822話
ギラギラと太陽が照りつける夏の日に子供達が喜ぶ事と言えば水遊びだ。
更にはエアコンが効いている室内にいるばかりではと思い、春香はウッドデッキに大きなビニールプールを出して水を入れていた。
ジャパジャパジャパ……。
「凱央、悠助、俊洋。もう少し待っててね」
「ハ〜イ」
「アイ」
「ン」
子供達は何度もプールの水がいっぱいになるのをウキウキしながら何度も見にきていた。
待ちながら水が半分ぐらいにしか入っていないプールに、風呂場からオモチャを運んできてポイポイと投げ入れている。
「凱央、悠助。ママ、水着とバスタオル準備してくるから俊洋を見ててね」
「ハ〜イ」
「アイ」
子供達は水面をペシペシと叩きながら返事をする。
凱央は幼稚園が夏休みになってから、朝起きてプランターに植えてある野菜の水やりを手伝ってくれたり、春香が家事をしている間は悠助と俊洋の面倒を見てくれている。
14日から雄太が小倉遠征でいないから凱央がいてくれて春香は助かっていた。
「ママ〜。オミズイッパイニナッテキタヨ」
「そうだね。じゃあ、お着替えしようね」
春香は俊洋の着替えをさせる。凱央は自分で着替え、悠助の着替えを手伝ってやっている。
着替え終わった子供達とウッドデッキに出た春香は、眩しい日差しに目を細めた。
夏の日差しが凱央達が跳ね上げる水飛沫をキラキラと輝かせている。
(健人くん、頑張ってるかなぁ……)
夏になると健人は凱央達とよくビニールプールで遊んでいたのだ。その後、リビングで並んで昼寝をしていた姿は凱央達のお兄ちゃんにも見えたし、春香は本当の弟のようだと思っていた。
数ヶ月前千葉へ向かう日、健人がガッツポーズをした後に大きく手を振っていた。
全寮制である競馬学校は入学してしまえば、簡単には帰ってこられない。そもそも千葉県からだと日帰りは難しいのだ。
(来年、実地研修で栗東に戻ったら遊びに来るって言ってたけど、それまで怪我しないで頑張って欲しいな)
生意気だけど、どこか憎めない。そういったところは純也に似ているとトレセン内で言われている。
『俺がこんな生意気な子供と似てるとかショックな事を言わないでくださいっす‼』
『俺がデビューしたら直ぐG1獲ってやるからな。純也より先にG1獲ってやるから覚悟しとけ〜』
純也と健人のじゃれ合いはトレセン内でも笑いのタネになっている。
健人本人は憧れて目標にしてるのは雄太だ。雄太もライバルが出来る事を心待ちにしている。
「ママ。ケントニイチャンハ、イツアソビニキテクレル?」
「凱央が学校に行くようになってからだよ」
「ガッコウ? ケントニイチャンガイッタトコロ?」
「凱央が行く学校は幼稚園の近くのところだよ。健人くんと同じ学校に行くとしたら、もっともっと大きくなってからね」
幼稚園児にはまだ少し難しい話だろうと思う。
「えっとね……。あ、凱央がモモちゃんに一人で上手に乗れるようになったら会えるよ」
「ウン。ボク、ガンバルネ」
「うん。ママ応援するからね」
来年、凱央が小学生になったら乗馬教室に通う事になっている。もちろんサラブレッドではない。
小野寺も凱央の乗馬の才能があると思ってくれていて、春になる事を心待ちにしてくれている。
「ボクモイケユ?」
「悠助は、もう少し大きくなったら行けるよ」
「ウン」
(凱央は、やっぱり雄太くんの背中を追いかけていくのかな? 悠助は凱央の背中を追いかけていくとか)
子供には子供の人生があるからと、無理強いはしていない。
好きな事、やりたい事、興味のある事を世間の常識から外れない程度にやらせていた。
(色んな事を経験させてやって、自分の人生を選ばせてやりたいんだよね。私も自分の人生を選んで生きてきたから)
健人が競馬学校に行った後、子供達はどんな風に育っていくのだろうと雄太と何度も話し合った。
(健人くんが雄太くんを追いかけていって、その後を凱央が追いかけていって……。その後を悠助が追いかけていくとか……)
想像すると人生とは面白いなと思った春香は笑みが溢れた。




