823話
7月27日(木曜日)
春香と子供達はウキウキと北海道へ向かっていた。雄太は14日から小倉に滞在している。
「荷物は先にホテルに送るし、凱央も悠助も手がかからないし大丈夫だよ」
「ん〜。それはそうだけどさ」
「大丈夫だってば。任せて」
騎乗依頼の関係で一緒に行けなくなる状況になってしまって雄太は春香と相談した時に、普段は童顔に見える春香が逞しい母親の顔に見えた。
北海道に長期滞在する予定だったが、雄太が行こうと考えた後に小倉での騎乗依頼が入ってしまった。
(どうしようか……。でもな……。来年ににったら凱央は乗馬教室に行くし、長期滞在は出来ない……。父さん達に見ててって言えるけど、それじゃ凱央をアルに会わせてやれなくなるんだよな……)
悩んで悩んで雄太は小倉に遠征後、春香達が先行した北海道へ飛び合流する事にした。
(春香と付き合えた後の北海道遠征の時みたいに一ヶ月缶詰めでも良いのにさ)
二週間の小倉遠征の後、北海道に向い札幌と函館で騎乗後、また小倉に戻らなければならない雄太は調整ルームでゴロゴロとしていた。
飛行機にテンションが上がった子供達だが、数日前から飛行機に乗ったら静かにするように言ってきかせたからか、子供達はウズウズしながらも大人しくしていた。
「春さぁ〜ん。チビーズ〜」
「塩崎さん」
「ジュンニイチャン〜」
「ジニィ二〜」
空港まで出迎えに来てくれていた純也が大きく手を振っている。
「ありがとう、塩崎さん」
「お安い御用っすよ」
春香は右腕で俊洋を抱っこをして、左手で凱央と手を繋ぎ、凱央は悠助と手を繋いでいる。
「ジニイタン、アッコ」
「え? あ、抱っこして欲しいのか。よし、こい俊洋」
純也は両腕を伸ばした俊洋を受け取る。
「約束したお昼ご飯、考えててくれました?」
「ああ、梅野さんが予約してくれて店で待っててくれてるっす」
「ありがとう。楽しみですね、北海道は何でも美味しいから」
「そっすね。何食っても感動するっす」
ワイワイと話しながら、雄太が予約していてくれたレンタカーに乗り、梅野が待っていてくれる店に向かった。
「春香さ〜ん、チビーズ〜」
「マサキニイチャン」
「マーニィニ」
柔らかい笑顔で迎えてくれた梅野は、子供達の為にハイチェアを準備してもらっていてくれた。
「お疲れぇ〜。待ってたよぉ〜」
「予約ありがとうございます。良い雰囲気のお店ですね」
「俺のお気に入りなんだよ。チビーズメニューも頼んであるからぁ〜」
雄太がずっと言っている事が分かると春香は思った。
『梅野さんは見た目もイケメンだけど、内面もイケメンなんだよな。気遣いが半端ないんだよ。しかもさり気なくて、押しつけがましくなくてさ。俺、あんな大人になりたい』
春香もイケメンがどうとかという事よりも、人に優しく出来て子供達を可愛がってくれるし、春香の相談にもちゃんとのってくれていたから、親戚のお兄さんのように思っていた。
「マサキニイチャン」
「ん? 何だ、凱央ぉ〜」
「マサキニイチャン、カッコイイ」
梅野は目が真ん丸になった。もちろん春香も純也もだ。
「と……凱央ぉ……。そんなセリフどこで覚えて来たんだよぉ……」
「ヨウチエンノセンセイガイッテタ」
純也がヒクヒクと頬を引きつらせる。
「梅野さん、凱央の幼稚園の先生にまで……」
「誤解を招くような事を言うなよぉ〜」
春香は必死で笑いを堪えていた。
「凱央、真希兄ちゃんは格好良いって広めておいてくれぇ〜」
「ウン」
「梅野さん……。何考えてるんすかぁ〜」
「俺は、世界中のレディに愛を……」
凱央がキョトンとした顔で梅野を見ている。
「オレハセカイ……? アイ……?」
「わぁ〜っ‼ 凱央、覚えなくて良いからぁ〜っ‼ そんなの覚えさせたら、雄太に馬で引き摺られるぅ~っ‼」
春香の我慢が限界に達する寸前に料理が届いた。
「マッマ、ゴアン」
「あ、はいはい」
子供達には北海道の牛乳を使ったグラタンやミニサイズのポテトコロッケやコーンクリームコロッケなどが用意されていて、子供達のテンションはマックスになった。




