第31章 北の大地での再会と出会い 818話
六月の二週目に雄太は北海道での騎乗があった。
調教もして欲しいと言われ、木曜日から北海道に来ていた雄太と鈴掛は競馬場近くの店で買い物をしていた。
「あ、鈴掛さん。これ美味そうだと思いません?」
「ん? どれどれ……。お、美味いな」
海鮮の珍味を試食品を口にして顔を見合わせて頷き合う。
「酒のアテにピッタリだな。二瓶……いや三瓶買っておこう」
「俺も父さんに送ってやろうかな」
海産物や北海道産の牛乳を使ったお菓子などを見て歩いていると、あれやこれやと買いたくなってしまい、買い物かごにはもういくつも入っている。
「あれって純也がチビーズに送ってやった奴だよな?」
「そうです、そうです」
鈴掛が指さしたのは大きな馬のぬいぐるみだ。
「雄太ん家には何頭馬がいるんだ?」
「えぇ……。手押し車とか合わせたら三十は軽く超えてるんじゃないですかね?」
「あちこちに馬が転がってるもんな」
凱央が小さな時に気に入っていたタオル生地のカラフルな馬に始まり、手押し車や大きなぬいぐるみなどがあり、雄太自身が数を数える事がない。
凱央は自分の部屋に持ち込んでいるのもあるから、全体の数は把握が出来ないというのが確かかも知れない。
「あえて馬を選んでる訳じゃないですけど、最近は凱央も悠助も馬を選ぶんで増えるんですよね」
「成る程な。雄太ん家だと、ウサギやクマとかがレアみたいなもんだな」
「子供は男の子ばかりの家なのに、ぬいぐるみが多いのも不思議だと言われますけどね」
自宅周辺には鉄道が走っておらず、また凱央達は興味がないのか列車のオモチャなどを欲しいとは言わなかった。
「そう言えば、この前春香ちゃんが段ボールで馬運車を作ってたって慎一郎調教師が言ってたけど」
「ええ。かなりの大物でしたよ。仕事から帰ったらリビングにあって、俺マジで固まりましたよ」
段ボールをいくつも繋げ、真っ白な模造紙を貼り付けた物がデンッと置いてあったのだ。
『これ……何……?』
目を丸くした雄太が見詰めていると、手押し車に乗った俊洋が後部ハッチを開けて入っていったのだ。
『あ……もしかして馬運車……?』
春香が頑張って作ったものではあったが段ボール製だったので、一週間もするとボロボロになってしまっていた。
「俊洋が入っても大丈夫なように作り直したんだけど、それも二週間保たなくて、三号車を作ってましたね」
「子供って飽きるまで欲しがるからな。春香ちゃんも大変だ」
春香が一生懸命に段ボールを貼り付けたりしているのを想像すると、鈴掛は笑いが込み上げてくる。
(同年代と比べて稼ぎは良いのに、手作りの段ボール馬運車とか……。春香ちゃんは春香ちゃんなんだよな)
きっと子供達とワイワイと作っているのも幸せなのだろうと思った。
「一号車の時ですけど、庭に置いて遊ばせていたら母さんを驚かせてしまったんですよ」
「へ? 何でだ? 段ボール馬運車だろ?」
「それが、悠助と俊洋が馬運車の中にバッタを山盛り入れてて……」
春香が草むしりをしながら、庭で遊んでいた悠助達を見ていた時だ。
庭のあちこちに行っては馬運車に近づくを繰り返していた孫達の行動を不思議に思った理保が庭に出てきたのだ。
そのタイミングで風が吹き、段ボール馬運車が飛ばされるかもと手を伸ばして押さえた理保の顔面に無数のバッタが飛びついたのだ。
「無数のバッタ……。理保さん、そりゃ驚いただろうな」
「ええ。言葉にならない声を上げてましたよ」
大慌てで理保を助け起こした春香と悠助と俊洋に、一瞬固まった理保が大笑いをして、今度は春香達が固まったと言っていた。
「理保さん、笑ってたのか?」
「ええ。母さんは野菜作りしてたりするからバッタやミミズは大丈夫なんですけど、段ボールからバッタが大量に出てきて驚いただけだったんですよね」
「ハッハッハ。理保さんらしいな」
雄太も思い出し笑いをしていた。
そして、今頃春香達と理保が庭で遊んだりしているかも知れないと思い、たくさんの北海道の美味い物を送ろうと思っていた。




