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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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825/858

835話


 8月27日から9月10日まで雄太はフランスでの騎乗があった。


(なんか……。フランス滞在というより、フランス遠征になってる気がするぞ……?)


 フランスでの騎乗がありながら、土日になると日本に戻りレースに出るスケジュールを組んでしまっていた。


 かなりハードではあるが、雄太自身が『いける』と判断し、フランスと日本を生き来する事を選んだ。


(フランスのレースに出させてもらえるのもありがたいんだけど、その間に日本での騎乗依頼もらえてるなんて、ありがたい以上の言葉がないよな)


 ただ、フランスでのG1を獲れてるからか、マスコミなどからのプレッシャーは半端ない。


(獲れんなら俺だって獲りたいっての。日本のG1だって、全制覇までどれだけあるってんだよ。年間のG1の数がいくつか分かってんのか?)


 口にこそ出さないが、愚痴りたい時もある。


(期待されるのは嬉しいけど、獲れて当り前ってのはなぁ……。期待するってのとプレッシャー与えるってのって紙一重……だよな)


 あれこれ考えながら、大きなトランクを持って日本行きの飛行機に搭乗した。




「雄太く〜ん」

「パパァ〜」

「パーパァ〜」

「パッパ〜」


 雄太の姿が見えた春香達は嬉しそうに手を振った。


「春香、凱央、悠助、俊洋〜」


 春香達の姿を見つけた雄太も大きく手を振った。


 レースに出る為にフランスには行っていたが、日本にも戻っては来ていたから長く会えてなかった訳じゃないが、それでも春香達に会えた事が嬉しい。


「ただいま。会いたかったぞぉ〜」

「ウン。パパ、パパァ〜」

「パーパ。アノネ、アノネ〜」

「パッパ、パッパ」


 パパっ子の子供達はワラワラと雄太に群がり、一人一人を優しく順番に抱き締めた。


 春香は、その様子を見てにこやかに笑っていた。


「さぁ、一緒に帰ろうな」

「ハ〜イ」

「ハイ、ハ〜イ」

「アイ」


 雄太は俊洋を抱き上げ、トランクを押しながら近づいてきた春香に笑いかけた。


「おかえりなさい、雄太くん。お疲れ様」

「ただいま」

「帰ったらマッサージするね」

「頼むな」


 雄太は春香の優しい笑顔に、胸の中にあったマイナスの感情が薄れていくのを感じる。


(本当、無邪気に笑うんだから)


 どれだけこの笑顔に助けられ、どれだけ勇気づけられただろうと思うと、春香と出会えて良かったと思った。




 子供達をチャイルドシートに座らせ、トランクを積み込む。雄太が運転席に向かおうとすると、春香が先に運転席に乗り込んだ。


「私が運転するから、雄太くんは子供達と話しててあげて」

「あ……。うん」


 雄太は後部のドアから乗り込み、子供達と話す。


 凱央の幼稚園の運動会の練習の話や俊洋がトウモロコシのぬいぐるみの上で寝てしまい、ぬいぐるみをヨダレまみれにした事。悠助が捕まえようとした蝉が顔面にオシッコをかけられた事。


「アノネ、アノネ。ジィジトモモチャンニアイニイッタンダヨ」

「パーパ。ボクモ、モモチャンニノッタヨ」

「え? 凱央は分かるけど、悠助もモモちゃんに乗ったのか?」

「トシヒロモノッタヨ」

「俊洋も……か?」


 雄太が日本にいないからと、慎一郎達は色々と気づかってくれたのだろう。


 フランスに行く前から『孫達に寂しい思いはさせん』と慎一郎は豪語していた。


(自分が孫と遊びたいだけだろうに……)


 確実にそうだろうとは思ってはいたが、自分が留守にしていても敷地内に慎一郎達がいてくれるのだから心強い。


「モモチャン、トシヒロガノッタラウゴカナカッタノ」

「そうか。悠助はちゃんと乗れたのか?」

「スコシダケ、アルイテクレタヨ」

「悠助、良かったな。俊洋もモモちゃんに乗れて良かったな」


 雄太に頭を撫でてもらい悠助も俊洋もパヤッと笑う。


(きっと父さんは舞い上がったんだろうな)


 慎一郎が凱央を騎手にしたいと思っているのは分かっている。しかも、凱央は雄太から見ても才能があるのではないかと思えているのだ。


(凱央だけでなく、悠助や俊洋まで馬に興味津々なんだからな)


 慎一郎の心境はどんなものかと思いながら子供達と話していた。







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