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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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830話


 車に乗った雄太達は、ゆっくりと牧場を後にした。春香はずっと牧場のほうを見ていた。


(春香、カームが覚えててくれて良かったな)

「よ〜し。ご飯を食べたら、今度はアルがいる牧場に行くぞ〜」


 雄太が言うと凱央がチャイルドシートから身を乗り出す。


「アル? パパ、アルニアエルノ? ホント?」

「ああ。アルが待ってるぞ〜」


 春香は、雄太が自分を元気づけるように明るく話しているのが分かった。


(あ、駄目だ。せっかく連れてきてもらったんだから楽しまないと)

「凱央はアルが大好きだもんね」

「ウン。ボク、アルガダイスキ〜。ママモ、アルスキダヨネ」

「うん。ママもアルが大好きだよ」


 春香が笑って言うと、悠助も嬉しそうに話す。


「ボクモ〜」

「ンマタン、ンマタン」


 毎日のように凱央がビデオで見ているアレックスを、いつの間にか俊洋も好きになっていた。


 悠助の芦毛のアレックス似のぬいぐるみに抱きついて昼寝をしたりしているぐらいだ。


「楽しみだね〜」

「ウンッ‼」


 車内は一気にキャッキャと賑やかになる。雄太はニコニコと笑う春香にホッとした。




 食事をした後、アレックスがいるけい養牧場に向かった。


「アルって、トレセンにいた頃から段々と白くなってたよね? もう真っ白になってたりするのかな?」

「俺も気になって訊いたんたけど、それなりに白くなったってさ」


 駐車場で子供達を降ろしながら雄太と春香は話す。一番に降ろされた凱央はウズウズしていた。


 それに気づいた雄太が、凱央の前で身をかかめた。


「凱央。馬に会う時の注意は分かってるな?」

「ウン。オッキナコエヲダサナイ。ハシッチャダメ。ウマニテヲダシタリシナイ」

「よし、良い子だな」


 雄太は凱央の頭を撫でる。凱央は大きく頷き、大きく息を吸って気持ちを落ち着けていた。


(凱央、アルに会いたかったんだもんね)


 そう思う春香も、凱央に注意をしている雄太もアレックスには会いたかった。


 カームもアレックスもラストランを走らせてやれなかったという思いがあると雄太は言っていた。


「よし、行こうか」

「ハ〜イ」

「アイ」


 雄太に言われて、悠助と俊洋は手を上げてこたえ、凱央は深く頷いた。


 牧場長に挨拶をして、ゆっくりと歩いて種牡馬がいる馬房へと向かった。


「アル」


 馬房から顔を出しているアレックスは、凱央の声を聞いて耳をこちらに向けた。


「アル。ボク、アイニキタヨ。アル」


 走り出したい衝動にかられながらも、凱央はゆっくりと足元を見ながら歩いている。アレックスは凱央を見ながら前搔きを始めた。


(アルはちゃんと凱央の事を覚えてるんだな)


 アレックスの馬房の前で凱央は両手を上げて一生懸命話していた。アレックスは首を下げながら、凱央を優しい目で見ている。


 雄太達もアレックスの馬房に近づいた。それを確認した凱央は雄太を見上げた。


「パパ。パパ。ハヤクアルヲナデサセテ」

「ああ。分かったよ」


 雄太は俊洋を春香に任せ、凱央をヒョイと抱き上げた。凱央はアレックスに手を伸ばした。


 小さな手がアレックスの鼻面に触れる。


「アル。イイコニシテタ? ボクネ、モモチャンニノッテルンダヨ」


 会えたら話したい事がいっぱいあったのだろう。色々話していると、凱央の目が赤くなってきた。


(凱央……。本当にアルに会いたかったんだね)


 春香は、そんな凱央の姿を見て自分のように思えた。


「ボク……。ボク……ネ。ズット、アルニアイタクテ……」


 凱央は感極待ったのか、アレックスの顔に抱きついた。小さな小さな肩が小刻みに震えている。


「マーマ。ボクモナデタイ」


 春香は俊洋を抱いていたからどうしようかと思っていたら、近くにいた牧場スタッフが声をかけてくれた。


「僕で良かったら抱っこしましょうか?」

「良いんですか?」

「良いです、良いです。僕にも、この子ぐらいの子供がいるんで」


 にこやかに笑って悠助を抱き上げ、アレックスの首筋を撫でさせてやってくれた。


 その間ににも、凱央は涙を我慢しながらもポツリポツリと話していた。







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