833話
雄太は、金曜日の調整ルームに入るまで、調教がない日は子供達と遊んでやったりしていた。
ホテル脇から砂浜に下りて水遊びをしたり、貝殻を拾ったりと子供達は楽しそうだった。
金曜日の昼食後、雄太は調整ルームに向かう時に子供達を順番に抱っこしてやった。
「じゃあ、パパ頑張ってくるからな」
「ウン。パパガンバッテ」
「パーパ、ガンバレェ〜」
「パッパ、ガンガエ」
調整ルームに行ってしまう雄太を子供達は順番に抱っこしてもらい応援の言葉を口にする。
「いってらっしゃい、雄太くん」
「ああ。観光に行くなら気をつけてな」
「うん」
雄太は春香を抱き締めた後、函館競馬場の調整ルームに向かった。
北海道滞在も残すところ後四日となり、月曜日には滋賀へと戻る。その週末は、雄太はまた小倉へと行かなければならない。
今回の遠征はずっと家族揃ってだったから、きっと気力が満タンになり頑張ってくれるだろうと春香は思っている。
「じゃあ、お買い物に行って、晩ご飯食べに行くよ〜」
「ハ〜イ」
「ウン」
「アイ」
子供達が元気に手を挙げる。春香は満足気に頷いて、買い物に出かけた。
広いお土産物を扱っている店であれこれ見て歩いていた時だ。
「ママッ‼ ママッ‼ アレッ‼ アレミテッ‼」
「どうし……あ……」
凱央が大きな声で春香を呼んだ。凱央が指差しているのは大きな大きな白に近い芦毛馬のぬいぐるみだった。
「わぁ……。アルにそっくりだぁ……」
棚の上にあったぬいぐるみを凱央は真剣な顔をして見詰めていた。
普段、あれが欲しいこれが欲しいと言う事が殆どない凱央が、体の前で両手を握り締めながら春香を見上げた。
「ママ……ママ。アノネ……アノネ……。ボク……アノヌイグルミホシイ。タンジョウビ、プレゼントナクテモイイカラ……」
「凱央……」
「ダメ……?」
金があるのが当たり前で、強請れば何でも買ってもらえると覚えてしまわないようにというのが雄太と春香の考えだ。
それは、慎一郎達にも直樹達にも了承してもらっているから、凱央だけでなく子供達は何かを強請る事はほぼない。
春香は膝をついて凱央に笑いかける。
「うん。良いよ」
「ホント? ホントニイイノ?」
凱央の顔がパァーっと輝く。
「うん。でもこれは大き過ぎて、飛行機で持って帰るの大変だからお家に送ってもらおうね」
「ウンッ‼ ママ、アリガトウ」
「パパに会ったら、パパにもありがとう言わないとね」
「ウン」
春香は凱央の頭を撫でた。そして、悠助と俊洋のほうを見た。悠助達は、初めて見たお強請りをしている凱央の姿にポカンとしていた。
春香は二人の頭を撫でてやった。
「悠助も俊洋も何か欲しい物ある?」
「ボクモ? イイノ?」
「ウ?」
一瞬固まった悠助達はにこやかに笑う春香を見て、ようやく理解したのか売り場をぐるりと見渡した。
「どれでも良いよ。でも、一つだけね?」
「ハ〜イ」
「アイ」
悠助と俊洋を連れて売り場を周り、悠助は電池で動く馬のオモチャを選び、俊洋はトウモロコシ愛が暴走し大きなトウモロコシのぬいぐるみを選んだ。
(トウモロコシのぬいぐるみ……。雄太くん驚くだろうなぁ……。しかも、俊洋より大きなトウモロコシだもんなぁ……)
吹き出しそうになりながら、春香は子供達の発送の手配をした。大きなぬいぐるみだから段ボール箱もかなり大きい。
配達される時に春香が自宅にいないと慎一郎宅に迷惑をかける事になるのではないかと思うぐらいだ。
(もしもの事を考えて、一応荷物が届くかも知れないって連絡を入れておこうっと)
きっと、配達の人は雄太宅が留守だったら慎一郎宅に預けてくれるだろう。
(朝市で買ったじゃがいもとかトウモロコシ、お義父さんの所にも送ったし、お父さんもお母さんも喜んでくれるかな)
朝市で大きなミズダコにビックリしていた子供達を思い出すと笑いが込み上げてくる。
(さてと……、明日は雄太くんの応援しなきゃね)
今朝、朝市に行き少々寝不足な春香達は、早目にベッドに入った。




