834話
5日、6日と函館で騎乗し、翌日7日に滋賀へと戻った。
「やっぱり滋賀は蒸し暑いなぁ……」
「うん。汗が流れて止まらないね」
服や送っても大丈夫な物以外を詰めてた大きなトランクをリビングに置いてエアコンを点ける。
涼しい風が吹いてきて少しホッとした時、電話が鳴って雄太が出てくれた。
「あ、はい。今戻ったばかりで……。はい、分かりました。……喜んでもらえて良かったです。……はい、伝えておきますね」
通話を切り子機を置いて振り返った雄太がニッコリと笑う。
「お義父さんからだったよ。札幌から送った荷物無事に届いたって」
「そっかぁ〜。良かった」
今日か、明日には函館から送った荷物がドッサリ届くだろう。驚くかも知れないなと思っていると、子供達がワラワラと雄太の周りに群がる。
「パパ、オフロイッショニハイロウ〜」
「ボクモ〜」
「パッパ〜、オウロ〜」
「ん? 風呂?」
雄太は大きなトランクの前で荷物を手にした春香を見詰める。
「荷物は私が片付けておくから大丈夫だよ?」
「でも、デカいトランクが二つだぞ?」
「じゃあ、手分けしよ。雄太くんはお風呂の準備をする。私は全員分の着替えとか準備する。で、家族全員でお風呂に入る。これでどう?」
雄太としては子供達と一緒に風呂に入るのも楽しみだが、春香が一緒だと嬉しさは倍増だ。
雄太は春香の提案に頷き、しゃがんで子供達と目線を合わせる。
「じゃあ皆で風呂に入ろう。凱央」
「ハイ、パパ」
「帽子やバッグを自分の部屋に持って行って、それから着替えを取ってくる。良いか?」
「ハイ」
凱央は右手を高く挙げた。
「悠助は、ママが準備してくれる悠助と俊洋の着替えを脱衣所に運ぶ。出来るか?」
「ハ〜イ。ボク、デキルヨ」
悠助はテッテッテと春香の傍にいき、フンスっと鼻息荒く気合いを入れた。
「俊洋はパパと一緒にお風呂掃除だぞ」
「アイ〜」
「じゃあ、行動開始〜」
凱央は荷物を持って自室へ向い、悠助は春香と一緒に着替えを取りに部屋に入った。雄太は俊洋をヒョイと抱き上げ、風呂掃除をしに風呂場に向かった。
雄太は風呂場の窓を開けて、俊洋と掃除を始めた。
「オトージ〜、オトージ〜」
俊洋はスポンジでゴシゴシとあちこち擦りながら歌っていた。北海道に出かける前に春香が掃除していたから汚れなく、俊洋にお手伝いを覚えさせる為の風呂掃除だ。
湯船に湯を掛け洗い流し、湯をはりながら、キャッキャと嬉しそうに浴室にきた凱央達と遊ぶ。
(夏ならではだよな。寒くないし湯を入れながら遊べるもんな)
春香が北海道で買った風呂のオモチャを持ってきてやると歓声が上がる。久し振りの家族揃っての風呂は最高に楽しかった。
雄太達は風呂を済ませ、慎一郎宅へ留守の礼をする為に訪れた。
「ジィジ。アル、ゲンキダッタヨ」
「そうか、そうか。会えて良かったな」
「ウン。アノネ、アルシロクナッテタノ」
凱央は慎一郎にアレックスと会えた事を一生懸命に伝えている。悠助と俊洋は雄太と手持ち花火をしていた。
孫達が帰ってきたらやろうと慎一郎が買ってきた物だ。
「俊洋。振り回しちゃ駄目だからな?」
「アイ」
「パーパ。ツギノツケテ」
「ああ」
春香と理保は、留守中に育った野菜の話で盛り上がっていた。
「キュウリも茄子も大きく育ってたのよ。糠漬けにするにはもったいないぐらいのもあって、焼き茄子にしたりしたわ」
「あ、近々函館で送った野菜が届くので楽しみにしててくださいね」
「ありがとう、春香さん」
慎一郎は、本当に凱央が馬を好きだと感じ、やはり騎手になってくれないかと考えていた。
(ポニーに乗るのも楽しそうに見えるしな。なによりしっかりと背筋を伸ばして乗れておる。雄太が乗馬を習いたいと言った時より上手い気がするんだが、親の欲目ならぬ爺の欲目か?)
騎手はかなり厳しい仕事であるとは重々承知はしている。
(だが……。やっぱり馬乗りになってもらいたい。儂が定年を迎える前にデビュー出来るのは凱央だけだしな)
調教師の慎一郎の夢は子供達と同じように大きく育っていた。




