837話
雄太達は鈴掛達と写真を撮ってもらったり、参列してくれた慎一郎達と話したりと和やかな時間を過ごした。
まだ夏の名残がある時期ではあるが、琵琶湖沿いは湖上を渡る風が気温を下げていてくれている。
「凱央、悠助、俊洋。よく頑張ったな」
「三人共、素敵な紳士だったわ」
参列していた調教師達との話しに一段落がついた慎一郎と理保が、ニコニコと笑いながら子供達が座っているベンチの傍にやって来た。
「ジィジ、バァバ。ボク、ガンバッタヨ」
「ジィジ〜。バァバ〜」
「ジィ〜。バァ〜」
子供達が祖父母を見つけキャッキャと声を上げる。ガーデンウェディングという事で、慎一郎はスーツで理保は淡い藤色ワンピースという洋装だ。
「三人共格好良かったぞ。あれぐらいの度胸があるなら勝利騎手インタビューも安心して見てられるな」
「父さん……」
嬉しそうに言う慎一郎の例え話に雄太は苦笑いを浮かべる。騎手として活躍し、調教師をしている慎一郎の心からの気持ちだろう。
慎一郎が騎手になる事を押しつけている訳ではないから強くは言えない。
(父さんの夢であり願いだもんな)
春香がプレッシャーを感じていないかと思い、雄太はチラリと見た。春香は柔らかな微笑みを浮かべていて、雄太の視線に気づいた小さく頷いた。
(春香は……分かってくれてるんだな……)
慎一郎には慎一郎の夢がある。可愛い孫に夢を見るのは悪いとは言えない。やめてくれとも言えない。
(仕方ない。押しつけたりせず見守ってくれてるなら黙っていよう)
そこに挨拶周りを終えた鈴掛と忍が近づいてきた。
「慎一郎調教師、理保さん。お疲れじゃないですか?」
「ん? 儂は大丈夫だぞ? 理保は孫と一緒に座っておれば良い」
ぶっきらぼうながら、さり気なく理保を気遣う慎一郎の優しさに雄太達は忍び笑いをする。
(素直に疲れる前に座ってろって言えば良いのに)
雄太は口元を隠しながら必死で笑いを堪えていた。
「鈴掛さん、鈴掛さん〜」
「何だ? 梅野」
「俺、鈴掛さんの後を継いで、しっかり後輩達の面倒を見て行きますぅ〜」
「お前……。俺が騎手を辞めるみたいな言い方すんな」
梅野がニマニマと笑いながら言うと、鈴掛が梅野のほっぺたを両手でつまみブニッと引っ張る。
「いふぁいへふぅ〜。ふひはへ〜ん」
我慢の限界を越えた雄太や純也が腹を抱えて笑い出す。つられて春香も涙をにじませかながら笑っていた。
子供達はツナサンドをマクマクと美味しそうに食べながら、鈴掛と梅野のじゃれ合いを見ていた。
「全く……。あ、春香ちゃん」
「え? あ、はい」
鈴掛が真面目な顔で春香の前に立った。その横に忍が立つ。
「誕生日、おめでとう」
「おめでとうございます、春香さん」
「あ……」
鈴掛と忍は後ろにいたスタッフから花束を受け取り差し出した。ピンクのガーベラとかすみ草が琵琶湖から吹く風に揺れている。
「俺が腰を痛めた時、疲れが限界を越えた時、春香ちゃんにはいっぱい助けてもらったよ。他にも……な」
「鈴掛さん……」
「俺の幸せを考えてくれって背中を押してくれてありがとう」
雄太と純也、梅野が顔を見合わせてコソコソと話す。
「雄太。春さん、いつ鈴掛とそんな話しをしてたんだ?」
「俺……聞いてないぞ?」
「もしかして、鈴掛さんがガチ凹みして雄太ん家にいた時じゃないかぁ〜?」
「かも知れないですね」
春香にとって鈴掛は親戚のお兄さんのような存在だと言っていた。春香なりに考えて励ましていたのだろう。
「これからも、色々と世話になる事があると思ってる。頼らせてくれよな」
「はい」
「春香さん。私とも仲良くしてくださいね。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、忍さん。こちらこそよろしくお願いします」
鈴掛達と雄太達は子供達と一緒に写真を撮ってもらった。
「春香」
「なぁに? 雄太くん」
雄太は春香を見詰める。
「改めて誕生日おめでとう。今日も明日も明後日も大好きだ」
「うん。私も雄太くんが大好き」
雄太達は並んで飾りつけの風船をもらってはしゃぐ子供達を見ていた。




