頑張ってたぞ」

「父さん……。自分は見られたからって……」


 ニヤニヤしている慎一郎と苦虫を噛み潰したような顔をする雄太の二人をスルーして、理保は俊洋とかまってもらえなくなった悠助は手遊びを始めた。


 そんな五人の様子を春香は写真を撮っていた。




 運動会が始まり、雄太はプログラムを覗き込みながら凱央の出番をワクワクして待っていた。


「雄太くん。騎乗前より気合い入ってない?」

「え? あ、そんな風に見える?」

「うん。入れ込み過ぎって感じだよ?」


 雄太は前のめりになっていた事に気づき、何度も深呼吸をする。その様子を見て慎一郎が笑っていた。


「ハッハッハ。落ち着け、雄太。調教が足りてないか?」

「くぅ〜。父さんが余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》なのがムカつくぅ〜っ‼」

「儂は日頃の行いが良いから去年も見られたんだぞ?」


 鼻息荒く言う慎一郎だが、実際昨年の運動会を見られたのは、早朝にガッツリと仕事を終えていたからだ。


 調教の報告などを凱央の出番以外の時にトレセンに戻り受けたり、次の指示をしたりしていたからだ。


(俺は、馬に乗ったりしなきゃなんなくて見られてなかっただけなんだぁ〜っ‼ 仕事の合間合間に見ていた父さんにマウントとられるとかっ‼ 悠助の運動会は全部見るぞっ‼)


 調教師がずっとトレセンにいないと仕事がまわらないという事はない。実際、トレセン以外の仕事が多く調教師がトレセンにつめている訳ではないのだ。セリに行ったり、牧場に行ったりもする。


 騎手時代より忙し過ぎて体調を崩したりしないか理保が心配をしている。


(ま、良いか。父さんがこんなに笑顔でいてくれるなら)


 仏頂面をしているよりはずっと良いと思っていた。






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